のんびりと古代史

自分なりに「削偽定実」を試みる。

遣新羅使(天平八年)の歌

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引津亭に舶泊して

遣新羅使船は唐泊(糸島半島東側)で三泊した後、
出航したものの再度玄界灘の荒波に押し戻されて、
今度は糸島半島の西側の引津湾に避難した。
引津湾は筑前富士と呼ばれる可也山の西部に展開している。
遣新羅使船が泊まった引津亭は現在の船越辺りと言われている。
船越の綿積神社には万葉碑が立っている。
順調に航海することができない新羅使たちの不安感は増してきて、
妻恋の思いはさらに募ったようだ。
 
「引津亭(ひきつのとまり)に舶泊して作れる歌七首」
 
3674 草枕 旅を苦しみ 恋ひをれば
                   可也の山べに さを鹿鳴くも  (大判官)
     ( 久左麻久良 多婢乎久流之美 故非乎礼婆 可也能山邊尓 草乎思香奈久毛)
拙訳:苦しい旅が続く中で妻を恋しく思っていると、
    可也山の山辺からせつない牡鹿の声が聞こえてきた。
3675 沖つ波 高く立つ日に あへりきと
                    都の人は 聞きてけむかも  (大判官)
     (於吉都奈美 多可久多都日尓 安敝利伎等 美夜古能比等波 伎吉弖家牟可母)
拙訳:沖の波が高く立つ日に当たってしまったと都の人は聞いているのでしょうか。
 
3676 天飛ぶや 雁を使に 得てしかも
                    奈良の都に 言告げやらむ
     (安麻等夫也 可里乎都可比尓 衣弖之可母 奈良能弥夜故尓 許登都牙夜良武)
拙訳:空を飛ぶ雁を使いにすることができても、奈良の都にどう報告したらよいのだろうか。
 
3677 秋の野を にほはす萩は 咲けれども
                    見るしるしなし 旅にしあれば
     (秋野乎 尓保波須波疑波 佐家礼杼母 見流之留思奈之 多婢尓師安礼婆)
拙訳:秋の野に萩は咲き始めただろうが旅の途中なので見てもどうしようもない。
 
3678 妹を思ひ 寝(ゐ)の寝(ぬ)らえぬに 秋の野に
                    さを鹿鳴きつ 妻おもひかねて
     (伊毛乎於毛比 伊能祢良延奴尓 安伎乃野尓 草乎思香奈伎都 追麻於毛比可祢弖)
拙訳:妻を思って寝られない夜に妻を求めて鳴く牡鹿のせつない声が聞こえてくる。
 
3679 大船に 真楫(まかぢ)繁(しじ)貫(ぬ)き 時待つと
                    吾れは思へど 月ぞ経にける
     (於保夫祢尓 真可治之自奴伎 等吉麻都等 和礼波於毛倍杼 月曽倍尓家流)
拙訳:船に櫂を通して出発の準備をして時を待っていると思っていたが、
    月日だけが経っていく。
 
3680 夜を長み 寝(ゐ)の寝(ぬ)らえぬに あしひきの
                    山彦響(とよ)め さを鹿鳴くも
     (欲乎奈我美 伊能年良延奴尓 安之比奇能 山妣故等余米 佐乎思賀奈君母)
拙訳:(妻を思って)寝付くことができない長い夜に山から牡鹿の妻を求めて鳴く声がこだましてくる。

     
遣唐使も遣新羅使も博多湾の荒津浜を出港したが嵐に見舞われて
唐泊に三日間滞在した。
博多湾を出ることはできず、糸島半島の東岸で日和待ちとなったようだ。
唐泊の漁村センターに韓亭で詠まれた六首の和歌が刻まれた歌碑がある。
 
「筑前国志麻郡の韓亭に到りて、舶泊して三日を経たり。
時に夜月の光皎皎(あきらか)にして流照(おして)りき。
たちまちこの華に対ひて旅の情悽(いた)み噎(むせ)び、
各心緒(こころ)を陳べていささか以ちて裁(つく)れる歌六首」
 
3668 大君の 遠(とほ)の朝廷(みかど)と 思へれど
                  け長くしあれば 恋ひにけるかも
                            (大使:阿倍朝臣継麻呂)
     (於保伎美能 等保能美可度登 於毛敝礼杼 氣奈我久之安礼婆 古非尓家流可母)
拙訳:ここは天皇ゆかりの遠の朝廷の大宰府だとは思ってはいるが、
    旅もずいぶん長くなったので妻のことが恋しく思われてくる。
 
3669 旅にあれど 夜は火ともし をる吾れを
                      闇にや妹が 恋ひつつあるらむ
                                    (判官)
     (多妣尓安礼杼 欲流波火等毛之 乎流和礼乎 也未尓也伊毛我 古非都追安流良牟)
拙訳:旅の途中でも夜は火をともしている私を、闇の中で妻は恋しく思ってくれているだろうか。
 
3670 韓亭(からとまり) 能許(のこ)の浦(うら)波 立たぬ日は
                       あれども家に 恋ひぬ日はなし
     ( 可良等麻里 能許乃宇良奈美 多々奴日者 安礼杼母伊敝尓 古非奴日者奈之)
拙訳:筑紫館から見て能古島の浦に波が立たない日はあるけれども、
    家に残してきた妻を恋しく思わない日はない。
    ※唐泊の東林寺にこの歌が刻まれた歌碑がある。
 
3671 ぬばたまの 夜(よ)渡る月に あらませば
                      家なる妹に 逢ひて来ましを
    ( 奴婆多麻乃 欲和多流月尓 安良麻世婆 伊敝奈流伊毛尓 安比弖許麻之乎)
拙訳:もし私が夜空を渡る月だったなら、家に残してきた妻に逢ってくることができるのに。
 
3672 ひさかたの 月は照りたり いとまなく
                     海人の漁火(いさり)はともしあへり見ゆ
     (比左可多能 月者弖利多里 伊刀麻奈久 安麻能伊射里波 等毛之安敝里見由)
拙訳:月は夜空に照っている。海人たちの漁火は絶え間なくともしているのが見える。
 
3673 風吹けば 沖つ白波 かしこみと
                     能許の亭に あまた夜ぞ宿(ぬ)る
     (可是布氣婆 於吉都思良奈美 可之故美等 能許能等麻里尓 安麻多欲曽奴流)
拙訳:風が吹くと沖に立つ白波が危険になると恐れて、能許の亭にもう何日も泊まっている。
 

 

荒津の浜に月を望みて

遣新羅使一行は筑紫に何日滞在したのだろうか。
ここからは外海に出るので、
慎重に天候や潮の状態を確認しなければならなかったのだろう。
奈良の都への思いは相変わらずのようだが、
少し心の余裕が出てきているように感じられる。
 
「海邊に月を望みて作れる歌九首」
 
3659 秋風は 日に異(け)に吹きぬ 吾妹子は
                    いつとか吾れを 斎(いは)ひ待つらむ
                                  (大使の第二男)
     (安伎可是波 比尓家尓布伎奴 和伎毛故波 伊都登可和礼乎 伊波比麻都良牟)
拙訳:風は日増しに秋らしくなってきた。
    妻は私の無事を祈っていつ帰ってくるのかと待っていてくれるのだろう。
 
3660 神さぶる 荒津(あらつ)の崎に 寄する波                                      間(ま)無くや妹に 恋ひわたりなむ
                                  (土師稲足)
     (可牟佐夫流 安良都能左伎尓 与須流奈美 麻奈久也伊毛尓 故非和多里奈牟)
拙訳:神々しい荒津の崎に寄せてくる波のように途切れることなく妻を恋いつづけている。
※荒津の崎:この時代には大濠公園のあたりまで海岸線がきていて荒津の浜といわれていた。
        浜の近くには筑紫館が迎賓館としてあった。(鴻臚館の前身)
        遣唐使、遣新羅使はここから旅立ったという。
        福岡市中央区の西公園鶴見展望台にこの歌の載る万葉歌碑がある。
 
3661 風の共(むた) 寄せ来る波に 漁(いさり)する
                    海人(あま)娘子(をとめ)らが裳の裾濡れぬ
     (可是能牟多 与世久流奈美尓 伊射里須流 安麻乎等女良我 毛能須素奴礼奴)
拙訳:風と共に寄せてくる波に漁をしている海人の乙女たちの衣の裾が濡れている。
 
3662 天の原 振り放け見れば 夜ぞ更けにける 
                よしゑやし 一人寝る夜(よ)は 明けば明けぬとも
                                          (旋頭歌)
 (安麻能波良 布里佐氣見礼婆 欲曽布氣尓家流 与之恵也之 比等里奴流欲波 安氣婆安氣奴等母)
拙訳:大空をはるかに仰ぎ見れば夜がずいぶん更けてきたようだ。
    たとえひとり寝する夜がこのまま明ければ明けたでよいではないか。
3663 わたつみの 沖つ縄海苔 来る時と
                      妹が待つらむ 月は経(へ)につつ 
     (和多都美能 於伎都奈波能里 久流等伎登 伊毛我麻都良牟 月者倍尓都追)
拙訳:沖の縄海苔をたぐるように、私が帰ってくると妻は待っていることだろう。
    月日はどんどん経っていくが。
 
3664 志賀の浦に 漁(いさり)する海人 明け来れば
                      浦廻(うらみ)こぐらし 楫の音聞こゆ
     (之可能宇良尓 伊射里須流安麻 安氣久礼婆 宇良未許具良之 可治能於等伎許由)
拙訳:志賀浦で漁をする海人は夜が明けると海岸沿いに来るらしく、櫂を漕ぐ音が聞こえてくる。
 
3665 妹を思ひ 寝(ゐ)の寝(ぬ)らえぬに あかときの
                      朝霧ごもり 雁がねぞ鳴く
    (伊母乎於毛比 伊能祢良延奴尓 安可等吉能 安左宜理其問理 可里我祢曽奈久)
拙訳:妻を思って寝られないまま夜が明けると、朝霧が立ち込めて雁の声が聞こえてくる。
3666 夕されば 秋風寒し 吾妹子が
                      解き洗ひ衣(ころも) 行きて早着む
     (由布佐礼婆 安伎可是左牟思 和伎母故我 等伎安良比其呂母 由伎弖波也伎牟)
拙訳:夕方になると秋風が寒く感じる。妻が解き洗いしてくれた衣を帰って早く着たいものだ。
 
3667 わが旅は 久しくあらし この吾が着(け)る
                        妹が衣の 垢(あか)つく見れば
     (和我多妣波 比左思久安良思 許能安我家流 伊毛我許呂母能 阿可都久見礼婆)
拙訳:私の旅も出発してからもう何日も過ぎてしまったなあ。
    着ている妻の衣が汚れてしまったのを見ると。

七夕に天の川を仰いで

遣新羅使たちは筑紫国志賀浦に停泊中に七夕を迎えたようだ。
天平8年(736年)7月7日は、西暦では8月17日(金)になる。
 
「七夕(なぬかのよひ)に、天漢(あまのがは)を仰ぎ観て、
各所思を陳べて作れる歌三首」
 
3656 秋萩に にほえるわが裳 ぬれぬとも
                   君が御船の 綱し取りてば   
                                (大使:阿倍朝臣継麻呂)
     (安伎波疑尓 々保敝流和我母 奴礼奴等母 伎美我美布祢能 都奈之等理弖婆)
拙訳:秋萩の香のする衣が海水で濡れてしまっても、天皇の御船をあずかる身としては悔いはありません。

3657 年にありて 一夜(ひとよ)妹にあふ 彦星(ひこほし)も
                     吾れにまさりて 思ふらめやも
     (等之尓安里弖 比等欲伊母尓安布 比故保思母 和礼尓麻佐里弖 於毛布良米也母)
拙訳:年に一度だけ愛する人に逢う彦星も私以上に思っているのだろうか。(いえいえ私の方が強く思っています)
 
3658 夕月夜 影立ち寄り合ひ 天の川 
                     漕ぐ舟人を 見るが羨(とも)しさ
      (由布豆久欲 可氣多知与里安比 安麻能我波 許具布奈妣等乎 見流我等母之佐)
拙訳:月の光で天の川を舟で渡って寄り添う影が見える。うらやましい限りだ。

筑紫館にて

遣新羅使船は漂流し豊前国分間浦に避難した後、筑紫まで行き、少しゆっくりする時間ができたようだ。
 
「筑紫館に至り遙に本郷を望み、悽愴みて(いたみて)作れる歌四首」
 
3652 志賀の海人(あま)の 一日もおちず 焼く塩の
                      辛き恋をも 吾(あ)れはするかも
     (之賀能安麻能 一日毛於知受 也久之保能 可良伎孤悲乎母 安礼波須流香母)
拙訳:志賀の海の海人たちは一日も欠かさず塩を焼くという。その塩のような辛い恋を私はしているのだろうか。
 
3653 志賀の浦に 漁する海人 家人(いへひと)の
                      待ち恋ふらむに 明(あ)かし釣る魚
     (思可能宇良尓 伊射里須流安麻 伊敝比等能 麻知古布良牟尓 安可思都流宇乎)
拙訳:志賀の浦で漁をしている海人たちは家族が帰りを待っているのに、夜が明けるまで魚釣りをしている。
 
3654 可之布江(かしふえ)に 鶴(たづ)鳴き渡る 志賀の浦に
                        沖つ白波 立ちし来(く)らしも
     (可之布江尓 多豆奈吉和多流 之可能宇良尓 於枳都之良奈美 多知之久良思母
      一云、美知之伎奴久良)
拙訳:香椎川に鶴が鳴きながら飛んでくる。志賀の浦の沖の方に白波が立ってきたらしい。
 
3655 今よりは 秋づきぬらし あしひきの
                       山松かげに ひぐらし鳴きぬ
    (伊麻欲理波 安伎豆吉奴良之 安思比奇能 夜麻末都可氣尓 日具良之奈伎奴)
拙訳:ようやく秋になってきたようだ。山の松の陰からひぐらしの声が聞こえてくる。

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