立花裕人のFREEWAY

フリーキャスターで、作詞家としても活動する立花裕人のブログです!

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 翌日のスタジオが終わると、私は再び女川に行くことになった。現地の漁業が受けた被害を具体的に取材するためだった。

 羽田空港に着くと、私の頭の中に昨日取材で出てきたコトバが浮かんだ。「歯ブラシ、お菓子」。あっ、そうだ。女川に着いたら、昨日の避難所に行き、皆さんに渡そう。そう決めた。

 空港の売店で東京のお土産のお菓子を買った。空港の売店には歯ブラシが無かったので、それらは山形で調達することにした。山形に到着すると近くのドラッグストアに行き、80本近い歯ブラシと歯磨き粉、さらには除菌ティッシュも買った。私が店員さんに「すみません。このお店の歯ブラシを買い占めてしまって」と言うと、被災地に向かうのが分かったらしく、「ご苦労さまです。気をつけて」と笑顔で送り出してくれた。

 

 そして、私は再び女川高校の武道場の中へと入っていった。手にはいっぱいの歯ブラシとお菓子を抱えて。

 前日、「歯ブラシ」と答えた小学生の姉弟が私を見つけて声をあげた。「あっ!」

 いったんは東京に帰ったはずの私が次の朝、再び避難所に来ていることの不思議さとともに、視線は手元の袋に向いた。

 「持ってきてくれたんですね」姉弟の母親が会釈してくれ、私は歯ブラシを見せた。

「すごい、やったね」子供達もとても喜んでくれた。そして、その場にいた何人かが私に大きな拍手を送ってくれた。

 さらに、昼食の準備をしていた、昨日、「お菓子が食べたい」と答えたご年配の女性にお菓子を持っていくと、「本当にありがとうございます」と何度も私の手を握った。

 私の行為は、はたから見ると偽善のように映ったかもしれないが、被災地で取材し、何も出来ない大きな無力感にとらわれていた私にとって、やっと自分が出来ることが目の前にあったのでやっただけだった。このような純粋な気持ちになれたのも、人生の大きな悲劇と直面している被災者の皆さんの苦悩に接し、私の中に自分自身の人生を考え直さなければならない、という気持ちが大きくなっていたからだ。

 

 歯ブラシとお菓子は私と被災者の皆さんの心の距離を少し縮めたようで、その後は打ち解けて話が出来るようになった。お菓子を私にリクエストした女性は故郷である女川のことを話してくれた。「本当にここはいいところでね。お魚が美味しいのよ。最高だね。立花さんはメロード知ってる?」

 

 メロードって何だろうと思っていると、隣にいた女性が「このぐらいの大きさかな」と指で示しながら、「あたたかいご飯と食べると本当に美味しいのよ」と教えてくれた。女川の地元の皆さんに愛されている魚だった。

 「家にいるでしょ。ポンポンポンて船の音が聞こえてきてね。海鳥の鳴く声もしてね。海の香りも漂ってきてね。何だか落ち着いてね」昔を振り返る彼女の顔は十代の少女のように見えた。

 「もしかして、文学少女だったのではないですか」私は聞いた。

 「何言ってるの。そんないいもんじゃないから。ただ、それだけ女川がいいとこだってことよ」女性は少し恥ずかしそうに胸を張った。

 「でも、全部流されちゃったからね。あの女川に戻るのに、どれだけ時間がかかるのかね」また、彼女の顔が寂しくなった。

 すると、また別の女性が通りがかりに声をかけた。

 「悩んでたって変わらないんだから。前を見なきゃ。」

 さらに、話を聞いていた水産加工の仕事をしていた男性が力強く宣言した。

 「あの女川を取り戻すために会社のみんなと話してるんだ。もう一度頑張ろうとね」

 前向きな沈黙が一瞬訪れた。

 

 「そういえば、女川は中村雅俊さんの出身地でしたよね」私は少し雰囲気を変えるために聞いた。

 「そうそう。雅俊君の家はすぐ近くだったよ。カッコよくてね。学生時代はギターを家で弾いてたけど、とにかく足が長くてね」

 私達はいろいろな女川の話に花を咲かせた。そして、いつの間にか、私の周りには何人かの住民が集まっていた。

 すると、一人の女性がこう言った。

 「オモシロイ・・立花さんはオモシロイね。」

 避難所でお話を聞いたわけで、私は大きな声はなるべく出さないようにしていたし、特にジョークを言ったわけでもない。ただ、皆さんの話が興味深くて、熱心に話を聞いていただけだ

 そのことを「オモシロイ」と評価してくださったのだろうか。私はとても嬉しくなった。(続く)


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