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大ベストセラー作家の東野圭吾氏の作品を私はあまり読んでいない。なぜか?あまりにもたくさんの人が読んでいるからだ。私にはかなりあまのじゃくなところがあり、同じ理由で宮部みゆき氏の作品もほとんど読んでいない。
「赤い指」を読んでみようと思ったのは、家族の秘密にメスを入れる作品と銘打たれていたからだ。一見平和そうに見えるどの家庭にも、外からは見えない嵐が吹き荒れていることは多い。殺人事件と、ある家庭の秘密に加賀恭一郎が迫る、そのキャッチに惹かれたのだ。
読み進めるうちに、東野氏の作品が多くの人に読まれる一つの理由は分かった。一文の長さがきわめて短く、とても読みやすいのだ。赤川次郎氏や西村京太郎氏を例に取るまでもなく、大ベストセラー作家の文章は平易なケースが多い。かと言って、直木賞受賞作家の文章が稚拙であるはずはなく、平易ながらも心理描写や情景描写には奥深さも感じ、さすがと唸らせる。
しかし、だ。この作品における推理部分での展開などには、あまり驚くところは無い。ネタバレになってしまうので詳細は省くが、先が見える展開ではある。思い入れがいっぱいで読んだ割には、正直なところ、やや残念な読後感だった。
そこで、私は東野氏のあまりにも多い著作の数との関係に思いをはせる。不況の中、出版社は売れる作家にオファーを集中させる。東野氏にもおそらく、何年か先までの予定がぎっしりだろう。スタッフの協力もあって著作活動は進められるのだろうが、どうしても作品の密度が薄くなってしまうのは致し方ないことなのだろう。
ベストセラー作家ならではのジレンマなのかもしれない。そこで、私は東野氏の著作の原点を知るべく、江戸川乱歩賞を取った「放課後」を読み始めた。まだ2、30ページしか読んでいないが、初々しさが感じられる。良い出だしだ。いずれ「放課後」のレビューもここで、と言っているうちに、私もおそらく東野マジックに引きずり込まれていくのだろうか。
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