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2月19日、東京芸術劇場にTSミュージカルファンデーションの「ガランチード」を観に行った。主宰する謝珠栄さんとは十年近くのお付き合いになるし、友人の坂元健児さんも出演している。
昨年末、謝さんと二人でゆっくりお話をする機会があった。一言で表すならば、謝さんは情熱と誠意を持ち続けている演出家だ。謝さんとの話は日常生活から政治、外交、人間としての生き方にまで発展し、いつもエキサイティングだ。
指導者に恵まれない日本の、いや、世界の政治が引き起こす混乱には謝さんはいつも冷徹な視線を浴びせている。エネルギー利権の確保のため、アメリカが戦争をしかけたイラクやアフガンでの戦争もミュージカルの題材にした。拝金主義は人格を歪めてしまうことに危惧を感じ、人間が金の欲望に惑わされ、狂わされていくさまも謝さんはこれまでの作品の中で描いている。
さらに、ミュージカルを取り巻くさまざまな問題、今の景気や、俳優やダンサーが生活を維持していくことの苦労についても謝さんは絶えず考え、根本的なシステムの改善が必要だと訴えている。
今回の「ガランチード」はまさに、謝珠栄さんが感じる問題点をあますところなく一作に投影した作品だ。物語は戦争前後にブラジルに渡った日本人ならびに日系人の苦労と、日本の劇団員が抱える諸問題を同時進行で描いていく。ブラジルで苦労した同胞達といってもピンとこない人が多いかもしれないが、遠い異国で「日本と日本人をどのように捉え、考えるか」ということをあぶりだすことで、祖国とは何かを考えようとしている。このことは父親が台湾から日本に渡ってきて仕事を展開した謝さん自身が、「台湾とは?」と自らに問いかけてきたテーゼとどこかで重なっている気がする。
さらにバラバラになってしまう劇団の苦悩はミュージカルの世界でさまざまな人間関係にときに悩まされた謝さんの想いや、それを打破することで初めて生まれる希望や感動を表現したかったのだろう。
演出家、謝珠栄さんを深く知るためには最適な作品が誕生した。
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