それは私が仕事でとある研究施設に常駐していたころ・・
アフターファイブは独身の私にとって、急ぎ帰る必要もなく、コーヒーなど入れて、窓からぼんやり中庭の木々を眺めたり、中庭に出て散歩したりしてゆっくり過ごす時間でした。
ある日、そんな風にぼんやり中庭を歩いていた時・・足元に、白い毛玉みた いなのがぴょんぴょん・・とはねてきたのです。真っ白ふわふわの毛玉に、目みたいなのが二つ・・オバQの超小型みたいな感じのもの・・。驚いてじっと見ていると、その毛玉はぴょんぴょん・・と私の足元に・・
しゃがみこんでそっと手を伸ばすと、私の手にくっついてきました。よく見ると、二つの目の間、少し下の方に、くるっとまがった、もうきん類のくちばしがついている・・
「とり?」
と両手で包んで抱き上げると、結構頑丈な足をしている・・
おなかがすいているのかな・・と心配して、オフィスに連れて行き、デスクに乗せてPCにアクセス・・その子に近いとりの雛を探すと、「ふくろう」でした。
「なにを食べるんだろう・・」
とチェックすると、コウモリや虫などの生き餌とのこと・・冷蔵庫からソーセージなどいろいろ出してみるけれど、食べる様子もない・・
フクロウの子を膝に乗せて、更にウェブで調べていくと、「フクロウの雛は、巣立ちの前、
巣から降りて地面をひょこひょこ歩いていることがあるが、親鳥が必ず近く で見守っているので、人間が下手に手を出してはいけない。そっとしておく」と言うような記述を発見。急いで雛をもとのところに連れて行き、あたりを見回したら・・中庭の一番高い木の上に、いました・・大きなフクロウ・・夜行性と聞くフクロウ、日中あんな大きなフクロウを見たことがなかったので、びっくりす るとともに見とれてしまいました。で、ヒナをそこに置き、「大丈夫、心配で連れて行っただけだよ。見守ってるって知らなかったの。もう触らないよ」と親フクロウに声をかけ、そっと退散・・オフィスの窓からヒナを見ていたら、ぴょんぴょん・・と茂みの中に飛んでいきました。
でも気になって仕方のない私(そして結構暇だった私)、それから何日も、 暗くなってからも中庭の様子をうかがっていました。親フクロウが餌を持ってくるところは一度も見られなかったけれど、朝ヒナのいる茂みをそっと遠くからのぞいてみると、茂みの下にはコウモリの羽やなんかが落ちている・・
「あんなふわふわのかわいい顔して、コウモリを引きちぎって食べてるの ね・・」と苦笑いしながら、毎日見守りました。研究施設の方々は中庭に出てくることはほとんどなく、ヒナ鳥のことはごく一部の人にしか話さず、話した人にも「そっとしておいてあげてね」 と伝えていたので、親フクロウは、ちびを移そうともせず、そこで育てることにしたみたいでした。
中庭からあたりの木を見上げると、必ずフクロウが一羽とまっていました。 かなり大きなフクロウでしたが、時にはそのフクロウより一回り大きなフクロウがとまっていることも・・フクロウって、両親で子育てするんだな・・と、その時初めて知りました。お母さんフクロウに任せ切りでなく、ちゃんとパパも子育てに参加していたのです。なんとなく、遠くにいるパパママフクロウにも愛着を 感じるようになっていきました。
ところがある日の夕方遅く、私がいつものように帰宅前に中庭をちらと覗い た時・・「げっげっげっげっ」「くえっくえっ」と言うような、ヒナのものと思われる声が・・どうしよう・・とちょっと躊躇しましたが、その声はなんだか差し迫っていて、気になったので当直室から懐中電灯を借りて、思い切って茂みのところへ行ってみたのです。懐中電灯を声の方へ照らすと、ちびが逆さまになっ て枝からぶら下がっていました。良く見ると、枝のV字 になったところに足が引っかかって取れなくなり、ぶら下がってバタバタしている様・・ちびの翼は体の割にまだまだ短いので、どうすることもできないようでした・・私は「緊急事態だからしょうがない!」と思い、ちびを両手で包んで足を枝から外し、茂みの中の枝の上へ・・ちびはもとから攻撃的ではなかったの で、おとなしくされるがままでした。「よかった・・さぁ退散・・」と研究施設へのドアへと中庭を横切ったその瞬間、首の後ろにものすごく重いものががんっ!!!と当たったのです。あの、目から火花が散る、って言うのは本当で、真っ暗な中庭で、私は目先がぱっと明るくなるほど衝撃を受けました。一番先に 思いついたのは、上空を飛んでいた飛行機から、大型の犬か何かが落ちてきたんじゃないか、と言うようなばかげた発想でした。でも、そんな印象を持ったのもほんのつかの間・・衝撃を受けた後、バサバサ・・と、すごい勢いで飛んでいく黒っぽいものを見たのです。その大きかったこと!その大きな鳥は遠くへ飛んで 行ったかと思うと、もう一回こちらへ向かって来たようだったので、私は急いで研究室のドアから中へ・・
親フクロウだったのです。びっくりしたのは、あのすごい衝撃を受けるその 瞬間まで、何かが近づいてくる音も、気配も何もしなかったこと・・飛び去る時は羽音も大きかったけれど、近寄ってくるときは何の気配もしなったのです。「だから獲物も捕れるのね・・」と思いながらも「私は獲物じゃない〜!!」
親フクロウ君は、きっと心配だったのでしょう。私がちびに危害を加えるん じゃないかと・・でも、私だって手を出さないようにきをつけてたのにぃ・・あの時は、ほうっておいたらちびの足に障害が残ったかもしれないのにぃ・・と思いながらも、やはり、自然に逆らうことはいけなかったのかなと・・
その事件以降も、親フクロウはちびを移動させることなく、ちびが独り立ち するまでその中庭で子育てしていました。時々中庭からあたりの木を見上げると・・彼(私を蹴ったパパ)と目が合うことが・・今でも思い出すけれど、あんな大型のフクロウを日中、何日も木の上で見たことは、あの時が最初で最後でした。
私がフクロウに蹴られた痕は、私の首の後ろに結構長いことついていまし た。何本かのみみずばれが何本かの傷跡に・・とくに痛くはなかったけれど、傷のことを聞かれて、「フクロウに蹴られた」と答えると、決まって大笑いされました。「そんな奴初めて聞いた」って。私だってこれからの人生、もう1回フクロウから蹴られることがあるとは思いません。希少な経験でした^^
ちなみにこのフクロウの雛の写真・・巣立ちの前日に、ヒナの存在を話していた数少ない人々の中の一人、動物学の先生が望遠レンズで撮ったものです。残念ながらオバQのころの写真はありませんが、オバQから1か月以上たったこのヒナの写真も、なかなかかわいいですよね。
懐かしい、10年近く前の出来事でした・・