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「疲れただろ、大丈夫か?」
「私は大丈夫よ、シン君もお疲れ様でした」
クリスマスパーティーが終わり、この東宮に居るのは俺とチェギョン二人きり。
最初は委縮していた施設の子供たちも、チェギョンの優しさと明るさに触れ最後には帰りたくないと駄々をこねる様子も見て取れた。
以前の俺なら確実に煩わしいと思っていただろう。何故この東宮に施設の子供を迎えなければならないのか、体面上仕方ないならせめて迎賓館にしてくれ。そう思っていたはずだ。
俺はチェギョンに出会うまで本来の自分を否定し続けて生きてきた。
誰よりも愛されたい、誰よりも愛したいという気持ち全てから目を背けて生きてきた。
あの子供達の様に本当は誰よりも愛に飢えていたのに。
少しの間でも幸せな時間を一緒に過ごしたい。親の愛情には適わないが、俺達にできる事があるなら僅かばかりでも力になりたい。今なら心からそう思える。
「シン君。ちょっと庭を散歩しない?雪もやんで星が出てるのよ。
今年は初雪デートもまだだから、ね。行こうよ」
「わかった。寒くないようにしろよ」
普段の俺なら答えは確実にNOだっただろう。だがせっかくのクリスマス。チェギョンの想いを優先させたいと思うのは甘いだろうか。
「ちょっと!シン君。これじゃ動けないよ」
「ははっ。それじゃチェギョンか雪だるまかわからないな」
薄手のコートに真っ赤なマフラーを巻いただけの姿で外に出ようとするチェギョンに真っ白なファーコートを無理やりに着せた。足元はもちろんモフモフブーツ。
雪だるまだなんて口では言っているが、子供がいる様には思えないほど愛らしい少女のようなチェギョンに自然と目じりが下がる。
「暑いよ」
「絶対脱ぐなよ」
渋々といった感じでそのまま外に出ようとするチェギョンに片方だけ手袋を渡す。
そして当たり前のように片方の手は俺のポケットの中に。
こんな行動が当たり前になったのはいつからだろうか。
氷の皇子なんて言われてた高校生の俺が知ったら真っ赤になって怒りを露わにするかもしれないな。素直じゃない高校生の俺。今思うとなんだか笑えてくる。
「シン君見て!すっごく綺麗な星空」
「あぁ。綺麗だな」
大きな瞳をさらに大きく輝かせ夜空を見詰めるチェギョンの瞳は他のどんな宝石よりも美しいと思う。もちろんこの空に輝く無数の星よりも。
「なぁ。チェギョン」
「なぁに?」
「もしも俺と結婚してなかったらお前は何をしてただろうな」
「うーん。やっぱりデザイナーを目指してたと思う」
「そっか」
チェギョンの人生の選択はこれまでに何度も訪れた。同年代の人間に比べ苦汁の決断を余儀なくされ、俺が想像する以上の心労をかけて来たと思う。
だが俺はチェギョンとの生活を、幸せを手放すこと何て出来ないんだ。
結婚して何年もたつというのに、時々こうやって俺の中に不安の種が芽を出してくる。
幸せを手に入れた瞬間から、不安をも手にすることになるなんて皮肉なモノだ。
「でもね。もしもシン君と結婚してなかったら。なんて事は考えられないのよ。
万が一そうだったとしたら、私は一生叶わない恋に苦しむ事になってたわ」
「そうか。結婚しなかったら何てもしもはあり得ない事なんだな」
「そう。私たちはいつも今を生きてるの。
あの時こうだったらこうしていれば、こうだったかもしれない何て過去に囚われて生活した くないでしょ。だから今を精一杯生きるのよ。」
「そうだよな。かもしれない過去にとらわれる…か。」
「そっ。それにねそんな事を考える暇を与えてくれない程愛してくれる旦那様が傍に居てくれ
るからね。 私にはやりたい事もやるべきこともいっぱいあるんだから」
「俺はこれからもっと愛情を注ぐぞ。覚悟しとけよ」
「そんな覚悟はとっくに出来てるもん」
真っ白な音のない世界に二人の雪を踏みしめる音だけが響く。
庭のあちらこちらに大小の雪だるまと真っ白な雪で作られたウサギの姿がある。きっと皇子が女官達と作ったのだろう。
俺が皇子くらいの歳の頃はまだ家族の幸せを感じていた。
幸せな時間を知っていたからこそ、その後に訪れた閉ざされた皇孫としての生活が窮屈で更に愛されることを求めてしまった。求めても手に入らなかったもの。全てを諦めた時に現れた破天荒な宇宙人。
きっと出会った頃から予感があったんだ。
自分の全てを変えてくれる存在だと・・・。
だがそれを認める事が恐かった。自分を救い出してくれるだろうその手を離された時の恐怖を思うと、その手を素直に取ることが出来なかった。
自分の変化が恐くて目をそむけた結果、愛する人を苦しめる事になるだなんてその時の俺には分からなかった。
「シン君。今年のクリスマスツリー見てないでしょ」
「池のほとりのクリスマスツリーか?」
「うん。毎年女官のお姉さん達と飾り付けしてるんだけどね、今年は皇子が自分もやりたいって手伝ってくれたのよ」
「あいつは何でも自分でやりたがるからな」
「好奇心旺盛なのよね」
「お前に似てるからな」
「シン君に見て欲しいの。急ごう!」
「こら!妊婦が走るなよ。雪で滑ったらどうするんだよ」
「はーい」
どうしてこうも落ち着きがないのかと言葉にしながら、本当は変わらないままのチェギョンでいてくれる事が嬉しくて抱き寄せる。
走り出しそうなチェギョンを止める振りをしながら、もっと近くに行きたいと思う俺は彼女の手を自分のポケットに残したまま肩を抱いた。
「シン君これ見て」
チェギョンが指差す先に煌びやかなオーナメントとは少し趣向の違うビニールに入ったままのぬいぐるみ。
「これは?」
「皇子がね、どうしても飾るっていうからビニールに入れたまま飾ったの」
そこにはアルフレッドによく似たテディ―ベア。
「皇子がお父様と出掛けたテディ―ベアミュージアムでこのぬいぐるみを見つけておねだりしたんだって。 帰ってくるなり皇子がね『お父様のアルフと一緒!』って興奮しててね。
『これを飾ってサンタさんにお願いするの』って言ってたの。『大きくなったら大好きなお父様みたいにカッコいい人になれますように』そう言ってこれを飾ったの」
『大好きなお父様みたいに・・・』その言葉に胸が締め付けられる。
俺はいい父親になれているのか。
偉大な父親になりたいとは思っていない。ただいざという時に必要とされる、傍にいるだけで子供を癒せるそんな父親になりたいと思っていた。チェギョンの様に包み込む事はなくとも見守る事の出来る父親になりたいと。
「チェギョン。俺って幸せだな」
「ふふっ。今頃気付いたの?」
「いや、知ってた。でも更に実感した」
「私もすっごく幸せだよ。愛する旦那様と大切な子どもたち、そして家族や友達に見守られて毎日幸せを噛みしめてるのよ」
俺の腰に腕を回し体を預けてくるチェギョン。
その温もりに更なる幸せを感じる。
「チェギョン。なんか叫びたくなってきた」
「シン君が?叫ぶ?もうこんな時間に近所迷惑よ」
「何処に近所があるんだよ」
「ほら、女官のお姉さんたちとかイギサのお兄さんたちとか」
「皆聞こえても聞こえない振りしてくれる人ばっかりじゃないか」
「シン君の叫びは他の人に聞かせるの勿体ないんだもん」
「私だけに囁いて」そういって見詰めてくるチェギョンが愛しくてたまらない。
だから唇を彼女の耳もとに近づけ囁くんだ。愛していると。
「チェギョン、メリークリスマス」
優しく壊さないように口づけを交わしながらチェギョンの首筋に煌めく王冠を付ける。
「シン君。これ」
数年前に渡した王冠は自分で選んだものではなかったが、それでも彼女は喜んでくれた。
いつか自分で選んだ王冠をもう一度彼女の首筋に付けたい。そう思っていてもなかなか気に入ったものが見つからなかった。
それが先日公務で訪れたタイで見付ける事が出来るとは、皮肉なものだなと思ってしまう。
「ありがとう」
そういって見詰めるチェギョンの瞳が潤みだす。これが幸せの滴でありますようにと願ってしまうのは俺の悪い癖だな。
「シン君にはこれ。メリークリスマス」
チェギョンからのプレゼントは片方だけの青竜が施された手袋。
「時間がなくてこれだけしかできなかったの」
「お前と居る時は片方しか手袋嵌めないからな」
手早く手袋を嵌め変えると当たり前のようにもう片方がポケットへ。
いつしか当たり前になった二人だけの冬の姿。
何年経とうとも変わることはない。永遠に幸せにする。
聖なる夜に誓いを込めてもう一度抱きしめ口づけを交わす。
「帰ろう、俺達の家に」
真っ白な雪に覆われた庭は月光に照らされ白銀に輝く。
全てを清らかな世界に変えてしまうクリスマスの夜。もう一度永遠の愛を誓おう。
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りんりんさん、こんばんは
更新有難うございます 素敵なシン君家族の幸せが手に取るように描かれていて読んでいて癒されました。素敵なお話有難うございました 今年も有難うございました来年も宜しくお願いします 。
2012/12/29(土) 午後 7:38
りんりん様、こんばんは
大晦日に心暖まる作品を読ませて頂き、幸せな気分です
どうもありがとうございましたm(__)m
お身体ご自愛され、良い御年をお迎えくださいm(__)m
2012/12/31(月) 午後 5:54 [ あやママ ]
12月29日午後0:43の鍵コメさん
大変お返事が遅くなりました。あけおめでございます!
片方しかいらない手袋、もう片方は筒型にしようと思ったんだけどその表現が難しくて今回は片方だけにしてもらいました(笑)
もうお仕事始まってますよね。今年も働くおねーさん頑張ってください❤
コメントありがとうございますぅ♪
2013/1/21(月) 午後 3:53
12月29日午後2:31の鍵コメさん こんにちは!
あけおめでございますぅ♪
いつもホントにありがとうございます
お返事遅くなってごめんなさい(汗)
昨年は鍵コメさんの暖かいコメントに癒されました。
今度ゆっくり鍵さんのお話も堪能してきますね〜♪
今年もどうぞよろしくお願いいたします!
2013/1/21(月) 午後 3:56
はなちゃんさん こんにちは!
大変遅くなりましたがあけおめでございます。
あ…さっき別のコメントにお返事しちゃった(汗)
いつもホントにありがとうございますぅ。
今年も少しずつお話書けるようにがんばりますね〜♪
これからもどうぞよろしくお願いいたしますぅ❤
2013/1/21(月) 午後 3:58
12月29日午後10:29の鍵コメさん こんにちは!
あけおめでございますぅ♪
そして!お久しぶりでございますぅ〜!
いつもホントにありがとうございます。
相変らずノロノロの更新とリコメではございますがこうやって来て下さる皆さんに助けられて細々と続けていられます。
今年もどうぞよろしくお願いしまーす!
コメントありがとうございますぅ❤
2013/1/21(月) 午後 4:01
あやママさん こんにちは!
あけおめでございますぅ♪
お返事遅くなってごめんなさい(汗)
皆さんに支えられて何とか数少ない更新が出来ました。
こうやってコメント頂けると本当に嬉しいです♪
相変らずのろのろ更新になると思いますが
今年もどうぞよろしくお願いいたしますね〜❤
2013/1/21(月) 午後 4:03
うれしい
自分もハッピーになれたよ




それに『宮』を知ってまだ浅い私には、まだ書き続けてくれているのが、一緒に共感をしてくれてるようで、尚更うれしい
2013/2/11(月) 午前 8:20 [ わいわい ]
わいわいさん こんにちはっ
こちらにもありがとうございますぅ♪
宮歴(笑)の長さなんて関係ないんですよ〜!
一緒に共感できる人が居るって嬉しいですよね
私も、こんな拙い文章なのに読んで下さる皆さんの本当に感謝です
ありがとうございますぅ❤
2013/2/12(火) 午後 3:01
ラブラブ
シンチェを読むと、辛い本編があったから、今がある〜と、幸せ気分を一緒に味わっちゃってます
2013/12/23(月) 午後 6:27 [ わいわ〜い ]