キャピトンよ さようなら

風花雪月あと少しです。ここで挫けないようにがんばります。

始まりの朝

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始まりの朝 14

いつの間にかチェギョンの隣で眠っていた俺は自分の頬に触れるチェギョンの指で目を覚ました。
「シン君ありがと」
囁くような彼女の声に薄っすらと目を開けると俺が起きたことに気付かずに柔らかく微笑みながら頬を撫でる彼女が見える。
 
なんとなくこのままチェギョンを見ていたくて薄目を開けたまま寝たふりをしていた。
俺の顔に掛かる髪を指先で優しく梳き、そのまままつ毛を掠める。その感覚に目を閉じたまま瞳が動くと驚いたのか彼女の指先が止まる。それ以上の反応がないとわかると今度はゆっくりと唇に触れる。そのまま俺の唇の横に口づけし、また優しい瞳で見詰めている。
 
「シン君。ずっと傍にいたいな」
「俺も」
 
「起きてたの!?」
俺が起きてた事に驚きながら真っ赤な顔をして叫ぶチェギョンがかわいい。
 
「ぶっ。チェギョン耳まで真っ赤」
「いつから起きてたのよ」
 
「うーん。俺の前髪を梳く前辺りから」
「起きてるなら起きてるって言ってよ!
頬を膨らませ睨みつける顔までもが可愛くてチェギョンを自分の胸に抱きしめた。
 
「…苦しい」
「俺を見詰めるお前を見ていたかったんだ。お前起きてる時はそんな顔で俺を見詰めることないからな」
 
「私はいつもあっつーい眼差しでシン君を見詰めてますけど」
「お前の熱い眼差しは食べ物にしか向けられないかと思ってた」
「ひっどーい!」
 
 
こんな何気ない会話が楽しくて、チェギョンが傍に居るだけで嬉しくてたったこれだけの事が至福の時だと感じるなんて、きっと昔の自分からは想像もしなかっただろう。
窓から差し込む朝の光が音もなく降り注ぐ病院の一室。その広い部屋に置かれたベッドに横たわり白い壁白い天井に囲まれるだけの空間。
だがそれがこんなにも幸せな空間に変わるだなんて。
 
 
「これでお前が元気なら申し分ないんだけどな」
「ん?」
 
「まだ熱があるんじゃないか?少し体が熱い気がする」
「ねぇシン君。今日は退院出来るかな?一緒にアパートに帰れるかな?」
 
「どうだろうな。後でドクターの診察があるからその時に聞いてみよう無理に退院しても心配だからな」
「うん」
笑顔で頷くチェギョンをもう一度抱きしめると俺はベッドを降りた。
 
「シン君どこかに行くの?」
「いや、そろそろナースが来るころだと思って」
 
言いかけた所でノックの音が響きナースが検温の為病室に入ってきた。
ナースは検温を済ますとドクターの診察時間を告げ病室を後にする。
 
「妃宮さま。皇太弟様はお優しい方ですね。とてもお似合いのお二人に感動しました」
と自宅の庭に咲いていたというガーベラを病室に飾って行った。
 
「なんか元気になれそうなお花ね」
「そうだな。ガーベラの花言葉は希望だったな」
 
「シン君。花言葉まで知ってるなんてなんかムカつく」
「何でムカつくんだよ」
 
病室に飾られた黄色いガーベラ。まるで太陽のようなその花の花言葉は究極の美しさ。
どんなに辛い時も笑顔を向けてくれるチェギョンのような美しい花。
 
「本当に大丈夫なのか?」
「うん。だって熱って言っても本当に微熱でしょ。吐き気だってないしすっごく気分がいいの。だからアパートに帰りたい」
 
 
 
ドクターの診察を受け自宅に戻る許可を得たが、微熱がある事が気にかかる。
病室の中でストレスを感じるより、慣れた環境でのびのびと過ごす事の方がチェギョンの体への負担も少ないとのことではあるが、もしもまた倒れたらと思うと不安になる。
ただ、チェギョンが喜ぶのであればそれを叶えてあげたいという気持ちは強い。ムリに病室に押し込めこれ以上ストレスを与えてしまうような事もしたくない。
 
 
「あ…その顔」
「え?」
 
 
「結婚したばかりの頃。シン君のその笑顔を見るのが辛かった」
「俺どんな顔してるんだ?」
 
 
「口元はね、フッと笑うんだけど目が凄く悲しそうなの。結婚したばかりの頃その笑顔を見る度に、ムリして笑顔を作ってるのが分かって悲しかった。笑顔って言うより冷たい笑顔に見えてたから」
 
「冷たい笑顔…ごめん。そんなつもりはなかったんだ」
「うん、今なら分かる。その笑顔の時ってシン君は怒ってたり呆れてたりしてたんじゃない。凄く悲しくて寂しい時、辛い時に出る笑顔なんだよね」
「チェギョン」
 
「心配掛けてごめんね。ムリはしないから。シン君の傍に居たいだけなの病院ではなくもっと安らげる空間でシン君と一緒に居たかった」
「絶対に無理はするなよ」
 
「うん。ちゃーんと大人しくしてるからシン君家事よろしく!」
「はっ?家事って俺がか?」
 
「そうよ!ボーイスカウトの腕前楽しみにしてるからね」
 
 
 
アパートに帰れる事を心底喜ぶチェギョンはドクターの言いつけ通り、とは行かないが普段より安静に過ごしドクターより普段通りの生活に戻っても大丈夫だと言われたのが三日後だった。
だが、まだ姉上からの帰国の連絡は入っていない。
 
 
 
 
 
「シン君今日は私が夕飯を作るからね。ねぇ、何が食べたい?」
「チェギョンが作ってくれるなら何でもいいよ」
 
「うーんそう言うのが一番こまるんだよねぇ」
 
俺がカゴを持ってチェギョンがその中に食材を入れる。なんだかこそばゆい。
いっしょに買い物して見つめ合って、これぞ新婚!見たいな事をこの俺がするなんてな。夏の離宮に行った時以上に幸せを感じてしまうのは当たり前だな。
 
 
そんな事を考えて勝手に緩んでしまう頬を押さえると「どうしたの?」何て聞いて来る。
「何でもない」そう返しても頬の緩みは止まらない。
 
「変な顔」そんな憎まれ口を叩く俺に頬を膨らませるチェギョン。そんな仕草も可愛くてたまらないなんて重症だな。
買い物を済ませ荷物を持ち、空いた左手を差し出すとチェギョンが指を絡ませる。
蕩けるような笑顔を向け弾むように歩くチェギョン
 
「何か楽しいね」
「おまねぇ。頼むからその顔俺以外の男に見せるなよ」
 
 
「えっ?」
「―――残念。荷物さえ持ってなければ、抱きしめてキスするのに」
 
   『何言ってんのよ!』
チェギョンならきっとそう答えると思ってたのに。
 
 
俺の右腕をよじ登るように掴みながら背伸びをすると俺の頬に唇を寄せる。
思いがけないその仕草が可愛くて思わず顔が熱くなる。
 
「ふふっ。今日は特別!シン君がいつもより優しいから」
 
少し照れながら軽やかに走り出す。
その後を追いかけるようにゆっくりと走りだす。
これから始まる毎日がこんな穏やかな日々であって欲しいと願いながら。

始まりの朝 13

 「チェギョン。ホントに大丈夫か?痛みとか吐き気とか…ちょっと熱があるみたいだな」
 
チェギョンの額に自分のそれを当てると自分のモノでない熱が体に伝わる。チェギョンの瞳が大きく見開かれ驚いていることが分かるが近すぎてその瞳を見詰める事が出来ず、それを確認できる位置まで少しだけ距離を取る。
チェギョンの大きな瞳が熱のせいで潤み更に魅力を増す。
 
「お前・・・」
「ん?」
 
「その顔ヤバいから」
「へ?」
 
 
訳が分からずアヒル口になっているチェギョンが可愛くてその唇を求めて近づいた時、病室に警戒な音楽なり響いた。
「あ!ガンヒョンからだ」
 
 
着信音で確認できる友人からの連絡を知らせるメロディーに体を押しのけられ
「シン君私のバッグ取って」
とにこやかに言われればそれに抗う事など出来るハズもなく素直に手渡すしかない。
 
 
「もしもーし!」
「チェギョンあんた大丈夫なの?マカオに居るんですって?電話に出て平気なの?今病院にいるんでしょ」
 
「え?どうしてマカオに居るって…イヤイヤ何で病院に居る事まで知ってるの?私だってさっき気付いたばかりなのに」
 
「急病で倒れたって聞いて心配で掛けたのよ。あんたの旦那様も今マカオに向かってるみたいだから、それまで頑張るのよ」
 
 
「ちょっとガンヒョン何言ってるの?聞いたって誰に?それにシン君なら3日前からマカオに居るけど」
「3日前から!?」
 
「丁度お婆様とマカオのボランティアに参加しててそのまま内緒で会いに来てくれたのよ。でね、今日・・・」
「ちょっと待って、さっき宮内庁から正式なコメントが出て妃宮様が急病で倒れ太君殿下が急遽マカオへ向かわれたって言ってたわよ。妃宮様の病状について詳しく分かり次第報告するって言ってた」
 
 
「何がどうなってるのかわかんない。ガンヒョンまた連絡するからごめん。あ!それからこの事は」
「分かってる。誰にも言わないから安心して。だけど倒れたってのは本当なんでしょ、ムリはしないでね」
 
「うん。ありがとう」
 
 
チェギョンは電話を切ると今のガンヒョンとのやり取りを興奮気味に僕に伝えた。
 
「姉上だな」
「お姉さま?」
 
 
「お前が意識を取り戻す前にお婆様が来た。既に姉上とも話されて今回の件は私達に任せなさいと仰ってた。きっとチェギョンが倒れた事を公表して一気に国民の理解と王族会の承認を得るつもりなんだろうな。まったくあの二人には敵わないな」
 
「ねぇシン君」
「ん?」
 
「私は…何をすればいいのかな」
「自分の体の事を一番に考えろ。それが今お前がすべき最優先事項だ」
 
「ほら横になれよ」
「うん。シン君私今日は帰れないのかな?」
 
「あぁ。少し休養が必要だと言われてる」
「そうだよね」
 
「そんな不安げな顔するな。俺も今夜はここに泊まるから」
「でもベッド1つしかないよ」
「大丈夫ここで一緒に眠るから」
 
チェギョンのベッドを指さすとチェギョンは少し嬉しそうに顔を赤らめた。
 そんな彼女が可愛くて自然と彼女の隣に体を滑らせる。そのままチェギョンの首の下に腕を差し入れると自然と俺の胸にチェギョンがすり寄ってくる。
凄く自然でずっとこうしてきたかのようにそのままチェギョンは眠りについた。
 
 
彼女が眠った事を確認するとベッドから抜け出し携帯を取り出した。勿論韓国の姉上に連絡を取る為に。
 
 
「もしもし」
「シン。チェギョンは大丈夫なの?」
 
「ええ、今は落ち着いています。ストレスによるものであると言われていますが精密検査が必要だと。その件で姉上にお願いがあってご連絡しました」
 
「分かってる。韓国で受けさせたいって事でしょ」
「はい」
 
「お婆様から連絡をもらってからこちらは既にそのつもりで行動を開始してるわよ」
「そのようですね。先程チェギョンの友人から連絡が入りました」
 
「なんだ知ってたの。 だからシン貴方のやるべき事はチェギョンの傍で彼女を支える事、いいわね」
「はい。姉上ありがとう」
 
「もう大切な弟夫婦の事ですもの。それにチェギョン一人に辛い思いをさせてしまった事を私も凄く悔やんでるの。報道の事知ってるんでしょ。つまり貴方はマカオに向かったばかりなの、明日帰国何てしなくていいからそっちでチェギョンと楽しんできなさい」
 
「姉上」
「こっちの事は心配しないで、お父様とお母様も今宮にきてくれていてね、チェギョンの事凄く心配しながらも力を貸してくださってるから」
 
「ありがとうございます」
 
電話を切ると再びベッドに眠るチェギョンの傍で彼女を見詰めその手を握りしめた。すやすやと眠るチェギョンの鼻先をツンとつつくが気付かないまま眠り続ける。そのままふっくらとした唇に指を当てゆっくりとなぞると微かに開くその唇に吸い寄せられるように口づけた 。
 
誰しもが愛する人の幸せを望むもの、だがそれが自分の幸せと相反する場合時として相手の不幸を望み愛する心は矛盾を孕む。それが韓国でチェギョンと過ごした俺が学んだ事。
 
だがこれからは違う。
ただ見詰めているだけで胸が苦しい訳でもないのに涙が頬を伝う。愛するという事はこんなにも恐ろしくもあり、そしてまた喜ばしいことなんだ。心が感情に追いつく前に涙が流れてしまう事なのだと。
 
「愛してる」
 
誰にも聞こえない様にチェギョンの耳元で囁く想いの分俺はきっと強くなる。
だから俺の傍にいて、お前はいつだって幸せそうに笑っていてほしい。
 

始まりの朝 12

 
 
 
「チェギョン!!」
 
倒れて行くチェギョンの体を抱きしめ腕の中に閉じ込める。
 瞳を閉じたまま僕の声にも何の反応も示さず、みるみるウチに頬の赤みが薄れていく。
 
「キム内官!至急車を!」
 
叫びながらも頭の中が急速に思考を失っていく。
傍でお婆様が何かを発しているが何を言っているのか理解する事すら出来ない。
 
体中の血液が冷えて行くのが分かる。僕はただチェギョンを抱きしめる事しか出来なかった。
 
 
 
「シン!妃宮を離しなさい!」
 
耳元で叫ばれたお婆様の声に現実に戻る。キム内官が車を用意した事にすら気付かず譫言のように彼女の名前を繰り返し呼び続けているだけだった。
 
―冷静にならなくては―
 
僕はチェギョンを抱きかかえ車に乗り込んだ。
 
 
 仁伯爵総合病院へ到着後検査を受け今は病室にいる。
過度のストレスによるUDNの可能性はあるが詳しい原因はまだわかっていない。
 
真っ白い病室に置かれたベットに横たわるチェギョンの顔を見詰め右手でチェギョンの手を握り締めながら顔に掛かる髪をそっと梳く。頬にはうっすらと赤みが戻り始めたが、先程の顔色を失ったチェギョンが頭から離れない。
 
「シン。妃宮の容体はどうだ?」
「お婆様。今は落ち着いて眠っています。ストレスによる神経性胃炎だと診断は受けましたが詳しくは精密検査を受けなければわからないと言われました」
 
「懐妊の可能性は?」
「…残念ながらそれはありませんでした」
 
「そうか…」
「申し訳ありません」
 
「謝る事ではないではないか」
「ええ。それに韓国を離れこの異国で一人頑張るチェギョンにこれ以上辛い想いをさせたくないのです」
 
「先程ヘミョンと話をしてきました。この事は私たちに任せなさい。そなたは妃宮の傍に付き添って安心させてあげなさい。これはわたくしからの命令です」
「お婆様。ありがとうございます」
 
 
 
お婆さまはチェ尚宮を伴いホテルに戻っていった。
二人だけになった病室に音はなく、チェギョンの腕につながれた点滴が静かに落ちていく。
チェギョンの顔を見詰めるだけで涙が込み上げてくる。遠く離れた異国の地でどれ程の不安を抱えどんな想いでこれまで過ごし来たのか。それなのに僕は自分の不安に目を向けていただなんて…情けない。
必ず幸せにする。一刻も早く彼女を取り戻す。
 
 
 
 
 
どれ程の時間そうしていたのだろう。チェギョンの瞼が微かに動きゆっくりとその瞳を開いた。
 
「チェギョン?」
「あれ?ここ…」
 
ゆっくりと辺りを見回し不思議そうな表情をするが視界に僕をとらえると優しく微笑んだ。その笑顔に増々込み上げそうになる涙を飲みこんだ。
 
「バカチェギョン」
「シン君。私どうしちゃったの?」
 
「結婚式の後、お前倒れたんだ。覚えてないんだな」
「え?え?倒れたって…なんで?」
 
「ストレスによる神経性胃炎とは言われたけど、精密検査が必要らしい。気分はどうだ?」
「ちょっとボーっとするけど大丈夫。さっきも突然吐き気がして驚いたけど倒れちゃうとは、ははっ…ゴメン」
 
自分が倒れてしまった事が本当に不思議だったのだろう。無意識にストレスをため込み周りに心配を掛けまいと振る舞ってきたチェギョン。これ以上不安な思い何てさせたくない。
 
 
「そういえばお婆様が懐妊か!って言ってたけど、そうなのか?僕に覚えはないけど…まさかユルの子か?」
悪戯っぽく言ってみると真っ赤になったチェギョンが僕の胸を叩いた。
 
「もう!バカシン」
チェギョンの元気な様子にやっと体の緊張が解れたきがする。頬を膨らませる真っ赤な顔のチェギョンにそっと顔を近づけるとゆっくりと瞳を閉じてくれる。
 
「お前が倒れた時、心臓が止まるかと思った。無理させてごめん」
 
 
「シン君。私ね、シン君に相応しい女性になりたいって思ってる。
世界で一番輝いてる人になるって言った事覚えてる?もちろん一日でも早くシン君の元に戻りたい。だけど、ただそれを待つだけの日々を送るなんて嫌なの。
私はその瞬間を精一杯生きたい。見分を広げもっと広い視野で見詰める事の出来る人になりたいの。そのために自分の夢は追い続ける。
だけどこれだけは忘れないで、今すぐにでもあなたの傍に戻りたい。ずっと一緒にこれからの未来を共に歩きたいの。だから一日も早く迎えに来て。それまで精一杯頑張るから」
 
「チェギョン。俺もお前を一日も早く取り戻す為に精一杯頑張る。だけどな、お前の体が一番なんだ。
このままこのマカオに一人置いて俺が帰る訳に行かないんだ。さっきドクターに精密検査が必要だと言われた。このマカオで検査を受けるより。韓国に戻って検査を受けて欲しい。これから姉上に交渉する」
 
「シン君。私は大丈夫よ、ムリしないで」
「無理じゃない!そうでなければ俺が心配でたまらないんだ」
 
「ふふっ。シン君気付いてる?」
「何が?」
 
「さっきから『俺』になってるよ」
 「ふっ。タガが外れたのかな。インの前だけでは俺だったんだよな。宮内で使う訳に行かないからな」
 
「何か新鮮なシン君だ!」
 
チェギョンの笑顔に安堵する。だが不安が無くなった訳でも問題が解決したわけでもない。
これから僕がすることは山ほどある。今回の事で僕が今しなければいけない事がより明確になりチェギョンの帰国を叶える為の絶好のチャンスなのだ。何があろうとも逃すわけにいかない。
  
 
 

始まりの朝 11

 
 
 眩しく煌めく木々の青さと心地よくそよぐ風。昨日とは一変して全てが美しく感じる風景。
このマカオでチェギョンに再開した日と同じ、いやそれに勝るほど輝く街並み。
ふと目を奪われたショーウインドウ。式までの時間を確認し僕は携帯を取り出した。
 
 
 
 
 
教会の控室で待つ僕の元にお婆様が現れた。
 
「シンおめでとう。あなた達には本当に苦労を掛けてしまったな。一日も早く妃宮の帰国を実現させます。
 だから必ず幸せになりなさい」
「お婆様。ありがとうございます。僕の一日も早くチェギョンと共にいられるよう努力します」
 
「先程妃宮が教会に到着しました。そろそろ全ての支度が整うようです。貴方は祭壇の前でチェギョンを待ちなさい」
「え?式の前にチェギョンに会う事は出来ないのですか?」
 
「そうですよ。あなたはバージンロードを歩くチェギョンを祭壇の前で迎えなさい。わたくしはチェギョンと共にバージンロードを歩きます。実はね一度歩いて見たかったのじゃ」
 
幼い子供の用に無邪気に笑うお婆様を可愛く思う。だが、チェギョンに一目会いたいと思っていたのにそれは叶いそうもない。
 
 
パイプオルガンの音が響き渡り緊張のせいからか胸が苦しくなる。
教会のドアが開かれ純白のウエディングドレスに包まれたチェギョンが姿を現した。その瞬間全ての音が消え、時が止まったように感じたのは僕だけなのかもしれない。
 
チェギョンはお婆様に手を引かれ一歩一歩僕に向かって歩む。少し俯き加減にしながら僕を見詰めるその瞳に息をする事すら忘れてしまう。僕はチェギョンと本当に結婚する事が出来るのだと実感する。
 
僕の隣までくるとお婆様がそっとチェギョンの手を僕に向ける。その手に自身の手を添えるだけで震える。
チェギョンは微笑みながら僕の手を取り神父の前に進み出た。
 
 
 
「新郎イ・シンさん 貴方はシン・チェギョンさんを妻とする事を望みますか」
「はい。望みます」
 
「この結婚を神の導きによるものと受け取り、その教えに従って夫としての分を果たし、健やかなる時も病める時も、富める時も貧しき時も常に妻を愛し、敬い、慰め死が二人を分かつまで貴方の妻に対して堅く貞操を守る事を誓いますか」
 
「誓います」
 
「新婦シン・チェギョンさん 貴女はイ・シンさんを夫とする事を望みますか」
「はい。望みます」
 
その瞬間チェギョンの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。僕はそっと彼女の腰を支えゆっくりと頬を拭う。
 
「この結婚を神の導きによるものと受け取り、その教えに従って妻としての分を果たし、健やかなる時も病める時も、富める時も貧しき時も常に妻を愛し、敬い、慰め死が二人を分かつまで貴女の夫に対して堅く貞操を守る事を誓いますか」
 
「誓います」
 
 
 
その誓いに僕の心は高鳴るばかり。隣に立つチェギョンがゆっくりと僕に向ける視線は真っ直ぐで流れ続ける涙がこれ程美しいとは今の今まで知ることはなかった。
 
「続いて指輪交換のセレモニーを行います」
 
神父のその言葉に涙を浮かべたままのチェギョンが驚いた表情で僕を見詰めながら胸元の指輪に手を添える。
それに笑顔で応えながら僕は神父に向き直るとチェギョンも自然にそれに倣った。
そして神父が差し出した純白のクッションの上に置かれた二つの指輪を目にするとまたも驚いた表情で僕を見た。
 
「さっき見つけて。急に用意したものだけどチェギョンに似合うと思ってキム内官に頼んだんだ」
 
教会に向かう途中見つけたショーウィンドウに飾られた二つの指輪。それは特別あつらえたものでも、どこぞの高級ブランドの定番アイテムでもなくシンプルなホワイトゴールドに小さなダイアが付いたペアリング。
特別なものでなくてもいい。ただ今日と言う日に僕達だけが知る特別で構わない。
そのリングに僕の今の気持ちを掘ってもらう。ただそれだけで。
 
 〜 I love you more than you 〜 
 
その言葉だけを贈りたい。
百年先も愛を誓う。例えどんなに苦しくても辛くても、この愛だけは変わらない。
 
 
「誓いのキスを」
 
神父の言葉に互いに向き合いチェギョンの肩に両手を添える。
頬へのキスは短くて、それは吸い込まれるように花嫁の唇に落とされた。
 
一度は治まったはずの涙が片方の瞳から零れ落ちる。お婆様の嗚咽が祭壇に居る僕達の耳に届くともう片方の瞳からも零れ落ちる。僕はハンカチでそれを拭い声を掛けた。
 
「大丈夫か?」
それに頷くとチェギョンは神父の方を向いた。神父はチェギョンににっこりと微笑み掛けると
 
「お二人の結婚が成立した事をここに誓います。私達の前で交わした誓いを神が固め、祝福で満たしてくださいますように。アーメン」
 
祝福の讃美歌の中、僕達は退場した。
 
 
 
「シン君。頬にキスじゃなかったの?」
「急にしたくなって気付いたら・・・ごめん」
 
「ふふっ。それと指輪ありがとう!スッゴクうれしい。でも、私の方が好きなんだからね」
「その言葉は僕のモノ」
 
I love you more than you   僕の方が愛してる。
 
教会から出てきたお婆様とチェ尚宮にライスシャワーを浴びせられ幸せに包まれる。
厳かい鐘が鳴り響き、それは潮騒と混じって音楽を奏でる。
 
「チェギョンさっき言い忘れた ―――すっげ―綺麗だ!」
 
豪華すぎるウエディングドレスではなく、シンプルな純白のそれはチェギョン自身が放つ素の美しさを際立たせる。全てが輝いて眩しすぎるくらいだ。
僕は彼女を引き寄せもう一度口づけた。
 
 
 
 
「オンニ―写真とってーっ」
 
そう言いながらポーズを決めるチェギョン。そして隣に寄り添い頬を寄せ合い二人の姿を収めて行く。
 
「シン君。ちょっと待ってね」
不意に僕から離れチェ尚宮の元へ駆け寄るチェギョン。
そっとブーケを差し出すと驚いた表情のチェ尚宮が目に入る。
 
「オンニも結婚しなきゃ!やっぱりオンニにも幸せになって欲しいの!」
 
その時チェギョンに異変が・・・。
嘔気をもよおしたかのように口元を押さえ込む。
 
「チェギョン!」
驚くお婆様のチェ尚宮の表情からも不安を誘い駆け寄りチェギョンを支えた。
 
「もしかして懐妊か?」
 
お婆様の突然の発言に驚きを隠せない僕とチェギョンは見詰めあったまま固まった。
そしてそのままチェギョンは力なく崩れ落ちた。
 
 
 

始まりの朝 10

 
「お婆様ただ今戻りました」
「おお妃宮、シン」
 
「お婆様。ご心配をお掛けして申し訳ございません」
「本当にそなたは…。シンこれ以上妃宮を苦しめるような事をしたらわたくしが許しませんよ」
 
「はい。お婆様」
「それからヘミョンからの伝言です。『妃宮を悲しませた罰としてもう一日マカオに滞在しチェギョンを思いっきり幸せな気持ちにさせなさい』そう言って今日のフライトをキャンセルした。帰国するのは明日の18時の便です」
 
「ありがとうございます」
 
あと一日。もう少しだけ長くチェギョンと居られる。
『チェギョンを思いっきり幸せに・・・』それなら僕が出来る事は一つだけ。
 
「お婆様。お願いがあるのですが聞いていただけますか?」
「どうしたのじゃ」
 
僕は隣に座るチェギョンの右手を取り包み込む。そして彼女の瞳を覗き込むと不思議そうに僕を見詰める彼女に微笑んだ。
 
「昨日僕はチェギョンにプロポーズをしました。大人の決めた結婚ではなく生涯を共にしたいと思える彼女に真剣にプロポーズをしたのです。そしてチェギョンはそれを受けてくれた。出来る事なら僕達の本当の結婚式をしたいと思っています。時間がない事は十分承知していますが、今日この地で挙げたいのです」
 
「シン君」
 
嬉しそうに瞳をうっすらと揺らすチェギョン。あまりの愛しさに僕は繋いだ彼女の手を僕の口元に運び優しく唇を落とした。
 
「分かりました。キム内官早急に教会の手配をして下さい。それからウエディングドレス…」
「いえ、ウエディングドレスは結構です。チェギョン持ってるんだろ?」
 
「え?シン君知ってたの?」
「あぁ。ここに来る前に温洋で母上に聞いたんだ。母上がお前に贈ったウエディングドレスの事」
 
「まぁ。そうだったのか。それなら後は教会の手配が出来ればいいのだな?」
「えぇ。お力添えお願いできますか?」
 
「勿論だ。キム内官頼みましたよ」
「かしこまりました」
 
それからの僕達は、いやチェギョンがせわしなく動き回った。自分達だけの結婚式を挙げたいとは思っていたがまさかこのマカオで挙げる事になるとまでは考えておらず、僕の衣装は持参したものの中から選ぶことにした。
肝心の花嫁は母上に贈られたウエディングドレスがあるし、後はブーケとティアラ。今のチェギョンにはティアラより花の王冠がよく似合うだろう。チェギョンもそれを望み花屋へ行き自分で花達を選びブーケと花の王冠を作った。
 
手先の器用なチェギョンは楽しそうにそれらを作っていく。僕はただそれを見詰めて居るだけで幸せだと思えた。
丁度その頃お婆様より連絡が入り、聖フランシスコ・ザビエル教会で式が挙げられるとの連絡が来た。
 
「チェギョン、マカオの友達を招待しなくていいのか?」
「急だったしね。それにお婆様とチェ尚宮オンニがいてくれるからそれだけで十分よ。シン君と私をよーく知ってる二人が祝福してくれればそれだけで幸せよ」
 
「なんだよ。俺は町中の人に見てもらいたいよ。夫の俺をボーイフレンドだなんて…。なぁやっぱり招待しないか?」
「もうシン君、私はまだこの国で暮らすのよ。韓国の皇太子妃ではなく一般人の留学生シン・チェギョンでいたいの」
 
「だって結婚してるって分かれば…」
「分かったら何なのよ」
 
「変な男がよって来ないだろ」
「バカ、この町の人達はシン君の事知ってるの。アントニオだってボーイフレンドって言っただけでシン君って分かったじゃない。心配し過ぎなの!オンニ―っ出来た準備手伝ってー!」
 
そのまま嬉しそうにチェ尚宮の元へ駆け出すチェギョンに僕はゆっくりと頭を振る事しか出来なかった。
 
30分程したころチェ尚宮が僕の元に来て
「殿下申し訳ございませんが先に教会に向かっていただけますでしょうか。妃宮媽媽は教会で待っていて欲しいと仰っております」
そう言って頭を下げた。
 
出来る事ならばここからチェギョンと一緒に教会に向かいたかったが、それが乙女心というものなのかとしぶしぶ納得し教会へ向かった。
 
 
 
 
 

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