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いつの間にかチェギョンの隣で眠っていた俺は自分の頬に触れるチェギョンの指で目を覚ました。
「シン君ありがと」
囁くような彼女の声に薄っすらと目を開けると俺が起きたことに気付かずに柔らかく微笑みながら頬を撫でる彼女が見える。
なんとなくこのままチェギョンを見ていたくて薄目を開けたまま寝たふりをしていた。
俺の顔に掛かる髪を指先で優しく梳き、そのまままつ毛を掠める。その感覚に目を閉じたまま瞳が動くと驚いたのか彼女の指先が止まる。それ以上の反応がないとわかると今度はゆっくりと唇に触れる。そのまま俺の唇の横に口づけし、また優しい瞳で見詰めている。
「シン君。ずっと傍にいたいな」
「俺も」
「起きてたの!?」
俺が起きてた事に驚きながら真っ赤な顔をして叫ぶチェギョンがかわいい。
「ぶっ。チェギョン耳まで真っ赤」
「いつから起きてたのよ」
「うーん。俺の前髪を梳く前辺りから」
「起きてるなら起きてるって言ってよ!
頬を膨らませ睨みつける顔までもが可愛くてチェギョンを自分の胸に抱きしめた。
「…苦しい」
「俺を見詰めるお前を見ていたかったんだ。お前起きてる時はそんな顔で俺を見詰めることないからな」
「私はいつもあっつーい眼差しでシン君を見詰めてますけど」
「お前の熱い眼差しは食べ物にしか向けられないかと思ってた」
「ひっどーい!」
こんな何気ない会話が楽しくて、チェギョンが傍に居るだけで嬉しくてたったこれだけの事が至福の時だと感じるなんて、きっと昔の自分からは想像もしなかっただろう。
窓から差し込む朝の光が音もなく降り注ぐ病院の一室。その広い部屋に置かれたベッドに横たわり白い壁白い天井に囲まれるだけの空間。
だがそれがこんなにも幸せな空間に変わるだなんて。
「これでお前が元気なら申し分ないんだけどな」
「ん?」
「まだ熱があるんじゃないか?少し体が熱い気がする」
「ねぇシン君。今日は退院出来るかな?一緒にアパートに帰れるかな?」
「どうだろうな。後でドクターの診察があるからその時に聞いてみよう無理に退院しても心配だからな」
「うん」
笑顔で頷くチェギョンをもう一度抱きしめると俺はベッドを降りた。
「シン君どこかに行くの?」
「いや、そろそろナースが来るころだと思って」
言いかけた所でノックの音が響きナースが検温の為病室に入ってきた。
ナースは検温を済ますとドクターの診察時間を告げ病室を後にする。
「妃宮さま。皇太弟様はお優しい方ですね。とてもお似合いのお二人に感動しました」
と自宅の庭に咲いていたというガーベラを病室に飾って行った。
「なんか元気になれそうなお花ね」
「そうだな。ガーベラの花言葉は希望だったな」
「シン君。花言葉まで知ってるなんてなんかムカつく」
「何でムカつくんだよ」
病室に飾られた黄色いガーベラ。まるで太陽のようなその花の花言葉は究極の美しさ。
どんなに辛い時も笑顔を向けてくれるチェギョンのような美しい花。
「本当に大丈夫なのか?」
「うん。だって熱って言っても本当に微熱でしょ。吐き気だってないしすっごく気分がいいの。だからアパートに帰りたい」
ドクターの診察を受け自宅に戻る許可を得たが、微熱がある事が気にかかる。
病室の中でストレスを感じるより、慣れた環境でのびのびと過ごす事の方がチェギョンの体への負担も少ないとのことではあるが、もしもまた倒れたらと思うと不安になる。
ただ、チェギョンが喜ぶのであればそれを叶えてあげたいという気持ちは強い。ムリに病室に押し込めこれ以上ストレスを与えてしまうような事もしたくない。
「あ…その顔」
「え?」
「結婚したばかりの頃。シン君のその笑顔を見るのが辛かった」
「俺どんな顔してるんだ?」
「口元はね、フッと笑うんだけど目が凄く悲しそうなの。結婚したばかりの頃その笑顔を見る度に、ムリして笑顔を作ってるのが分かって悲しかった。笑顔って言うより冷たい笑顔に見えてたから」
「冷たい笑顔…ごめん。そんなつもりはなかったんだ」
「うん、今なら分かる。その笑顔の時ってシン君は怒ってたり呆れてたりしてたんじゃない。凄く悲しくて寂しい時、辛い時に出る笑顔なんだよね」
「チェギョン」
「心配掛けてごめんね。ムリはしないから。シン君の傍に居たいだけなの病院ではなくもっと安らげる空間でシン君と一緒に居たかった」
「絶対に無理はするなよ」
「うん。ちゃーんと大人しくしてるからシン君家事よろしく!」
「はっ?家事って俺がか?」
「そうよ!ボーイスカウトの腕前楽しみにしてるからね」
アパートに帰れる事を心底喜ぶチェギョンはドクターの言いつけ通り、とは行かないが普段より安静に過ごしドクターより普段通りの生活に戻っても大丈夫だと言われたのが三日後だった。
だが、まだ姉上からの帰国の連絡は入っていない。
「シン君今日は私が夕飯を作るからね。ねぇ、何が食べたい?」
「チェギョンが作ってくれるなら何でもいいよ」
「うーんそう言うのが一番こまるんだよねぇ」
俺がカゴを持ってチェギョンがその中に食材を入れる。なんだかこそばゆい。
いっしょに買い物して見つめ合って、これぞ新婚!見たいな事をこの俺がするなんてな。夏の離宮に行った時以上に幸せを感じてしまうのは当たり前だな。
そんな事を考えて勝手に緩んでしまう頬を押さえると「どうしたの?」何て聞いて来る。
「何でもない」そう返しても頬の緩みは止まらない。
「変な顔」そんな憎まれ口を叩く俺に頬を膨らませるチェギョン。そんな仕草も可愛くてたまらないなんて重症だな。
買い物を済ませ荷物を持ち、空いた左手を差し出すとチェギョンが指を絡ませる。
蕩けるような笑顔を向け弾むように歩くチェギョン
「何か楽しいね」
「おまねぇ。頼むからその顔俺以外の男に見せるなよ」
「えっ?」
「―――残念。荷物さえ持ってなければ、抱きしめてキスするのに」
『何言ってんのよ!』
チェギョンならきっとそう答えると思ってたのに。
俺の右腕をよじ登るように掴みながら背伸びをすると俺の頬に唇を寄せる。
思いがけないその仕草が可愛くて思わず顔が熱くなる。
「ふふっ。今日は特別!シン君がいつもより優しいから」
少し照れながら軽やかに走り出す。
その後を追いかけるようにゆっくりと走りだす。
これから始まる毎日がこんな穏やかな日々であって欲しいと願いながら。
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