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ピンと張りつめた空気を体中に感じ執務室に籠ったまま大きく深呼吸を繰り返した。
これから自分に降りかかる責任の大きさに体の震えを止める事すら出来ない。
【皇統を継ぐ】
それは幼い頃より覚悟していた事だ。
だが、チェギョンと触れ合う前の俺はたまたま皇族として生まれたから引き継ぐモノ。としか考えていなかった。守るものが出来て初めてその責任の大きさを知ることができた。
『国民をバカにしないで!』
そう言ったチェギョンの表情は今でも忘れる事は出来ない。国民、そして皇族とは何なのか・・・それを考えるきっかけを作ってくれたチェギョン。
だが、俺に国民を守る事なんて出来るのだろうか。そう思うと体が震える。
国も民も全てが幸せに包まれて笑顔で過ごす事が出来るのか・・・。
ソファーに深く腰掛け組んだ足の上に置かれた拳に力が入る。目を閉じたまま天を仰ぎ心を落ち着かせようと深吸い込む呼吸が体中を駆け巡るのが分かる程だ。
そのままどれ程の時間が経ったのだろう。
俺の手を包む暖かな優しい存在にゆっくりを瞳を開いた。
「シン君」
「チェギョン。ごめん気付かなかった」
「そうみたいね」
柔らかく微笑むチェギョンに強張っていた俺の顔も自然とほころぶ。心を落ち着かせるために繰り返した深呼吸も全身に力が入ったままでは何の意味もなさない。
「シン君の指先冷たいね。」
チェギョンは知っている。俺が極度の緊張状態にあるときは指先が冷たくなる事を。きっと聴きたい事は多いはず。だが多くを語らず微笑みを向けるチェギョンに先ほどまでの緊張がゆっくりと解かれていくのが分かる。
チェギョンの持つ強さに出会ったころは気付かなかった。否、気づいていたのかもしれない。世界の巨匠の作品を招いた皇室主催の展覧会会場で身を挺して俺を守ろうとしたチェギョンの姿は、決して男に守られて傍で微笑むだけの女ではないことを俺に見せつけた。
チェギョンは俺の隣に肩を並べ立てる女だ、そしてその強さと優しさで俺だけでなく周りの者を魅了する力があるのだと。
「チェギョン」
「ん?」
「さっき姉上に呼ばれた」
「うん」
「2か月後俺達は即位し戴冠式が行われる」
「そっか」
「俺に国が守れるのか不安なんだ」
「シン君」
俺は今きっと情けない顔をしているだろうな。俯いたまま顔を上げる事が出来ない俺をチェギョンが優しく抱きしめた。
「シン君。シン君はどんな国を作りたいの?」
「わからない。ただチェギョンにはずっと笑顔でいて欲しい。それと同じように国民が笑顔で過ごせたらどんなに幸せだろうって思う。大切にしたい人達を守れる強さを持った国。国民が自由に過ごせれば・・・」
そのまま言葉を詰まらせた俺の両頬に手を添え優しく包み込むチェギョン。
「大丈夫。シン君にならできるよ、私はシン君程優しい人を知らないから。心の痛みや寂しさを分かってあげられる優しくて強い人だから」
「優しくて強い・・・俺が?」
「うん。だってシン君はいつも私を包み込んでくれるでしょ。そして何があっても私や家族を守ってくれる強さを持ってる。それに・・・」
「それに?」
「シン君は心の痛みを知っている人だから」
「チェギョン」
「私が傍に居る。だから一緒に国民の皆さんを見守ってシン君の理想の国を作って行こう」
「俺はお前の自由をまた奪ってしまうかもしれない、また窮屈な思いをさせてしまうかもしれない」
「シン君、人の自由ってどのくらいの広さか知ってる?」
「え?」
自由に広さがあるのかと不思議に思う俺の前にチェギョンは立ち上がり両手を広げそのままクルリと回転すると微笑んだ。
「これだけなんだって」
「・・・」
「人の自由は両手を広げた範囲なんだって、どんなに頑張ってもこれだけなんだって。だからここに収める事の出来ないモノは捨てるしかないの。何を守って何を捨てるか、それを決めるのは他の誰でもなく自分自身」
「あぁ」
「人は生きていれば大切にしたいモノや守りたいものがどんどん増えていくのよね。その全てを手に入れる事は不可能に近いのかもしれない。だからこそ人の自由を侵さずに幸せに過ごす努力をしていくんだって」
「チェギョン。お前は広い世界に出たいんだろ」
「どんなに広い世界に出ても常に自分の両手を広げた範囲の自由が広がるの、それをはみ出せば人の自由を奪う事になってしまう。限られた世界で自由に幸せに過ごす事。それは全ての人に与えられた幸せなのよ。シン君もそう。シン君が自由を奪われたと感じたのは常に近くに人がいたからでしょ。手の届く範囲にも人が常にいたから。満員電車みたいなものよね」
満員電車と皇族の不自由さを同列で考えるのか。チェギョンらしい発想に微笑みながらもその先を聞きたいと思ってしまう。
「あっ、シン君満員電車なんて乗った事ないか。だから侵されない自由を互いに尊重しながら幸せを詰め込んでいくの、それに私の自由はシン君と共にあるのよ。私の自由と幸せを願うなら私の傍から離れないでね」
そう言いながらチェギョンは再び俺を抱きしめ背中に回した腕に力を込める。
「人の幸せを願うなら自分が幸せで微笑んでいる事なんだと思う。どんなに不安があってもシン君の笑顔で人は幸せになれるはずだから。国民の一人一人を尊重して想いやる事で幸せのオーラは伝わるんじゃないのかな?」
「チェギョン」
「ありがとな」
チェギョンの精一杯で俺を元気づけようとしてくれる。人の自由を他人が図れるものではない。自由を尊重しながらも幸せでいようとし続ける人々を見守る強さ。それを俺に伝えようとしてくれているんだな。
俺の両手に入る大切なものと自由。
そして大切なモノを抱きしめるこの心があれば俺達は幸せでいられる
腕の中で幸せそうに微笑む大切な存在を永遠に失わないために俺は強くなろう。
昔の俺は怖いものなんて何一つなかった。
大切なモノなんて持ち合わせていなかった。
チェギョンに出会うまでの俺は失うものなんて何もなかった。
チェギョンに出会って初めて気づいた。俺がどれ程弱い人間かを。
俺がチェギョンを必要としているように、チェギョンも俺を必要としてくれる。それがどれ程俺に力を与えているか、お前は知っているか
お前の事を知れば知るほど。
愛すれば愛するほど。
そして今自分が置かれた境遇に恐怖を覚えた。それは守るべきものの大切さをしったから。
だけどチェギョンが傍に居る限り俺は強く優しくなれるだろう。それをお前が教えてくれたから。
「チェギョン、ずっと俺の傍に居てくれるよな」
「当たり前でしょ。だってシン君が居ないと退屈だもん」
この先何があってもこの想いだけは変わらない。
永遠に愛するということ・・・。
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