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トムラウシ

トムラウシ

山に登らない人には何の呪文か
はたまた牛の品種か

トムラウシは北海道第二の高峰で
トムラウシ川からその名がついたのだろうと、
日本百名山の著者、深田久弥は書いている。
ヌメヌメした川の意だそうだ。

トムラウシ

その独特の響き
初めてその名を聞いたときから憧れだった


かつては北海道の秘境だった。
百名山に選ばれて多くの登山者が訪れるため、
今では、秘境の山とは言えなくなったかもしれないが、
選ばれなければ、コンクリの東京で暮らす自分にとっては
登る機会はおろか
知ることすらなかったかもしれない。

奥深いのは相変わらずで、空港からのアクセスが悪く、
短縮登山口を利用すれば、健脚な人なら日帰りは可能だろうけど、
たとえ日帰りでも車泊するか直ぐ下の国民宿舎東大雪荘を利用するか。
多くの登山者は山中に一泊する。

今回我々もこの東大雪荘を利用するつもりだったが、
改装のため八月で営業を終えていた。
そのため天人峡からの登山となったわけだけれど、
たとえ短縮登山口を利用しても、ヒサゴ沼には泊まりたかったから
日帰りではなかったと思う。


天人峡から雨の中なんとか避難小屋に入ると、
先客は地元のおじさんと茅ヶ崎から来た爽やかな青年のふたりだけだった。
建物は大層立派で、中は二階建てになっていた。
シルバーウィークとあって大層混雑しているかと思ったら
空いていて拍子抜け。
ただ、おじさん曰く、まだまだ後ろがいる!らしい
まだ空いているのでいい場所を確保出来た。

大荒れの中登ってきたため、話は自然とトムラウシの大量遭難の話になった。

今から数年前の7月、
ガイドとともに数名の登山者が低体温症に陥り亡くなった痛ましい事故
ちょうど今回と同じように、ヒサゴ沼には白波がたって荒れていた。
雨の中出発した一行は厳しい環境に少しずつ遅れる人が出てきて、
やがてバラバラになり一人ずつ歩けなくなっていった。
とおじさんの話に聞き入った。

百名山とはいえ本州の山と比べ登山者が少ないから、
低体温になって動けなくなっても、
助けは望めないのは、今日の行程13キロであった登山者が
僅か一組ということからも想像にかたくない

もし低体温症になったのが一人だったら、何とかなったかもしれないが
ふたり以上になるとガイドの力だけではどうしようもできなかっただろう

低体温症が怖いのはほぼ自覚症状がないこと。

雨の降る稜線で長いこと風雨にさらされると、当たり前だが寒い。
一枚着込めば良いのだけれど、
雨の降る中で登っていると、「ザックをおろしてザックカバーを外し、
中から上着を取り出し、レインウェアを脱いで、上着を着て、
レインウェアを着て、再びザックカバーを取り付け、ザックを背負う。」
という一連の流れが、大層面倒に感じるから、もう少し我慢してみようと考えてしまう。ましてや集団で登っているときなど、自分のせいでパーティー全員を足止めさせてしまうから余計に躊躇してしまう。初めて出会った人同志の即席パーティーならばなおさらだ。

このトムラウシでの事故もツアー会社が募集したものに集まった即席18名のパーティーだった。50代から60代で、おそらくは調子が悪くなっても迷惑をかけてしまうから、と言い出せなかったのではないか。

しかし、そういう考えは山では危険だ。
寒く感じていればいいが
そのうちに寒くなくなって、眠くなればすでに低体温になっているのは間違いない。大丈夫?と聞かれても大丈夫と答えるか何も答えないのがおちである。
体温はすでに33度を下回っているだろう。

ただ眠いだけで、静かに歩いているから本人もまわりも体温低下に気づかない
昨日は寝不足だからとか硬いマットで良く眠れなかったからとか言って
眠さの理由を考えることだろう。

ここで気づけばまだ危険ゾーンから生還できるのに。
でも気づかない。小屋などの安全地帯はまだまだ先。
そのうちに
歩きながら寝言を言い出す
ブツブツ
他の登山者も、寒い中自分のことで精一杯で、それがおかしいことに気づかない。
すでに体温は30度を下回り始める
そして錯乱が始まって、ようやく周りが気づいても手遅れ

やがて人事不省となって動けなくなる。

最後にはだいたい一言発するらしいが、なにを言っているのか大抵は聞き取れないという。
遭難した女性もまた北沼のほとりで沼に向かって話していたとか

山に登らない人は凍死というとカチカチに凍ると考えがちだけれど眠くなるのは33度くらいで28度迄体温が落ちれば多くの人は意識を失う

だから秋の山で風雨にあたり続ければ簡単に凍死してもおかしくない。
寒いうちに一枚着ること。当たり前だがこれが大事なこと。
こんなこと書いても低体温症で亡くなる人は絶えないだろう
せめてこれを読んだ人はどこかで覚えていてほしい


さて、避難小屋の温度は低いが、風雨をしのげるし、広いので調理も楽だけれど、
テントより寒いのが常である。吐く息が勢いよく白い!

今回は荷物を軽くするため夏用のシュラフだったから、
寒くてエマージェンシーシートを使った。
このペラペラのシートがあるだけでずいぶん暖かさが違うから
どんなときもザックに忍ばせ携行している

もう少し寒かったらテントのフライシートを使うつもりだったが、
だんだん人が増えて調理をするおかげで、小屋も温かくなり使わずに済んだ。


朝方トイレの我慢が限界となり、冷える中外に出てみると星が出ていた。
快晴だった。
東の空が白む。ウペペサンケ、ニペソツ。まるで呪文だ。
石狩岳がその黒いスカイラインを、紫がかった灰色の空へ浮かび上がらせる。
谷の奥にはまだ十分に光が届かないから、シルエットは平坦で厚みのないものだったが、日の出が近づくにつれ、山の表情が浮かび上がりくっきりしてくる。
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黎明の中、まだ知らない山ばかりで、想像して楽しむ。

最高だ
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雨がやんだあと、
空気がキーンと冷えて閉じ込められていた濡れた落葉の匂いも
太陽が上がるにつれ、鼻をくすぐりだした

寒さも忘れ見入っていたらガタガタ震えがきた。

絶景トイレを済ませ小屋に戻った。


朝食を食べながら小屋から順次出て行くのを見送っていると最後になっていた
箒で床を履き感謝の気持ちを小屋に伝え出発
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今日の行程は長いんだ
まだ地平線からそれほど離れていない太陽が、
紅葉に染まる大地を、より一層赤く染めている
まわりの空気すら赤い
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ヒサゴ沼は穏やかで昨日見えなかった対岸がこんなにも近かったのかと驚いた。

小さくなった雪渓から水が流れ出てヒサゴ沼へ注いでいる
ごくごく飲んだら美味そうだが、
ここは北海道だから残念ながら煮沸が必要だ。
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キタキツネは北の国からの影響もあって観光客には人気があるが、
登山者にとっては、寄生虫エキノコックスを撒き散らす厄介な存在だ。

驚くことに、最近は青森でも確認されているようで、うかうかしていると本州の山でも水をそのまま飲めなくなるんじゃないかしら(´・_・`)
ここトムラウシでも野ねずみが登山道で死んでいた
もしかしたらエキノコックス症かもしれない
イメージ 17ネズミの写真(気持ち悪いです)

先日岩手山に登ったところモグラが死んでいたが
もしかするとエキノコックス症?恐ろしい。


平坦な稜線に上がると、木道の先の稜線の上、
山頂が三つにわかれて山という字そのままの姿でトムラウシが頭を出していた。その重厚なすがたに、始めまして!よろしくお願いします。そんな心持ちになる
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美しい日本庭園を超えると岩ゴロの斜面で先に出た登山者たちがへばりついているのがみえる
そこかしこからナキウサギの声が聞こえるけれど恥ずかしがり屋で姿を見せてはくれない

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北沼は穏やかで微笑んでいるような気がした。

犠牲になった方へそっと手を合わせ、

最後の岩場をひと登りすると山頂の一角であった
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南には十勝岳連峰が北には大雪の山々そして東には阿寒や羅臼岳までがみわたせる

まさに北海道のヘソというべきだろう

この景色を見られ幸せだ

一時間ほど眺望を楽しんで山頂をあとにした。

途中振り返るとどこから来たのか雲がぽっかりとトムラウシを包んでいた
今までの明るい姿と裏腹に
哀しみがトムラウシを包んだ気がした


下る途中ナキウサギが二度三度と姿を現し我らを見送ってくれて慰めてくれた

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