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映画『クィーン』は、ヘレン・ミレンがそっくりな格好をしてクイーンズイングリッシュの女王になりきった演技でアカデミーを受賞した影響か、評判がいい。 ダイアナ元皇太子妃の事故死による女王の決断を描いたこの作品が制作されたのは2006年で、私は日本公開前に機内で観ている。内容は当時、毎日の報道にあったことだから別段驚きもしなかった。 現存する衆目の有名人を、しかもタブー性がある王室という世界を描いて、よくも今作ったものだと思わせるが、なぜ今なのかの回答は作品からは伺えなかった。 こういう作品を作られるのも、作らせるのも、英国王室の「国民とともにある王室」の開かれたイメージをさらに強いものにするだろう。 エリザベス役の演技はへレン・ミレルのそれが主軸となって、これから先に演ずる役者は彼女と比較されていくだろう。トニー・ブレアを演じたマイケル・シーンも似ていた。彼は監督から見て政治家にうってつけの役者なのかも知れない。 現存する人や映像に残っている人を演じるというのは、役者が真似やすい面もあるが、しくじったら不評の的になる。この二人は成功の見本みたいなものだ。 ダイアナ役には女優を起用しなかった。本人の映像を使ったことがこの映画の成功の要因であり、観客をあたかも現場に立ち会っているかのように作品に引き込んでいく。今なお衰えず人々の心を捉え、世界中の話題をさらうダイアナを演じられる役者は当面いまい。 英国王室はそのときどきによって慣例を破ってきた。 現王室の家名はウィンザー、それ以前はヴィクトリア女王の夫君アルバートの家名サクス・コバーグ・ゴータを名乗っていたが、第一次世界大戦中の1917年、ドイツ系家名がそぐわないと、王宮のあるウィンザー城にちなんでウィンザーと改名した。だから、女王が苦渋の決断をしたと言ってもそれは、英国王室においてはそれほど珍しくないことだし、国民に応える雅量があるのが英国王室である。それぞれのときにブレア首相のような補佐が出てくるのは羨ましい限りだ。 ダイアナはチャールズとの離婚でハー・ロイヤル・ハイネス・ザ・プリンセス・オヴ・ウェールズ (Her Royal Highness The Princess of Wales:ウェールズ大公妃殿下)の称号を自動的に失うが、英国王室の慣例と次期皇太子の母親の立場から、プリンセス・オヴ・ウェールズ(Diana, Princess of Wales:ウェールズ大公妃ダイアナ )と名乗り、ケンジントン・パレスの居住を認められている。 のちにチャールズと結婚したカミラは、プリンセス・オヴ・ウェールズの使用を自ら辞退し、コーンウォール公爵夫人の称号を名乗ることにしたのも、根強いダイアナ人気に配慮したからである。 在英中に英王室一族を見る機会が何度かあった。そこでダイアナとチャールズが揃って出てきたのは1回だけだった。この頃から二人の不仲説がささやかれていた。 王室のステートメントが出され、バッキンガム宮殿にユニオンジャックの半旗が掲げられ、女王が少女から花束を受け取るテレビを観たのは、それから10年経っていた。 王室旗に包まれたダイアナの棺のあとを、チャールズと二人の息子、ウィリアムとヘンリー、女王の夫君エディンバラ公、ダイアナの弟チャールズ・スペンサー伯爵が歩いていた。ウェストミンスター寺院での葬儀の様子も覚えているし、エルトン・ジョンの『キャンドル・イン・ザ・ウィンド』も歌える。 ダイアナはオルソープにあるスペンサー家領地の池にある墓所に埋葬されたが、盗掘を防ぐため墓碑はなく、その位置はごく近しい者だけにしか知らされていない、ということも知っている。 しかし、こと天皇家のこととなると、今の天皇は誰で、皇后が美智子様で、皇太子が・・・雅子妃が・・・ 秋篠宮家に長男が誕生し・・・ぐらいである。 昭和天皇が亡くなったのは冬だった。天皇の葬儀に英国皇太子チャールズが参列しないと駄々をこねたのは覚えているが、葬儀の様子は全テレビ局が放送しただろうに覚えていない。皇太后がいつ亡くなったのかに至っては、私は全く知らない。 現在の皇室を扱った映画が日本で制作されるなどとは想像外だし、そういう企画がまず国内では出ないだろう。国民が皇室を非難することもない。雅子妃についての外国人作家の本が出版されなかったくらいだから。 この映画『クィーン』は女王が主役の映画だが、映像のダイアナが語り部の役割を担っているかのように印象的だ。何回も見た映像なのに新鮮だ。
彼女のはにかんだ少し上目使いの微笑みは、見るものに安らぎを与える。世界中の人がダイアナの美しさと、失意から立ち直って社会に貢献するその行動力に喝采をおくったものだった。ダイアナは「イングランドのバラ」といわれたが、世界中で咲いていたのだなあ、と今になってもしみじみ思う。 |

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