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元気の出る映画を一つ・・・。
『シービスケット』(2003年 アメリカ)は、ローラ・ヒレンブランドのノンフィクション『 Seabiscuit: An American Legend 』の映画化作品。アメリカが失意のどん底にいた大恐慌時代、ラッセル・クロウの『シンデレラマン』と同じ頃の、やはり実話を基にした作品だ。連戦連勝を重ねる小柄な馬に全米が熱狂、老若男女が競馬場へ走り、ラジオ中継に釘付けになった。観ていて涙が止まらない。
「seabiscuit」とは昔の航海用乾パンで、腐らないよう堅く作られ、水やスープに入れて食べたのだそうた。seabiscuitは「歯が立たない」「手がつけられない」という意味でも使われる。
ここに出てくる男たちも馬も、周りからは歯が立たないseabiscuitだった。
主な登場人物は、人生で一度は希望を失なった3人の男たちと競走馬として見捨てられた馬。この出会いが奇跡を生み、希望を失った人々のエネルギーになっていく。
シービスケットの馬主になる自動車のディーラーのハワードにジェフ・ブリッジス。
最愛の息子を失い妻ともうまくいかなくなり失意のどん底にいるが、いつも大らかで男らしいアメリカ人の役にはうってつけの俳優を起用している。
『ラスト・ショー』『サンダー・ボルト』『ザ・コンテンダー』でアカデミー助演男優賞ノミネート、
『スターマン』でアカデミー主演男優賞にノミネートされるが、まだ獲得していないのは残念だ。ロビン・ウィリアムスの印象が強い『フィッシャー・キング』これもジェフ・ブリッジスの作品。
シービスケットの調教師スミスにはクリス・クーパー。存在感のある脇役だ。
彼の役では『アメリカン・ビューティ』や『パトリオット』の軍人、『遠い空の向こうに』の頑固な父親を思い浮かべる。『アダプテーション』の蘭を不法採集する役で、アカデミー助演男優賞を受賞した時の喜びの表情は印象に残る。『シリアナ』『カポーティ』にも出演している。
シービスケットの騎手レッドになるのはトビー・マグワイヤ。
裕福な家に育ったが大恐慌で破産し競馬場に預けられ、生活費を稼ぐためにボクシングの試合に出て片目がほとんど見えないが、試練にめげず人生を諦めない内面に闘志を秘めた主人公を見事に演じている。
出演作には『スパイダーマン』のほかに、マイケル・ケインと共演した『サイダーハウスルール』がある。
馬のシービスケットは、競走馬として優秀な血筋だが、小さかったのでろくな調教も受けられず暴れてばかりいる。おまけに脚に怪我をしている。 スミスによる調教で走る喜びを取り戻し、初戦にこそ負けたがその後は連戦連勝街道を突っ走る。小さい体で懸命に走るシービスケットに、大恐慌で打ちひしがれた人々が熱狂する。傷ついた3人の男たちもシービスケットと出会うことで立ち直っていく。
主役のレッド以外の騎手は全員プロ騎手。レッドの代役で雇われる騎手アイスマン役のゲイリー・スティーヴンスはダービー優勝経験のある騎手だそうだが、演技力もかなりのもので、特に最後のレースシーンは心に染みてくる。
他に、エリザベス・バンクス (マーセラ役)、ウィリアム・H・メイシー (アナウンサー役)らが出ている。監督はゲイリー・ロス。141分の作品で、3人が出会うまでは退屈感があるかもしれないが、その後からが見応えがあり感動に包まれる。
美しい風景やシェークスピアをはじめとする文学からの引用が、作品に落ち着きをもたらしている。
見所の一つは馬の走る姿だ。馬が疾走する迫力に加え美しさがあり、駆使されたカメラ・アングルで臨場感溢れる仕上がりになっている。シービスケットの復活は天馬空を駈けるが如く、感動のクライマックスだ。
映画のナレーションに「アメリカが未曾有の不況から脱出できたのはフーバーダムの建設でもニューディール政策でもなかった。公共事業でもなければ,政府の失業対策でもなかった。一人一人が、失敗や敗北からでも立ち直れるということを分かったからだ。」とあった。
学校のアメリカ史では、アメリカ経済が大恐慌を克服したのはニューディール政策など政府の大型事業によると習ったが、それとともに人々にやる気を起こさせたのは、人々を熱狂させたシービスケットやシンデレラマンの存在があったからなのだろう。
幾度となく訪れる試練にめげず、挑戦し続ける3人の男とシービスケットを通したこの映画のメッセージ、「人生には失敗はつきものだが、諦めなければチャンスは奪われないしチャンスは再び訪れる。失敗から学べばいい。」は、観るものに勇気と希望を与えてくれる。『シービスケット』は心に語りかけてくるハリウッドの良心的作品の一つだと思う。
イギリス映画に 『Champions』という癌を宣告された騎手と骨折した馬の物語がある。この作品も実話が元になっており、観客に勇気と希望を与えてくれる。
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