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木曽の運材法
(「日本文化の遺産」民族文化研究所編)
優秀な木曾材の伐出し事業に伴って、木曾独特の伐木運材法が工夫された。これは、河川の流れを利用した輸送法で、他地方にも見られるものであるが、弘化二年(一入四五)から嘉永七年(一入五三)に至る八年間に記録された『木曾式伐木運材図巻物』二巻が、長野営林局に保存されているので、ここに再録させて頂く。
伐木事業一覧覧図
一、山植の図 山を趨とは仙人頭に材木山出しの巧者なるもの付添飯米、塩、醤油、鍋等を背負持、幾日にても行先の深山幽谷に宿り、桧、堪、黒桧など何木品にて何寸角程出来ると見積り、又谷出しは雇人夫何千人掛で大川迄幾日の間にて狩出すという大概を積るなり。
二、札小屋の図
(その一)水の手を第一の要として平日は谷水を寛(かけい)にてとり、或は汲揚て日用を足すといへども、
霧雨の節などの設に、清水を近辺に見立置く事なり。山崩れ、谷抜のおそれなき場所の材木可伐山内に補理(つくろい)、桁行は九間、梁間は二間半に限る。
(その二)四壁、屋根ともに萱、藁、唐桃(さわぐるみ)皮を以て仮初に囲い、中通り三尺は囲炉裏にして左右筵(むしろ)一枚を一人の席に定め、起居ともに他の迄にゆかず、臥時は囲炉裏の方を枕にし壁のかたへ枕するを不参枕と唱へ不快、怪我人の外はせず、また壁の方を銘々の納戸と称し他人を通さざるなり。飯米、塩、醤、持運には通例の一荷は道筋、嶮阻道にて運びがたく、米は中俵、塩、醤は七、八貫を限り人数の多少に随ひ背負持送るなり。仙人の頭を檀那といいて当日の材木の出来を平仙人より聴き質し看板にしるす。
三、祭山神の図
仙人の小足掛調い山入最初に山神を祀り、常盤木をたて注連縄を張り、頭分のもの両三人にて御酒を奉り、材木元伐に懸れるより、かくの如く一ケ月に一度ずつ不怠(おこたらず)御酒を奉り日待と唱へ通夜するなり。
四、元伐の図
(其の一) 材木根伐せざる前に斧のみねにてきるべき木をうちて、鳥或は栗鼠(りす)など飛出ればその日その木は不伐といへり。倒るる時は発声三度あぐるなり。大木は鼎(かなえ)の足の如く三ツ足、五ツ足にも伐り残すなり。
(其の二) −解説なし。
五、株焼の図
槻(けやき・欅)を伐時は必彼の鼎のごとくしてその中にて火をたくなり。しかすれば生木の水気と大気とねばり合いて割る事なしとなり、他木は然するに及ばず。
六、墨打の図
綱打、墨を打をいふ、玉木元木を放したる丸太をいふ。綱地の山刀にて玉木の両方をいささか削り鬼皮を去る。其の木何寸角に成と見積り、綱打して猶又綱の曲りにてもなきやと綱を空に引張り、腰を極めて矯(ため)見るなり。星矯(ほしだめ)と云ふは己が背を打越し、綱打べき処の日当を見極め其の座に行て墨打つなり。上手な仙人ならではしがたき業なり。
七、文六厘(ぶんりろくりん)の図
文六厘といふは、如図立木をそのまま厘に用ふるをいふ。厘と云ふは材をけづる台を云ふ。
八、御山厘の図−解説なし。
九、株祭の図
樹木伐倒し其の木の相を打て株にさしたて山神に奉り、その木の中間を山神より賜るという。古の木伐倒にて延書式大殿祭の祝詞に見え、又万葉集三ノ巻、十七ノ巻に鳥綱立(とぶさだて)とよめる、即この事なり。
十、釣木の図
材木出来上り瞼阻の岩壁などより下す時、其の鐘狩落しては突割、胴打等の損木出来る故、苧綱を以て取木と唱へ、立木に材の大小に随ひ二巻、三巻にも巻てしめおろしするを惜みのはしと云ふ。木のおもりにて取木と網と摺合火燃え出るを水をかけ又は青柴をもって打消すなり。
十一、サデの図
嶮巌の高山より伐出の節、谷筋計り出しがたき所に山の姿に随ひ丸木にて取建て、柴木を以て編み、材木引のすれば人力をかけずしておのづから走りくだる具なり。さりながら勾配強きは嶺をはづれて外へ走せ落る故土を入れて速に馳せゆかざるように構ふるなり。是を土サデといふ。また勾配弱くてはさらに不馳行(はせゆかず)、此の強弱より心得たる者ならでは造りがたき事なり。
十二、臼の図
サデの曲尺(かねじゃく)の如くまかれる隅にその材を以て組建るを宇須(うす)と云ふ。題の片方の加伝木(かてぎ)を除きて義ひ、柴に材木突きあたれば勢にて首尾振りかわし尾の方前となり、おのづから立板の上にて廻り下サデへ移るように
は造れども多くは突留り、或は横さまに成りたるのみにて不動、からくして引下せば次の材を山上より繰出す。されは日一日かかりても数多くは不通なり。此造やうは殊に日雇人夫の上手ならでは組立てがたき業なり。
一三、算盤の図
小坂山内根尾の滝上より材木、朽木伐出時は滝壷へ向ひ狩落しては疵(きず)痛みにて損木多分なる事なれば、丸木を両岸より掛渡し滝を除いて山方へ山の姿に随ひ道を造り狩出す、是を算盤といふ。其の形の似たるもって名つけたるべし。此の滝の高さ七十五尋と云 ふ。
一四、簗(やな)の図
材木を以て魚簗のごとく組立て、いささかの谷水といへども一滴も漏らさず、塞(せ)上げサデのロへ仕掛れば材は濡れてよく走り、塞上の方は水湛て材を扱ふによろし。
一五、樋の図
谷底より高き所へ材を運び上げる時、水谷を塞ぎ上げ材木を以て樋を組立て、継手には苔、芝、落葉などを詰込み、水一滴も不漏(もらさぬ)やうにして引揚るなり。
一六、修羅の図
谷筋、岩高あるひは朽木、根返木などありて狩出しがたき所に材を組立て谷水を塞掛上げるを水修羅と云ひ、若し掛り難き所には下の谷底より汲取て背負のもれる。いささかの水気を得て自由に狩下すなり。
一七、伊勢大神宮へ神納木渡入の図
仙人、山入斧初に材を伐り、吉日を選み大川に引入るを渡入と云ふ。旦竺組不残立寄、木造を謡ひ神納木を渡入するなり。男木一本、女木一本、長五尺五寸、四寸角。
十八、製材及判の図−解説なし。
十九、仙人具の図−解説なし。
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