「ハイフェッツのパガニーニを買った聴きに来い」 石山が言う。 それほどクラッシックに興味は無かった、デキシーかカントリーなら聞きたいのだが。 「向かいの家の子がやってるんだ・・見せてやる!」 石山がにやりと笑った。 えっ!!?? 「そうだ自分で・・・・」 三ノ輪に向け自転車を走らせた、石山の書いてくれた地図を頼りに。 向いの子が・・断ることなど出来ない・・・。 石山の家はすぐわかった・・・医者の看板が出ていた・・・石山の親父は医者だった。 磨きこまれて光る板の間ので石山の父親と出会った・・・軽く挨拶すると・・・低い声であ〜〜と答えた。 「こっちだ」石山に言われるまま階段を上がると、畳みの間の床の間に赤い透明なカバーが乗ったプレーヤが置かれていた。 「こっちだ」と石山は窓の腰板に座って隣の家の2階を見た。 暮れ始めた町並みに隣の家の窓が。 「今日は居ね〜」と石山は笑った。 それで終わりだった。 石山は赤いカバーを取るとLPを大事そうに取り出して丁寧に埃をふき取り、静かにプレーヤーにかけた。 細心の注意を払いながら針をレコード盤の上に下ろした。 ハイフェッツのバイオリンが流れた。 立ち上がろうとすると。 「動くな」と石山が止めた。 「しょんべんだ」 「静かに歩け・・・針が飛ぶから」 階段を下りると奥の畳の部屋で石山のお袋が針仕事をしていた、其の横に立つ石山の親父が、 「始まったのか?」とおふくろに聞いた。 ほとんどくれかけた昭和通を走り抜けて上野へと出た。 |
自分史
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