自分史

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明日船に乗るという。

手ごろな石を拾ってたくさんぽけっとに入れた。

船から投げてみたくて。

母は笑ってみていた。



大きな船だった・・始めて見る・・絵本の船と違い実物は凄い・・頼もしく・・がっちりして・・・。


薄暗い・・廊下にも人は座り込んでいる・・毛布を敷いて・・・。

既に船は走っていた・・石は無駄になった・・。


朝起きると目が開かない・・目やにでふさがれて両目ともあかないのだ・・トラホーム・・。

枕元に置いておいたおわんの水も・・空だった・・この水で目を洗って目を明けるようにと用意しておいたのだが。



舞鶴港に着いた船の上から見下ろすと・・・・。

”首切り反対”・・の文字が読めた。

怖かった。

母に話すと笑っていた。

なんだか安心した。



船を下りると簡単な検査と・・・DDTの白い・・噴霧を受けた。

用意された炊き出しのおにぎり・・・兄に背負われていた弟がそれをおいしそうに食べた。

おいしいんだねえ・・母は言った。

おいしかった・・久しぶりのお米だ・・。

殆どが高粱のぼそぼその赤いご飯を食べてきたのだから。


汽車は・・なんだか小さくて狭くて貧弱だ・・満員の人を乗せて走り出す・・・母はホームの人に・・すいませんその缶を・・と頼んだ。

窓の外を街並みが走る・・街を出ても・・まだ街だ・・・!!・・??

何処まで行っても街だ・・人家が絶えない・・・美しい緑の森も・・山も・・・川も・・何処までも人家がある!!

何時になったら街を出るのだろう??

街を出ないうちに次の駅に止まった!!

実に不思議だった。


まるで絵本に見た箱庭のような世界だ。

小さな家が柿木が・・お寺が・・神社が・・わら屋根が・・森が・・絵のように美しい。

美しさに見とれていた。

うんこ・・母は・・さっき拾ってもらった缶に・・ここでしなさいといった。



朝早く・・省線に乗り換えた・・・ひとりでにドアーが閉まった・・・誰が閉めたのだろう・・ただただ不思議だった。


武蔵嵐山の母の実家に着いた・・わら屋根の大きな家・・・。

目医者に行き目を洗ってもらった。

せいせいしタンべい・・と先生は言う。

言葉が分からない・・黙っていると・・母が笑いながら・・教えてくれた。



足を洗ってきなさい・・と言われて井戸で足を洗おうとして・・水が無い・・・。

垣根の向こうから・・・父が歩いてきた・・・!!

黙って井戸のポンプを押して水をだし・・・あしを洗ってくれた・・・。

父は黙って私を抱き上げると・・・母屋へと歩いた。

背の高い・・父の胸から・・ゆっくりと歩く父の体・・・。

涙が・・流れて止まらなかった。



今こうして書いていても・・熱い涙がこみ上げてくる・・既にそのときの・・父の年を大きくこえているのに。

めまぐるしく状況は変わっていった。

しかし治安が非常に悪くなったという感じは・・子供の私には感じられなかった。

ロスケ・・ロシア軍の兵士の強盗のような・・統制の悪さを聞かされ・・実際に家の中を家捜しされて・・ものをとられたが・・。

日本の兵隊が平気で店に並べられた物果物を取って食べるところを見ている僕にlとつて・・大して違いは無かった。

ただ・・日本兵の行為は当然のこと・・征服者の権利のように(こんな言葉は知る由も無いが・・日本人の強い立場は子供心に理解していたので)・・それほどの違和感が無いのに。

ロスケの押し入り強盗には恐怖を感じた。



整然と入城を果たした八路軍は・・宣撫工作を始めた・・日本人を集めて・・集会を開き・・歌と踊りで・・恐怖感と違和感を取り除こうと。

ソ連軍のような横暴な振る舞いも無かった・・当然無統制な・・略奪も。

というより兵士の姿を見ることは無かったのか・・見ても軍服を着ていない兵士は見分けられなかったのかもしれない。

街でそれまで横暴を振るっていた悪徳な権力者だという人たちを・・三角帽をかぶせて引き回し・・人民裁判にかけた(裁判は見ていないが)・・三角帽をかぶせて引き回される姿は見た・・何か恐ろしい出来事に感じた。

しかし治安はよかった。



小さな葬式は終わった。

弟が死んだ・・おなかが痛いと泣いて・・町のお医者さんに見てもらうと・・腸ねん転・・手術をしてもらったが・・薬も設備も無いところでの手術だ・・イタイイタイとなきながら死んでいったという。

笑顔しか覚えていない・・いつもニコニコ笑っていた弟・・ふっくらしていい笑顔の・・。

少し前・・まだ日本が負けていないときなら・・満鉄の病院もあり・・設備も薬も充分だったのに・・すべてが崩壊してすべてを失って。

弟は死んだ。



母が何処からかパン菓子を仕入れてきて・・道端に・・ガラス張りの箱にその菓子を並べて・・座り込んだ。

中国人が横目で見て通る・・少しは売れたのだろうか?

次にタバコを仕入れてきて駅弁売りのような箱を肩から提げて町の中を私は・・売って歩いた。

これも大して商売にはならなかったようだ。


開拓団の人たちが奥地から逃げてきて・・それぞれの家に割り当てられた・・・家にも一家族と一人の5人が同居することとなって急ににぎやかになった。

どうやって生活するか・・いろいろ相談していたが・・豆腐を作って売ろうと・・その支度を始めた・・。
石臼をすえて大豆を水につけ石臼で曳いて釜で煮立てて・・布でこす・・濾しとった液ににがりを混ぜて・・四角い箱に入れて固めると・・豆腐が出来上がる。

兄と二人朝早くそれをい一斗缶入れて売って歩いた・・とふー・・と声を出して。


戦争に行っていた・・あそこのお父さんが・・・帰ってきた・・・何処そこのお父さんも・・と・・となりのおじさんも帰ってきた。

しかしお父さんは帰ってこなかった。



社宅から・・街中の施設に日本人は集められた・・引き上げの準備だという・・・。

荷物はリュックいっぱい・・すべてを捨てて・・・校舎のような建物に人は集められた。

鉄条門の中で日本人は生活を始めた・・・何時引き上げの汽車に乗れるのか・・・待ちながら。

何処そこで列車がやられた・・危険らしい・・そんな話が飛んだ。



鉄条門の向こうの岡からロバに乗った男が一人降りてきた。

殆どロバから足が付きそうなぐらい・・中国人は大きかった・・日本人と区別できないとき・・大きいのは中国人と判断した。

だから大柄な日本人はよく中国人と間違えられた。

鉄条門につかまっている中国人の男の子と何か話した・・僕より少し大きな子だったが・・何を話したのか覚えていない。



日が暮れて・・空は・・星で真っ赤に染まっていた・・・空一面の星・・・全部一面の星なのだ・・・砂のように・・空一面に赤い星が・・空を赤く染めている。



汽車はゴトゴトト・・はしってはとまる・・また走り出す・・・速度は出ない・・暗い夜空に月も無い・・青黒い闇が・・遠くの木々の姿を影絵のように映す。

大きなカーブで機関車の焚く火と吐き出す煙とが・・くっきりと青い闇に浮かぶ・・力強い影絵だ。

無蓋車と貨物車と・・日本人を乗せて頼りなく走り続ける。

静かに止まると・・音も無い世界が・・・しばらく続く・・・・と・・スーツとまた動き出す・・・。

闇の中の草むらから一人の男はあわててづぼんを上げながら・・中腰で走る・・お尻に太いうんこをぶら下げて・・妙な影絵だ。



太陽が照りつける中・・汽車はホームに止まる。

あわてて人々は水道で水を汲む・・水筒や缶に・・無蓋車の人は気の毒だ。

あわただしくホームを人は行きかう。




汽車を降りるととぼとぼと歩いた・・湿地帯のようなぬかるみと・・草原を。

弟を背負う兄はこんなもの・・重たいと泣いた。

母は持てるだけの荷物を背負って・・小学3年1年そして2歳の男の子を連れての引き上げだ・・皆に遅れないように必死だ。


銃を構えた毛沢東軍の草色の軍服のコートを着て・・赤い縁取りのやはり草色の軍帽を被った・・女性兵士が日本人の流れを見詰める。

草色の軍服の兵士を始めてみた・・更に・・女性兵士・・・!!。

ここで毛沢東軍から蒋介石軍へと変わったのだろう。

透き通る初秋の青空に・・2機の零戦が・・

円を描いて飛びながら・・弾倉に残った機銃を撃ちつくすと・・

南の空に飛び去った。


1945年9月満州はチチハルの地。

公園のテニスコートのフエンス越しに見える家から、

磨きこんだ黒の長靴を履き、戦闘帽を被り、軍装を整えた軍人が背筋を伸ばして・・一人黒塗りの乗用車に乗り込むと・・北へ走り去った。


ソ連軍が入ってくる!!・・若い女子は危険だから髪を切れ・・との話が・・・・。

2階建て赤レンガの満鉄の社宅の入り口は全て頑丈な木で閉ざされ、小さなくぐり戸が取り付けられた。

2階の私の家の、押入れの厚いレンガの壁に・・隣の家へ人が通れる小さな穴があけられ、6軒続きの2階建て社宅は外を回らず非常の際に行き来できるようになった。

まもなくマンドリン(自動小銃)を抱えたロシア兵が来て、家々を捜査し、戸棚を開け押入れを探し、眼鏡と時計・ライター・カメラなどの金目のものを奪っていった。

ロシア軍が引き上げると、町に自警団が作られ、その自警団が棒の先に磨かれた槍のような穂先を取り付けて、空き缶を試し突している妙な光景を私は町で見た。


やがて・・公園と学校の南に続く果てしない原野の向こうから、八路軍がやってきた。

対峙した町の自警団と八路軍との戦いは夜中じゅう続き、大人たちは屋根の上に登ってその戦いを見ていた。

機銃の音と・・時々砲撃の音が断続的に続き・・馬車の走り回るけたたましい音が夜の闇に響き・・・明け方・・馬車の走り回る音が急に北へと変わると・・自警団は逃走していった。

自警団が逃走の際、日本軍から引き継いだ武器弾薬を焼く爆発音と青い閃光が・・空け行く空に青く光り轟いた。

戦いが終わり晴れ渡る明るい空の下に・・昼近くから始まった八路軍の整然たる入城行進は夕方まで続いた。

それは不思議な光景だった・・まるで乞食の行進だ・・だが・・乞食と違い・・汚れのない・・洗いざらしのさっぱりとした服を着てはいるが・・それは
まるで軍隊ではない。

誰一人軍服を着ていない・・思い思いの厚手の服装に棍棒をぶら下げている!!

まれに銃を担いでる者がいるが・・殆どが手ぶらで・・歩調も取らずに粛々と歩く・・とても行進とはいえない入城行進・・一体これが軍隊なのか?

小学1年の私の見た不思議な光景だった。

父の顔の上に乗り・・大きな鼻を手で振ってみた・・父は布団の中で・・だまって上を向いている。



父はお茶を飲んでいる・・静かな朝・・母はお父さんに行ってらっしゃいと挨拶をしなさいといった。
僕はいってらっしゃい・・と言ってかばんをしょって・・・学校へ。

その日から父は帰ってこなかった。


父の本棚に何冊かの本・・辞書のような分厚い本の・・マンモスの絵が描かれた・・その牙と・・足元までたれた毛並みと。


寒い日の武道館での剣道の稽古・・つべたさが素足にしみる・・磨かれて光る床・・声をあげて・・竹刀の素振りを繰り返す。



装甲車とトラックの曳く野砲・・磨きこんだ軍馬に乗る軍刀を下げた将校と・・きりっとした軍服の美しい兵隊さん・・くるくる発電機を回して電信を送る通信兵。

明るい日差しの下・・公園の昼下がり兵隊さんが休んでいる。

子供たちはそれを取り巻いて・・うれしそうに見ている・・と・・一人の兵隊さんが・・のるかい?と言って私を・・ピカピカに光る赤茶色の乗馬馬に乗せてくれた。

高い馬の上から兵隊さんの群れを見た。




特急富士は原野を走り続ける・・まばらな草原が何処までも続く・・何処まで行っても人影は無い・・無人の原野を何時間走ったろう・・と草原の人気の無い駅に止まる。

殆ど誰もいないような・・・お寺の白い壁と・・中の白い肌に・・赤と緑と金色の極彩色の仏像がチラッと見える。

特急富士の座席は・・向かい合わせで・・前にせり出してくっつけると一つになり・・フラットになる・・広軌だから巾も広い・・子供の僕にはゆったりした部屋になる。

草原を走る汽車の響きに驚いたのか・・ウサギが飛び出して汽車と競争する・・他に何も無い・・畑も無い。
アルカリの湿地帯は畑にならないのだと父は教えてくれた。


更に数時間走ってやっと町に着く・・ホームに軍人が・・軍刀を下げて軍装も美しく4〜5人並び・・既に走り始めた特急富士に向かって敬礼をしている・・わたしはあわてて自分の軍帽を棚から取りそれを窓際に向けて投げた・・そこでかぶって敬礼をするつもりだったが・・私の軍帽は勢い余って窓から外に飛び出していった・・私は呆然と窓に向かった立ちすくんだ。
兵隊さんはもう見えなかった。


草原に沈む夕日の中を汽車は止まることも無くはしり続ける。

汽車は草原を出て山並みを見て走り続ける・・山並みがつるつるの赤茶色の禿山に変わる・・朝鮮だという。

大きな駅の待合室・・いろんな人がごった返している・・床に座り込んで札を数えるもの・・・壁のガラスの額の絵(キリストだったのか・イコンに)に口付けするもの・・ロシア人だったのかもしれない。

父に会えるかと・・朝鮮のプサンまでの長旅だった。



プサンの木造の3階建ての旅館に入ったのを覚えている。

幾日いたのか・・父に会えずにその旅は終わった。

チチハルの駅前の公園のような広場と花壇・・。

お父さんが設計したんだよ・・と父は言った。



釣りの帰りだろうか・・川から程近い草原の中で汽車は止る・・父と僕とは・・汽車に乗り込んだ。

普段乗る汽車と違い・・中国人が・・満人が(満州人)がたくさん乗っていた・・席も狭く硬い木で出来た粗末な汽車。



ダーチョ(馬車)にみかんを山のように積んで・・・と・と・と・と・・と馬は走る・・子供たちは後ろから追いかけて荷台にぶら下がり・・そのみかんを取る・・御者は気が付かないのか・・知っていて無視しているのか・・日本人の子供は平気でみかんを取った。

日本人は征服者だ・・満人は決して逆らうことはない・・子供心に理解していた。

兵隊が多くの満人が見ている前で・・だまって果物を取るのを見た・・妙に・・記憶に残って消えない。



公園の南に砂山が広がる・・砂漠と・・・湿原と草原に乾くと浮き出る白い・・アルカリ地帯。


広がる砂山に送電線の鉄塔が・・・子供たちは盛り上がった鉄塔の下の砂山で遊ぶ・・・時々砂の中から薬きょうが・・赤い銅の弾の付いたままのものも・・拾えた。

その脇を線路が軍の基地へと延びる・・置き去りにされたトロッコが一台・・子供たちはそれに乗って・・手で漕ぐ・・トロッコは静かに転がる。


固まった砂地から干からびた一本の手首が覗いていた。


ビューンという・・弾の風を切る音を聞いた。


つながりの無い断片の記憶。

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