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遂に中村泰(ひろし)に無期懲役の判決が言い渡された。
一途に革命を夢見てきた男、現代のドンキホーテ、でも正義の味方ではない。
今年76歳、すぐ77歳になるだろう、本人はとっくに娑婆に帰ることなど諦めている。
いや超越していると云っても良い。
大阪地裁の西田基(まさき)裁判長は、「犯行は用意周到で凶悪、更正も期待できない」と断罪している。
控訴しても判決が覆ることはないだろう。余罪の方が大きいのだ。
平成11年から相次いだ銀行強盗、遂に同13年10月の三井住友銀行都島支店での犯行で、取り押さえられてしまった。
何と取り押さえた警察官も驚く高齢、剥げ落ちたカツラから出てきた頭は白髪だった。
年の割には抵抗力も腕力もある男だったが、ついに敢えなく御用になってしまった。
以来、現世とはぷっつり縁を切ってしまった。肝心な犯行については一切黙秘、何一つ喋らない。
真相は墓場まで持ってゆく、それが男の美学だ、と頑なに信じている男、確かに不透明なところは多い。
あれだけの名器、拳銃のである。あれだけの銃弾、いくら中村が知恵者でも、そうそう簡単に国内に持ち込めるとは信じがたい。
意味深な記者とのやりとりの中に、特権を持った人間の関与を臭わせている。
彼はアメリカを初め中南米を含め、各地に知り合いを多く持っている。
中には政情不安定な国の、政府の要人も入っているかも知れない。
政権が転覆することなど日常茶飯事、とすればそんな国の外交特権を持っていれば、と話は想像と現実の間を行き来する。
でも彼は男中村として、一切を喋らない。
右翼活動家、野村秋介との約束で、共に暴力革命を夢見ていた男、その野村が途中で登った階段を外すように、朝日新聞襲撃事件を起こし、失敗するや自らの命を絶ってしまった。
残った情熱のはけ口がない、残存兵器の使う場所がない。
それからだ、彼の無軌道な銀行襲撃は、もう半分以上捕まるを承知で次々に事件を起こす。
今回の判決も想定の範囲内、拘置所の奥で腕組みしたままであろう。
場所は刑務所の独房に変わっても、腕組みをして座る姿は変わらないだろう。
この一途な男、決して許される犯行ではないが、男としての生き方には感ずるものがある。
前回の警察官射殺事件では、18年獄中生活を経験しているが、それでも革命は忘れなかった。
今回は娑婆に復帰することはない。
いつ果てるかも知れない命を、泰然とし座っている男、結して真相を語らない男。
一言でも喋れば玉手箱の様に煙になって消えてしまう秘密、秘密は秘密にしておくから宝石だと信じている男。
何故か私の頭から離れない男、生き方は違っていても、一つを貫く男に、そこはかとなく共感を感じる。
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