|
冬月は、山奥の穴の中に軟禁されていた。それは、為彦と夕子がフランスのノアン地方に行ってから、二ヶ月後のことだった。冬月を軟禁した連中の正体は不明だ。内閣特務機関の仕事で調査していた案件が原因なのか、それとも手を火傷したときの陰謀をめぐらした連中の仕業なのか、まったく状況はわからなかった。
暗い闇の中で、見張りの足音だけが低く響き、ピタリと近くで停止する。その繰り返しの中、冬月は正気を失いそうだった。何も見ることができず、話すこともできない。暗闇の中の困惑は、耳の奥でぐるぐるとめざましく膨れ上がった。夕子がフランスへ去っていったという悲しみは、この中では虚無に等しい。いつともなく、過去の幻影が浮かんでは消え、後悔と自分への侮蔑に苛まれた。夕子を失うという傷みは、永遠に逢うことができなくなるという失望によって、拒絶され、その失望は諦めという忘却を生み出させた。ただ、前妻の亜季への罪の意識が大きくなって、夕子を遠ざけることを許した。そして、涙だけがとめどなくあふれた。独り言が多くなり、夜に眠ることができなかった。肉体だけでなく、心まで傷ついてしまっては、もはや動く気力もなかった。
冬月が救助されたのは、それから一年後のことだった。すっかりと変わり果てた姿になっていた。今までの冬月よりも無気力になっていた。興味関心の対象がすっかりなくなって、生きているだけの状態だった。前のように、料理をつくったり、研究に没頭したり、そのような活発さを失った。何がそのような状態に導かせたのか、わからなかった。一体、何のために、すべてを奪うようなことが行なわれたのだろう。冬月は、精神科に通わされた。その症状は慢性的なものであったようだ。不眠症、独語、妄想のたぐいがでていた。これでは、夕子を幸せにできないのは当然であった。そのような症状は薬で治療するしかなかった。人間は極度の経験によって、もろく崩れ去るものなのだ。どんなに強がっても、灼熱の地獄の中では狂ってしまう。
きびしい経済不況の中、人々の生活は慢性疲労のようだ。国際化、情報化によって、空洞化した国内産業は少子高齢化によって煤けていた。国際化・高度情報化の波は、地方の過疎化・高齢化を覆って、地場産業の減少、失業者の増加を生んだ。地方分権を叫びながら、中央の政治の混乱から来る疲弊を食い止めている地方自治体があった。国政がまとまらない。つまり、日本の進むべき道が定まらない。地方分権によって、少子高齢化社会をなんとかしようとするが、地方分権が先か、国政が先かで迷走している。問題は、少子高齢化社会をどのように解決するのか。都市部と田舎では問題点が異なっているが、財源の問題で宙に浮く有様だ。お金にならないものは、放置し続けられてきた。車輪の中の無のように、大事なものが別にある。食糧生産がお金にならなくなって、打ち捨てられる。多くの食糧需要は、価格の低下を招くという公式が、農業を停滞させる結果となり、外国からの輸入に頼る結果を生んだ。日本は経済大国で世界第二位の経済規模があるという公式が、国内産業の散漫さとなった。団塊世代の大量退職と会社の倒産は産業の空洞化となる。
※この作品は、作者の虚構に基づく完全なフィクションであり、登場する団体、職名、氏名その他において、万一符号するものがあっても、創作上の偶然であることをお断りしておきます。
|
小説・霧山幻想2
[ リスト ]


