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薬種にも用ゆる物なり。本草を考ふるに花白きを用ゆと見へたり。今の世に関東ゆり、薩摩ゆりなど云
ふ類なり。又一種茎高くして葉の間に黒き子を生じ、五六月紅黄花を開く、花の上に黒胡麻をまきたるご
とき黒点あり。是巻丹(をにゆり)なり。子を土に埋み置きて、零餘子(むかご)のごとく春種種ゆべし
。居家必用に云く、行をなして種へ、科(かぶ)ごとにこゑを置き、水をそゝぐべし。間五寸許にし後し
げくは、別のうねに移すべし。三年の後大さ盃のごとし。年々次第して種ゆべし。よくわきの草を去るべ
し。本草に百合新なるはむして食し、肉に和して又よし。乾きたるは粉にして餅となして食す。人に益あ
り。
ゆりの根を取用ゆるには外よりかき取りて、下の方を三ヶ一も取残してそれを種へこやし養へば、次の
年は又大かた前のごとくなるなり。生ける物を皆殺さず、毎々か様に心を残すは仁愛の物に及ぶ心なり。
又子を年々種へ置けば、いか程も多くなる物なり。又ゆりの根を塩湯にてゆびき、菓子に用ひてよし。吸
物、にしめ物かれ是料理おほし。
百合は子をうへ、根をそだて、年々にこやして作れば、殊の外多くなる物なり。右に記すごとくかれこ
れ料理によく、其性もよき物にてことに作りでま入らず。其花も暑月に咲きてうるはしきものなり。民家
にも必ずうゆべし。第一民の食を助けて飢饉をすくふ。又山林にしかかくれゆりと云ふ物あり。葉はいも
の葉のごとく光ありてひろく長し。根は即ちつねのゆりのごとし。是又煮て食する事つねのゆりのごとし
。 (『農業全書』 四之巻 百合 第十九 より )
吾輩の家のまわりにある百合は、をにゆりのようだ。
霧山人
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