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〔第二〕 外国社会の刺激あるがゆえなり。もし過去において二国相仇とし、いわゆる歴史的の記憶なるものを有する場合においては、我より彼に報いずんば、彼必ず我に報うることあるをもって、勢い相互に竜驤虎視、武備機関を発達せしめざるばからず。あるいはよし、しかることなきももし強大にしてかつ武備的の国とその境界犬牙相接する場合においては我つねに戒厳するところあらざるべからず。しからずんばたちまちかの封豕長蛇もって我をして城下の盟をなさしむべし。またことにその位置において兵略のいわゆる争地たるの国土はもっとも武備に注目せざるべからず。なんとなれば万邦・万人、みな涎を流し、牙を磨し、みなその呑噬の機会をまつをもって少しく我に乗ずべき隙あらばたちまちその国体を亡うに至らん。かかる場合においては万々やむをえず、泣く泣くもたとい一国を身代限りの悲堺に沈淪せしむるも武備の用意をなさざるべからず。すなわち独仏の関係は歴史的の記憶あるがためなり。露独の関係は犬牙相接するがためなり。イタリアのごときローマ帝国没落以来群雄鹿を遂い、千兵万馬の驟地するところ万目一手、みなもってその大いに欲するところを逞しゅうせんと欲するものあるがためなり。試みに思え、わが邦ははたしてかかるやむべからざるの事情あるか。唯一の国体なり。唯一の人種なり。唯一の風俗なり。唯一の言語なり。その結合なるものは利益の結合にして兵略上の結合にあらざればもとより利害をことにするがごときものあることなし。宗教のごときは今日に至るまでほとんど政治家の注意をひくほどの現象にすら進歩することあたわず。たとい将来においてキリスト教の勢力を進歩したりとてこれがために一国の一致を鞏固ならしむることはあるべからず。しかしてその面積は二万四七九四方里に出でず。いかなる凡庸政治家といえども、もってこれを掌上に運転することを得べし。しからばすなわちその外部の事情はいかん。四方八面ただ大海の茫々蒼々たるを見るのみ。三十年前までは鎖国の政略を採りたれば歴史的の記憶とてさらに存するものはあらず。封土美なりといえどもイタリアの単騎長躯ただちにその城下を陥れらるるがごときにあらず。すでにしからばわが邦を商業国となすにまたなんの妨害的の事情あらんや。もし外部の事情はつねに我に向かって反射の運動を与うるものとせば、わが邦はむしろ武備的の運動をば障碍することあるも商業上の発達を激成するものなりといわざるべからず。これを要するにわが邦は自然の結合によりて自然の国体をなしたるものなり。ただただ自然の傾向によりてすなわち水の下流に就くがごとくしてこれを治むべきなり。 |
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2006年10月28日
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