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キャッシュベースの経営というものは、赤字がでないためにはわかりやすい会計のやり方だ。
宮崎の企業が借金体質なのは、利益の計算がわからないので、使いすぎて借金をこしらえてしまうからだ。棚卸しをきちんとしないと、どうして借金が増えるのかがわからないのだ。癌を摘出するために、手術が必要だったんだよ。
どんぶり勘定では、入ってきたお金を使ってしまって、お金が足りなくなって、銀行へ返済する分が足りなくなって、どんどんと借金を増やしてしまうことになる。だから、利益がわかるやり方を使用することになったのだ。黒字にこだわるのは、借金を増やさないためなのだ。
再生機構がもってきたやり方は、借金をこしらえないための会計制度であって、会社の経営にマイナスに働くということはない。たぶん、商法の範囲であったら、完璧でなくてもいいと思う。
極端な話だが、たとえば町でバナナの叩き売りをやるとする。まず青果市場でバナナを一箱仕入れる。駅前で叩き売りをしようと、手近の八百屋に行って、「リンゴ箱を一つ分けてくれ」と言い、空いたリンゴ箱を三百円で買う。リンゴ箱の上にかける大きな布も要るので、隣の雑貨屋で一枚千円で買う。棒がないと叩き売りにならないので、二百円で手に入れる。こうして商売の道具を一式そろえる。
バナナは一房五十円で二十房を仕入れた。それを百五十円で売ることにする。一房売れば百円儲かるわけだ。そこで日が暮れるまでに幸い全部売れたとしよう。
売上が三千円あって、仕入れた原価は千円だから、儲けは二千円あるはずである。ところが、勘定してみるとお金はそんなにはない。リンゴ箱に三百円、布に千円、棒きれに二百円と道具に千五百円払っているので、手元には五百円しか残らないわけだ。
仮にそこへ税務署が来て、「あなたは二千円儲かったから、その半分の千円を税金として払え」と言うとする。手持ちの五百円から、なぜ千円もの税金を払うことになるのか問うと、「リンゴ箱と布と棒は費用でなく資産だ」と言う。「千五百円の資産と五百円のお金で二千円になり、それに税金がかかる」というのである。
税務署はリンゴ箱はりっぱな財産だというが、明日には次の土地に移るので捨てていかねばならない。リンゴ箱を分けてもらった八百屋に行って、買い戻してほしいと言っても、「タダならもらってやるよ」と言われるのがおちである。布だって、おろしたてのパリッとしたものであってこそ、バナナがおいしそうに見え売れるのだ。結局、リンゴ箱も棒きれも資産としての価値はない。
何度も繰り返して使えて、その価値が残るものは、会計上資産とすることになっているが、「本当に財産としての価値を持つものなのか、そうでないのか」というのは、経営者の責任である。経営者にとって捨てる以外に方法がないものは、資産とは言えない。経費で落とすべきである。リンゴ箱は三千円の売上を上げるために使った経費であって、八百屋でまたお金を払って買い戻してくれるような資産ではないからだ。
(『稲盛和夫の実学 経営と会計』 稲盛和夫 より )
つまり、借金をしないですむ経営をすすめるためには、原価と利益、そして経費がわかっていなければいけないのだ。「拡大より持続」というのはここにある。着実な売上げこそが、借金のない経営につながる。なんで、赤字になるんだろうということがわからなければ、従業員の給料はいつまでたっても上がらないのだ。赤字経営の原因を見つけるために、取り入れられた会計制度なのだ。
中村為彦
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