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栗に大小あり。丹波の大栗を勝れたりとす。三つ有るいがの内、中なるをゑり取りて湿地に埋め置き、
春芽少し出でんとする時、肥地の底は堅く立根のながく入らぬ所をゑらびて、五七寸間を置きてならべ
うへ、中一年して移し栽ゆべし。二三年にして必ず実る物なり。又是を所をゑらびてうへをき、杖ほどに
なりたる時、だい木にして大栗の穂を接ぎたるもしるし速かなり。二年の後は必ず実るべし。又山にて柴
栗のだい木を掘りうへをきて接ぎたるもよし。
又一説に、栗はうへ付けにして移しうゆべからずともいへり。木ふとりてうへかゆれば久しくたらぬ物
なり。小き時は移しうへてもかはる事なし。
又栗をうゆる事は木より落つるを其まゝ拾ひ、わらなどに包み深く埋み、春二月の頃芽少し出づるを見
て、とがりたる方を下にして、深さ二三寸に種ゆべし。若したねを遠方より取るならば、桶か箱に沙土を
入れ、其中にいけて風日にあつべからず。惣じて木となりても手風の触るゝ事を忌む物なるゆへ、うへを
きて盛長の後まで、木に手を触るべからず。手風切々触るればならぬ物なり。
又丹波にても一さかりなりにては、木に蟲付きて中を通し痛みて実らぬ物なり。十月に入りて草を以て
幹(しんぼく)を包み、下にも木の葉をかきあつめ火を付けて焼くべし。蟲の穴にけぶり入り、朽ちたる
所に火入りてこがれ蟲も死し、其後木わかへてよくなる物なり。丹波にても大栗は大かた屋敷廻り山畠な
どの畦々ばかりうへて、山中には大栗はまれなりと云ふなり。丹波の土は大概赤土なり。種ゆる所は南向
取分きよし。又はあらき白砂の地も栗によしと云ふなり。北向の肥へて深き地は宜しからず。あはぬ地に
ても一端はふとりさかゆれども、やがて蟲付きてたをるゝ物なり。土地、風気をよくゑらびてうゆる事肝
要なり。
同じく丹波にて栗を取りて収る事は、よく熟し、自ら口をひらきたるばかりを拾ひて一日乾し、其後か
まげに入れ他所へ売出すなり。
又かち栗はわらの灰のあくに一夜漬け置きて、明る日日出でて取出し、さらし乾し、肉よくかはきて堅
く成りたる時皮をうち去るべし。臼にてつきて去りたるもよし。
又生栗を来年まで納め置く事は、箱か桶又は壺にても沙を入れ、栗の芽の所をやきがねにて焼き、段々
沙に埋み置けば夏までも新しきがごとし。
又栗の芽の所を右に云ふごとく焼きて土にてぬり、ざつと干し日の当らぬ縁の下に散しをきたるは、く
さらずして久しくたもつ物なり。但しじねんと口ひらき落ちたるよし。熟せざるはこたへず。
又栗実らざるをば下枝を多く切り捨てゝ梢の枝をとめをけば、かならずみのる。
( 『農業全書』 巻之八 菓子之類 栗 第五 より )
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