平成17年4月6日から平成23年9月6日までのブログ

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古典

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さざれ石 1

 神武天皇より十二代、成務天皇と申し奉るは、限りなくめでたき御世なり。此みかどに男みこ、姫宮三十八人の
 
皇子おはしける。卅八人めは、姫宮にてわたらせ給ふ。数も知らぬ程の皇子たちの御末なればとて、その御名を
 
さざれ石の宮とぞ申しける。御かたち世にすぐれめでたくおはしければ、あまたの御中にもこえて、御寵愛なのめ
 
ならず、いつきかしづき給ひける。さる程に御年十四にて摂政殿の北の政所に、移し参らせ給ふ。めでたき御お
 
ぼえ、一天四海の内に上こす人こそなかりけり。
 
(『御伽草子』 さざれ石 より )

浦島太郎 8

 扨浦島は鶴になりて、虚空に飛び上りける。そもそも此浦島が年を、亀がはからひとして、箱の中に畳み入れ
 
にけり。さてこそ七百年の齢を保ちける。あけて見るなと有りしを、あけにけるこそ由なけれ。
 
  君にあふ夜は浦島が玉手箱あけてくやしきわが涙かな
 
と歌にもよまれてこそ候へ。生有る物、いづれも情を知らぬといふことなし。いはんや人間の身として、恩をみて
 
恩を知らぬは、木石にたとへたり。情深き夫婦は、二世の契と申すが、寔に有りがたき事どもかな。浦島は鶴に
 
なり、蓬莱の山にあひをなす。亀は甲に三せきのいわゐをそなへ、万代を経しと也。扨こそめでたき様にも、鶴亀
 
をこそ申し候へ。只人には情あれ、情の有る人は行末めでたき由申し伝へたり。其後浦島太郎は、丹後国に浦
 
島の明神と顕れ、衆生済度し給へり。亀も同じ所に神とあらはれ、夫婦の明神となり給ふ。めでたかりけるためし
 
なり。
 
(『御伽草子』 浦島太郎 より )

浦島太郎 7

 さて浦島は、故郷へ帰り見てあれば、人跡絶えはてて、虎ふす野辺となりにけり。浦島これを見て、こはいかな
 
る事やらんと思ひ、ある傍を見れば、柴の庵のありけるに立ち、「物いはん」といひければ、内より八十ばかりの
 
翁出であひ、「誰にてわたり候ぞ」と申せば、浦島申しけるは、「此所に浦島の行方は候はぬか」といひければ、
 
翁申すやう、「いかなる人にて候へば、浦島の行方をば御尋ね候やらん、不思議にこそ候へ。その浦島とやらん
 
は、はや七百年以前の事と申し伝へ候」と申しければ、太郎大きに驚き、こはいかなる事ぞとて、そのいはれをあ
 
りのままに語りければ、翁も不思議の思ひをなし、涙を流し申しけるは、「あれに見えて候古き塚、古き石塔こそ、
 
その人の廟所と申し伝へてこそ候へ」とて指をさして教へける。太郎は泣く泣く、草深く露しげき野辺を分け、古き
 
塚に参り、涙を流しかくなん、
 
  かりそめに出でにし跡を来て見れば虎ふす野辺となるぞ悲しき
 
さて浦島太郎は、一本の松の木陰に立ち寄り、呆れはててぞ居たりける。太郎思ふやう、亀が与へしかたみの
 
箱、「あひかまへてあけさせ給ふな」といひけれども、今は何かせん、あけて見ばやと思ひ、見るこそくやしかりけ
 
れ。此箱をあけて見れば、二十四五の齢も、忽ちに変りはてにける。
 
(『御伽草子』 浦島太郎 より )

浦島太郎 6

 さて浦島太郎は、互に名残を惜しみつつ、かくて有るべきことならねば、かたみの箱を取り持ちて、故郷へこそ
 
帰りけれ。忘れもやらぬ来し方、行末の事ども思ひ続けて、遥かの波路を帰るとて、浦島太郎かくなん、
 
  かりそめに契りし人のおもかげを忘れもやらぬ身をいかがせん
 
(『御伽草子』 浦島太郎 より )

浦島太郎 5

 かくておもしろき事どもに、心を慰み、栄花に誇り、明し暮し、年月をふる程に、三年になるは程もな

し。浦島太郎申しけるは、「われに三十日の暇をたび候へかし。故郷の父母を見すて、かりそめに出で

て、三年を送り候へば、父母の御事を心もとなく候へば、あひ奉りて、心やすく参り候はん」と申しけれ

ば、女房仰せけるは、「三年が程は、鴛鴦の衾の下に比翼の契をなし、片時見えさせ給はぬさへ、とやあ

らん、かくやあらんと心をつくし申せしに、今別れなば、又いつの世にか逢ひ参らせ候はんや。二世の縁

と申せば、たとひ此世にてこそ夢幻の契にてさぶらふとも、必ず来世にては、一つ蓮の縁と生れさせおは

しめせ」とて、さめざめと泣き給ひけり。又女房申しけるは、「今は何をか包みさぶらふべき。自らは、

この竜宮城の亀にて候が、ゑしまが磯にて、御身に命を助けられ参らせて候、その御恩報じ申さんとて、

かく夫婦とはなり参らして候。また是は自らがかたみに御覧じ候へ」とて、左の脇よりいつくしき箱を一

つ取り出し、「あひかまへてこの箱をあけさせ給ふな」とて渡しけり。会者定離のならひとて、会ふもの

には必ず別るるとは知りながら、とどめ難くてかくなん、

  日数へて重ねし夜半の旅衣立ち別れつついつかきて見ん

浦島返歌、

  別れ行く上の空なる唐衣ちぎり深くは又もきて見ん

(『御伽草子』 浦島太郎 より )

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