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文学・宮崎

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後狩詞記 7

六 この序に少しく椎葉村の地理を言えば、阿蘇の火山から霧島の火山を見通した間が、九州では最も深い山地であるが、中央の山脈は北では東の方豊後境へ曲がり、南では西の方肥薩の境へ曲がって居るから、空で想像すればほぼSの字に似て居る。そのSの字の上の隅、阿蘇の外山〔外輪山の外側〕の緩傾斜は、巽の方へは八里余、国境馬見原の町に達して居る。その先には平和なる高山がそばだって、椎葉村はその山のあなた中央山脈の垣の内で、肥後の五箇荘とも嶺を隔てて隣りである。肥後の四郡と日向の二郡とがこの村に境を接し、日向を横ぎる四つの大川は共にこの村を水上として居る。村の大きさは壹岐よりははるかに大きく隠岐よりは少し小さい。しかも村中に三反とつづいた平地はなく、千余の人家はたいてい山腹を切り平らげておのおのその敷地を構えて居る。大友・島津の決戦で名を聞いた耳川の上流は村の中央を過ぎて居るが、この川も他の三川も共に如法の滝津瀬であって、舟はおろか筏さえも通らぬ。阿蘇から行くにも延岡・細島ないしは肥後の人吉から行くにも、四周の山道はすべて四千尺内外の峠である。
 
(『後狩詞記』 柳田國男 より )

後狩詞記 6

五 ここにかりに『後狩詞記』という名をもって世に公にせんとする日向の椎葉村の狩の話は、もちろん第二期の狩についての話である。いわば白銀時代の記録である。鉄砲という平民的飛道具をもって、平民的の獣すなわち猪を追いかける話である。しかるにこの書物の価値がそのためにすこしでも低くなるとは信ぜられぬ仔細は、その中に列記する猪狩の慣習がまさに現実に当代に行われて居ることである。自動車・無線・電信の文明と併行して、日本国の一地角に規則正しく発生する社会現象であるからである。『宮崎県西臼杵郡椎葉村是』という書物の、「農業生産之部」第五表禽畜類というところに、猪肉一万七千六百斤、その価格三千五百二十円とあるのが立派な証拠である。毎年平均四、五百頭ずつはこの村で猪が捕えられるので、この実際問題のあるために、古来の慣習は今日なお貴重なる機能をもって居る。私はこの一篇の記事を最も確実なるオーソリティによって立証することができる。何となれば記事の全部はことごとく椎葉村の村長中瀬淳氏から口または筆によって直接に伝えられたものである。中瀬氏は椎葉村大字下福良小字嶽枝尾の昔の給主である。中世の名主職を持って近世の名主職に従事して居る人である。この人には確かに狩に対する遺伝的運命的嗜好がある。私は椎葉の山村を旅行したときに、五夜中瀬君と同宿して猪と鹿との話を聴いた。大字大河内の椎葉徳蔵氏の家に泊まった夜は、近ごろこの家に買得した狩の伝書をも共に見た。東京へ帰って後頼んで狩の話を書いて貰った。歴史としては最も新しく紀行としては最も古めかしいこの一小冊子は、私以外の世の中の人のためにも、ずいぶん風変りの珍書と言ってよかろう。
 
(『後狩詞記』 柳田國男 より )

後狩詞記 5

四 『狩詞記』〔『群書類従』巻四百十九〕を見ると、狩くらと言うは鹿狩に限りたることなりとある。いわゆる峰越す物といい、山に沿う物という「物」は鹿である。まったく鹿は狩の主賓であった。これには相応の理由のあることで、つまりあらゆる狩の中で鹿狩は最も興が高いという次第である。北原晋氏は鉄砲の上手で、若いころを久しく南信濃の山の狩に費やした人である。しかるに十年余の間に猪を撃ったのは至って小さいのをただ一匹だけであった。猪は何と言っても豚の一族である。走るときはずいぶん早いけれども、大雪の中をむぐむぐと行くありさまは鼹鼠(もぐら)と同じようである。これに反して鹿は走るときはひたとその角を背に押し付ける。遠くから見ても近くでも、まるで二尺まわりほどの棒が横に飛ぶようなものである。足の立所などは見えるものではない。これを横合いに待ちかけて必ず右か左の三枚を狙うのである。射当てたときの歓びはつまりいわゆる技術の快楽である。満足などという単純な感情ではない。昔から鹿狩を先途とするの慣習もあるいはこの辺の消息であろうか。ないしは未知の上代から伝えられた野獣の階級とでもいうものがあるのか。とにかくに鹿は弱い獣で、人からも山の友からも最も多く捕られて最も早く減じたらしいのである。奈良や金華山に遊ぶ人たちは、日本は鹿国のように思うだろうけれども、普通の山には今は歌に詠むほどもおらぬのである。この因に思い出すのは北海道のことである。蝦夷地には明治の代まで鹿が非常に多かった。十勝線の生寅〔ユク、トラッシュ、ベツ〕の停車場を始めとして、ユクという地名は到るところに多い。しかるに開拓使庁の始めごろに、馬鹿なことをしたもので、室蘭付近の地に鹿肉鑵詰製造所を設立した。そしたら一、二年のうちに鹿も鑵詰所も共に立ちゆかぬことになった。北海道の鹿は鉄砲の痛さを知るや否や直にその伝説を忘却すべく種族が絶えたのである。
 
(『後狩詞記』 柳田國男 より )

後狩詞記 4

三 かくのごとき世の中もついに変遷した。鉄砲は恐ろしいものである。わが国に渡来してからわずかに二、三十年の間に、諸国において数千の小名の領地を覆えし、その半分を殺しその半分を牢人と百姓とにしてしまうと同時に、狩という国民的娯楽を根絶した。根絶せぬまでもこれに大制限を加えた。『狩詞記』の時代は狩が茶の湯のようであった。儀式が狩のほとんど全部になりかけて居る。大騒ぎをしていろいろの文句を覚え、画に描いた太田道灌のような支度で山に行っても、先日の天城山の猟よりも不成績であったことがずいぶんあったろうと思われる。しかしまだ遠国の深山には、『狩詞記』などという秘伝の写本が京都にあるやらないやらも考えずに、せっせと猪・鹿を逐いかけて居る地頭殿があった。しかし鉄砲が世に現われては是非もない。弓矢は大将の家の芸であるけれども、鉄砲は足軽・中間に持たすべき武器である。しかもその鉄砲の方が、使い馴れては弓よりもよく当たり遠くへ届く、平日は領主の威光で下人の狩を禁ずることもできるが、出陣の日が次第に多くなっては、留守中の取締りは付きかねる。昔は在陣年を越えて領地へ帰ってみると、野山の鳥獣は驚くべく殖えて居る。これが凱旋の一つの快楽であった。しかるに今は落人の雑兵が糊口の種に有合せの鉄砲を利用して居る。土民はまた戦敗者の持筒を奪い取って、これを防衛と獣狩の用に供して居る。怒って見ても間に合わぬ。山にははやよほど鹿・猿が少なくなった。そこでつれづれのあまり狩の故実を筆録する老武者もあれば、これを読んで昔を忍ぶ者もだんだんと多くなったのである。
 
(『後狩詞記』 柳田國男 より )

後狩詞記 3

二 今の田舎の面白くないのは狩の楽しみを紳士に奪われたためであろう。中世の京都人は鷹と犬とで雉子・鶉ばかりを捕えておった。田舎侍ばかりが夫役の百姓を勢子にして大規模の狩を企てた。言うまでもないが世の中がまるで今とは異なって居る。元来、今日の山田・迫田はことごとく昔の武士が開発したものである。今でこそ浅まな山里で、昼は遠くから白壁が見え、夜は燈火が見えるけれども、昔はこれらの土地はすべて深き林と高き草とに蔽い隠されて、道も橋も何もない、烈しく恐ろしい神と魔との住家であった。この中において、ここに空閑がある、ここに田代を見出でたという者は、武人の外に誰があろうか。獣を追う面白味に誘われてうかうかと森の奥に入って来る勇敢な武士でなければできないことである。その発見者は一方には権門・大寺に縁故を求めて官符と券文とを申し下し、他の一方には新たに山口の祭を勤仕して神の心を和らげた。名字の地となればわが命よりも大事である。これを守るためには険阻なる要害を構え、その麓には堀切・土居の用意をする要害山の四周は必ず好き狩場であった。大番役に京へ上るたびに、むくつけき田舎侍と笑われても、華奢・風流の香も嗅がずに、年の代わるを待ち兼ねて急いで故郷に帰るのは、まったく狩という強い楽しみがあって、いわゆる山里に住む甲斐があったからである。殺生の快楽は酒色の比ではなかった。罪も報いも何でもない。あれほど一世を風靡した仏道の教えも、狩人に狩を廃めさせることのきわめて困難であったことは、『今昔物語』にも『著聞集』にもその例証がずいぶん多いのである。
 
(『後狩詞記』 柳田國男 より )

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