平成17年4月6日から平成23年9月6日までのブログ

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文学・宮崎

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宮崎を題材にした文学

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 稲は花子を産んだ翌々日には、もう産褥の床を這い出して、伝吉と一緒に畑へ出、除草をして働いた。
 伝吉と一緒の時も、又彼が椎茸の種木を谷間へ見廻りに行き、自分一人野良へ出かける時も、稲は必ず花子を連れて出かけた。そういう時花子は、風呂敷包みの弁当と一緒に、いつも畑の隅の山葡萄の葉蔭に放り出して置かれる習慣であった。乳をほしがって泣いている花子の足もとには、ゴム管のように大きな山蚯蚓が、死真似をしてころがって居たり、艶のある山蜥蜴が這い回っていた。又、葡萄の蔓にはやんまがとまったり、みちしるべが飛びまわったりしていた。
 健康な太陽の光りや、新鮮な土の匂を存分に体に吸いこみ、花子の体は見事に発育し、成長して行った。
 
 ( 『土龍どんもぽっくり』 中村地平 より )
 
 この後の展開は、佐藤春夫の『田園の憂鬱』に出て来る豪家N家の老主人が、お産婆を雇って、その

後、若い「番頭さん」を雇ったのと同じようになる。その後、そのお産婆と番頭さん、男と女は駆け落ち

したが、この『土龍どんもぽっくり』では、若者は去り、稲と伝助は山に残り、何事もなかったような田

舎人の気楽さであったようだ。でも、現代人は、山を降りたほうがよかったかもしれない。

                             霧山人

 それは、存分に山気を吸った稲の体がますます健康になり、野生的な精神を逞しく成長させて行った過程に似ていた。
 「伊達や酔興で、わしゃこんげな山ん中に埋まる気持ちになったのではなか。どうせ好きな人とは一緒になれん一生じゃ。われら、ひとの心を当てにして生きればこそ、泣きの涙で暮さんならん破目にもなるのじゃ。わしゃ、今は伝さんはもとより、ひとの心など当てにしとりはせん。
 当てになるのは、金ばかりじゃ。千か、万か、纏った金を握るまでは、骨が灰になっても、この山んなかで働きぬくつもりじゃ」
 気持ちの上では勿論、肉体的にも伝吉を圧倒している稲は、幅の広い肩と腰とで伝吉にのしかかり、まるで鞭でなぐりつけでもするように荒々しい声をはりあげて、のろくさい夫を駆使して、荒れはてた山を開墾して行った。
 栗の樹に混って簇生している裏山の雑木は一本残らず伐り倒されて、跡には青々しい杉の苗穂が植えられた。

 ( 『土龍どんもぽっくり』 中村地平 より )

 埃っぽい国道に沿った商人宿に新婚の二泊をすますと、伝吉と稲とは、草鞋、脚絆に固めた脚を、初雪で頂はまっ白になった山脈の、嶺路へと向けて、旅たった。
 想い出し笑いでにやにやしながら伝吉が、夕暮時の山径を先達になって歩いて行くと、白い手拭いを姉さんかぶりに紺絣の着物の裾から、真赤なゆもじの端を垂らして、新嫁の稲は、草鞋の音を枯葉の径に打ちつけながらついてきた。
 女脚の遅さで、兎もすればおくれがちな稲を、幾度もたちどまって伝吉はまってやらねばならなかった。
 突然、背後の足音が消えることがあった。たちどまってふり向くと、稲は道傍の立樹の蔭にかがんだきり、梢から落ちる夜露を肩にぼとぼとと受けながら、動こうともしないのであった。
 「向っ峰(お)に燃えているのは狐火じゃろか」
 「うんにゃ、狐火じゃなか。炭焼の火じゃろ」
 「夜空に聳ゆる山々は、まるで獣のごとある。ほんにこわか。婆さんになるまで、毎夜、こんな暗い山に抱きすくめられていたら、わしゃ気が狂うかもしれん」
 そういう新嫁を不憫なものに思い、それから結婚このかた、稲の言葉の影響で、土地をもたない自分の職業に軽蔑を感じはじめていた伝吉は、豊後の国境へ近づいた時伝手(つて)を得て山師(山番)となった。
 伝吉と稲とが落ちつくことになった山は鉄道沿線の小さな部落へ出るのにも小二時間はかかる深山で、永い間、番人が置かれていなかったせいか、全山荒れに荒れきっていた。

  ( 『土龍どんもぽっくり』 中村地平 より )

『高千穂の峡谷』

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 高千穂の峡谷は日本の島の中で最上の自然美を持つたものではあるまいか
 岩と岩との間を流れる水の静かな淀み
 アラヽギの瀬の奔流の飛沫
 神橋を渡つて左岸を上流に向ふと、磊々として太い石が水の中に転がつてゐる。
 流れの音は轟々として耳を聾するばかりである。
 此のやうな深い谷が、何故にかかるところになるのであらうか。
 古への人々も、この谷を見ては、神の技に驚かぬわけにはゆかなかつたであらう。
 下方を見ると、屹立した岩の丸柱の間を、水は焦燥もなく、さながら動かないものヽ如くに流れてゐる。
 両岸は青葉が茂つて、そヽり立つ岩石の山肌も見える。
 那智の滝を、十ばかりも集めて、横に仆したやうな谷である。
 鯰も鮎もこの谷には棲まぬであらうか。
 巨大な岩石の林立した橋の傍の広場に戻つて、下を覗くと、
 夢のやうに深く、地球の底まで掘られてゐるやうである。
 水は姿なきものの如く流れてゐる。
 神々はこヽに禊し、猪や熊はこの谷の水を飲んだのではあるまいか。
 飽く事なき景色である。
 間断なき時間の縮図である。
 如何なる欲望も頽廃も闘争も醜悪も呑み尽くすであらう。
 真名井ヶ淵に降りかヽる幻のやうな滝
 柔らかな水に切られた岩の滑らかさ。
 その美しさに圧倒されぬものがあらうか。
 神の息吹の強さに酔はぬものがあらうか。
 小さな橋を渡つて右岸に出た。
 国道が上に通じてゐる。池があつて、鯉が泳いでゐた。

  ( 『高千穂の峡谷』 高橋新吉 より )

 吾輩は高千穂町には、何度も足を運んでいるが、実は高千穂峡には出向いていない。まだ、その時期が

来ないのであろう。しかし、この散文を読むと、吾輩の幼い頃の霧島の麓の小さかった町に漂っていた、

懐かしい風情が浮んでくるものだった。それが、自然美、神々の宴、という感覚であった。しかし、だん

だんと、年を取るにつれて、その美しい自然環境は、公害とされる排気ガスや環境の破壊によって、だん

だんと磨り減って、もはやほとんど感じることが出来ないようになってしまった。最近、また自然環境は

だんだんと改善されてきつつある。穢れが清められてきているのだ。環境問題の改善は、神々を呼び戻す

ことにつながる。美しい散文は、美しい古き良き日本の自然の姿を表している。もし、純文学が復活する

ならば、そこに美しい自然が復活していることをさすに違いあるまいのだ。日本に『雪国』の世界は、実

際に存在していたのだ。そうして、自然環境が改善されれば、おのずと、この『高千穂の峡谷』の世界も

現出して来るに違いあるまい。

                                霧山人

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「お佐代さんは形ふり構わず働いている。それでも「岡の小町」と呼ばれた昔の俤(おもかげ)はどこやらにある。このころ黒木孫右衛門というものが仲平に逢いに来た。もと飫肥外浦の漁師であったが、物産
学にくわしいため、わざわざ召し出されて徒士になった男である。お佐代さんが茶を酌んで出しておいて、勝手へ下がったのを見て狡獪なような顔をして、孫右衛門が仲平に尋ねた。
 「先生。只今のはご新造さまでござりますか」
 「さよう。妻で」恬然として仲平は答えた。
 「はあ。ご新造さまは学問をなさりましたか」
 「いいや。学問というほどのことはしておりませぬ」
 「してみますと、ご新造さまの方が先生の学問以上のご見識でござりますな」
 「なぜ」
 「でもあれほどの美人でおいでになって、先生の夫人におなりなされたところをみますと」
  仲平は覚えず失笑した。そして孫右衛門の無遠慮なような世辞を面白がって、得意の笊棋(ざるご)の相手をさせて帰した。」

  (『安井夫人』 鷗外漁史 )

 仲平(息軒翁)四十一、お佐代二十八の頃の話。お佐代が十六のときに嫁いだので、それから干支が一回りしている。若いときは、まだそのような直感が残っていて、何かピンとくるものがわかるようである。そして、連れ添うにつれて、亭主の影響を受けて、やがて、ふさわしい妻になっていくようなのである。しかし、そんな運命の女という人は、滅多に苦労人の妻にはなってもらいたくない。それは、やはり
女の人にも、その希望や夢を叶えてもらいたいからである。泪。

                             霧山人

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