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そばを種ゆる事、五月に地を耕し、廿日廿五日もして草腐りただれて後、又耕す事二三遍、晴天を見て細かにかき、立秋(七月の節の事也)の前後、たねを下すべし。厚く蒔くべし。薄ければ実少し。大かたはちらし蒔にすべし。灰を合せたるこゑを以てうゆべし。瘠地ならば横筋をせばくきり、糞を多く敷きて、灰や牛馬の糞を以ておほふべし。そばはしほけを好むゆへ、若し塩屋に近き所ならば、塩釜の焦灰、又は其辺りの塩じみたる土を用ひてうゆれば実甚だ多し。又云く、そば地を耕すこと三遍なれば、三重に実がなる物なり。下の二重は黒く、上の一重はいまだ青き時刈り収むべし。残らず上まで黒きを待つべからず。刈しほをそければ実落つる物なり。
又蕎麦を蒔くに必ず雨湿にあはざるやうにすべし。蒔く時雨にあひ、又はしめりたる地に蒔きたるは、いか程こやしを用ひても盛長しがたく、瘠せて実少し。そばを蒔く時、路次にて水汲にあひても其実のりよからずと野俗云ひならはせり。ことの外水湿を忌むとしるべし。
又山畠焼野などに蒔く事あり。山中などは夏土用の中に早く蒔くべし、遅ければ風霜にあひて損ずる事あり。かならず一日も早く蒔くべし。焼野に蒔くにはなたねを入れ、子まきにしたるがよきものなり。そばはあくけの有る物にて、草の根是にあひて痛みかれ土も和らぐゆへ、春になりて蕪菜さかへ実り多し。跡の地和らぎてあら地もこなしよく、彼是利分多し。
又そばと芋とは土地余計ある所ならば、農人ごとに必ず多く作るべし。芋は虫気其外天災にあはぬものにて、水辺又は日当のつよからぬ地にうへて、牛馬糞あくたかれ草などおほひ培ひ置けば、別の手入さのみ入らずして、過分の利を得て殻の不足を助け、上もなき物なり。然るゆへに此二色は必ずかくべからずとしるしをけり。是のみにかぎらず、農人年中段々絶え間なく、時分時分の物を種ゆべし。先夏の終り、秋の初め、そば大根蕪菁(かぶ)、八月になりて蚕豆より大小の麦苑菜に至るまで、うへざる月なければ、又おさめざる月もなし。実を取る物あり、根を取る物あり、葉茎をとる物もあり、次第段々の工夫をろそかにすべからず。其中にもそばはさまで農事の妨共ならずして、手廻しよくうへ合はすれば、過分の利を得るゆへ、唐人も其能を誉めて具さに書き載せたり。蕎麦粉を餅にして蒜(にんにく)と合せ煮て食し、又河漏とてそば切のやうにこしらへ、賞味すると見えたり。又そばは農人飽くほど食すれば力の付く物なり。但脾胃虚寒の人は食すべからず。凡そばは蒔き付くるより取収め食物にこしらゆるまで人手間入らずして、農人の助となる事尤多き物なり。地の余計なき所にては跡の地冬ぶかにあくゆへ、麦を蒔く妨げとなるといへども、糞を多く用意し置きて、麦より前に一毛作りて取るべし。又そばを春蒔きて夏の末実ると農書に見えたり。日本にても試にうへて見るべし。不審(いぶかし)。
猪と同じく食すれば悪疾を生ず。慎むべし。
(『農業全書』 二之巻 第五 より )
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農業全書
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大根は四季ともに種を植える物にて、其の名も亦おのおの替わる。されども夏の終わりで秋の始めに蒔くことを定法とする。是れあまねく作る所なり。
其の種子色々多しといえども、尾張、山城、京、大坂にて作る勝れたるたねを求めて植えるべし。根ふとく本末なりあいて長く、皮うすく、水多く甘く、中実して脆く、茎付き細く、葉柔らかなるを選びて作るべし。根短く、末細にして、皮厚く、茎付きの所ふとく、葉もあらく苦いのは、是れよからぬたねなり。
又宮の前大根といって、大坂守口の香の物にする細長き牙脆い物あり。又餅大根といって、秋蒔きて春に至り、根甚だふとく、葉もよく栄え味辛い物あり。三月大根あり。はだ菜あり。又夏大根色々あり。又播州津賀野大根といって彼の地の名物なり。此の外蕎麦切りに入る。甚だ辛き物を求めつくるべし。
(省略)
干し大根、十月の末、いまだ寒気の甚だしからざる中にぬきて洗い、鬚を去り、二把をくくり合わせ、軒の下或は樹木の枝またにかけて干し、又は竹木をわたしかけて干すもよし。ししびに干たる時もみなやしもとのごとく干し、二三度このようにして其の後よく干して損ねない時に、こもに包み、湿気なき所におさめ置き、折々出し干し棚にて干してかびのでないようにすべし。又は極めてよく干して壺に入れ、口を封じおき、梅雨前に取り出し、少し干して前のごとく壺に入れおくべし。又よい程に干した時、盤の上に置き、よこづちにてしかじかと打ちて収めおくも中うつけずして味よし。打つ時頭の方より尾の方へ取り替えて打つべし。甘汁尾まで行きわたりて中うつくる事なし。初め先ずもみやわらげ、其の後うちたるなおよし。
又漬物にする事、糠に蔵め、味噌に漬け、其の外漬け様色々ありて何れも賞翫し、家事を助ける益多き物なり。
又唐人は国によって多く作って、根葉ともに漬けおき、雪の中是のみ菜に用いて朝晩のさいとなし、尤も飢えをも助けると書きたり。いか様山野の菜蔬多い中に是に勝る物少なし。土地多い所にては必ず過分に作るべし。
一種小大根あり、野に生ず。正二月ほりて漬物とすべし。
伊吹菜又ねずみ大根と云う。其の根の末細く鼠の尾のごとし。近江伊吹山にあり。彼の地の名物なり(又干し大根の法、能き大根を寒中三十日の間木の枝か或は縄を引き、それにかけ外にさらし置き、其の後なお干し納めおく事は前に同じ。はなはだ味よし)。
(『農業全書』 三之巻 第一 より )
ダイコン
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牛蒡(ごぼう)は細軟砂の地に宜しいとあり。山ごみの雑りたる細砂いか程も深く底まで一色にして、土性よく重くしてつまりたるをよしとす。八幡などの土ごころ是なり。畠を掘りうちにする事、深さ四五尺、糞をかける事多きをよしとす。幾度も打ち返し底まで塊少しもなくすべし。埋糞はわかい草木の枝葉又青松葉を小枝ながら埋めたるは、牛蒡のにおいよく風味ある物なり。さて上を数遍かきならし、うねを作りし、横筋にても又ちらし蒔きにても薄くむらなく蒔いてこえをうち、土を覆う事五分ばかり、凡そたねを一段に一升の積もりにて蒔くを中分とする也。但しきりむし多き畠ならば少しは多く蒔くべし。又種子おほひを灰にして、其の上に土を覆い、上を鍬のひらにてたたき付けおくべし、さて二葉より心葉いづるとひとしく、間引きてむらをなくし、もし一つ穴より二本生えたるを早く抜き去り、一本宛にすべし。芸ぎり細々中をかきあざり、草少しもなくすべし。牛蒡は取り分き草に痛む物なり。
さて糞は鰯のくさらかし、桶ごえもよし。其の外水糞にても始終たえ間なく用いるべし。冬掘るまでも糞を用いれば、味よく和らかにしてふとし。小さい時は糞に痛むゆえ、葉に少しもかからぬ様にわきよりかけるべし。又云う、牛蒡はうるおいを見て蒔くべし。もし雨なき時ならば、水をそそぎて植えるべし。さてほり取る事は、十二月までも置きたるが根よくふとるものなれど、寒気つよき所か又は跡の地麦をまくか、急用あらば霜月早く掘るべし。
又牛蒡を作る上田にて、利の多き所は言うに及ばず、よく根入りておそく掘り取るべし。
同じくいけ置く事、茎葉を其のまま置きながら、大小長短をえり分け、一尺廻り程にたばね、湿気なき所に穴を深くほり、頭の方を上にして穴の中に竪にならべ、葉は外に見える様に入れ、土を覆い置くべし。穴に水入れば損する物なり。自分の料理に用いるはたばねずして埋め置き、用にまかせて端より抜き取るべし。いけたる上よりも肥えたる土を覆い置けば、穴の中にてもやしないとなりて、肥えて牙脆く味もよし。
(省略)
又牛蒡を植え置き、茎葉の若きをきりて菜に用いる事韮のごとし。
又牛蒡大根麻などはいや地を嫌わず。却って旧地をよしとする。毎年同じ所に植えるべし。
(省略)
又甚だ太い牛蒡を作る事は、細沙の勝れたる肥え地を掘り打ちにする事、深さ五尺ばかり、埋糞を多くして一畝の畠を塊少しもなき様にして、濃い糞を二三十荷もうち、よく干して晒しおき、其の後も又上下に幾度も打ち返し、細かにかきこなし、寒中さらし、正月に至り寒気和らぎて上を平らかにかきならし、がんぎを一尺あまりに広く切り、たねの中にて大きにてよく実りたるをえりすぐって、灰糞を以て蒔くべし。土を覆う事四五分ばかり、うるおいを得ざれば生じかねるゆえ、雨を見かけて蒔くべし。生えて後ぜんぜん間引きて、一尺に一本ほど置きたるよし。其の外手入替わる事なし。是は取分けこやしをたびたび多く用いるゆえ、葉甚だ肥えて根をつくる事あり。茎葉栄えんとするを、折々ふみ付けおくべし。根のわきを少しほりくぼめ、油かすを入れて土を覆い置きたるは取り分け和らかにして、においもよく牙もろし、うねの中に草少しも置くべからず(又一説には八幡の牛蒡のたねは越前より取り来り用いると云う)。
(『農業全書』 四の巻 第六 より )
ゴボウ
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にらは古来名高き物にて賞翫なり。陽起草といって人を補い、温める性のよき菜なり。又一度植えておけば、幾年もそのままほったらかしにしても栄える故、怠り無性なる者の植えるべき物といって、懶人菜とも云うなり。古かぶを分けて植え、又は秋たねを取りおきて春苗として植えるもよし。されども多く栄え茂る物なれば、たねを植えるに及ばず、かぶをわけて植えたるが、しるしすみやかなり。三葱四韮とて、にらは四もとづつ一かぶにして植えると也。植える時、灰ごえにて植え、九、十月又わらの灰を以て二、三寸も覆い、其の上に土を少しかけ置くべし。たねを二月に蒔いて、九月にわけて植え、十月にかくのごとくするなり。韮は上品の菜にて唐人は甚だ賞翫し、常の膳に多く用いるとみえたり。されば都が近い所などは過分に作りて利を得ると也。千畦の韮圃を作りて持ちたる者は、其の人の分限千戸侯と同じといって、一郡もとる大名の富に変らずと史記にもしるし置けり。畦の中を細々熊手にて掻き、古葉ちりあくた等、少しもなくきれいにして水糞をかけ、又時々熟糞或は鶏の糞を置けばよく栄え、年中幾度ともなく刈りて、二十日ばかりにては、本のごとく長くしげる物なり。
又冬に成りて韮のかぶをおこし、屋のかげなどにならべ置き、馬屋ごえにて培えば、其の暖まりにてながく栄え、風寒にもあはないゆえ、其の葉黄色にして和らかなり。是を韮黄(きうわう)と云うとなり。つねのにらよりはすぐれて賞翫にてめずらしい菜なりとしるしおけり。又にらは少し深く筋をきりて植えるべし。根上にあがる性の物なれば、浅く植えればかならず瘠せるなり。又かぶをわけて植える時、古根のしょうがの如くなりたるを、かきてのくべし。其のまま植えれば、是又やせる物なり。又にらを久しく植え付けにして置きたるは、変じて莧(ひゆ)となる。又葱も変じて韮となる事間間多し。
(『農業全書』 四之巻 第二 より )
ニラ
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柿は上品(ぼん)の菓子にて、味わい及ぶ物なし。其の品種は甚だ多し。就中京都のこねり尤も上品なり。大和にては御所柿と云う。土地相応の所にて多く植えて過分の富ともなる物と記し置けり。東南肥え良い地に宜し。殊に山下赤土に宜し。北方海辺には悪し。砂地に宜しからず。
(省略)
又渋柿を調える方法もあまたあり。先ずさはしがきはよく色付きたるを取りて、桶に手引がんの湯を入れて、柿より上に湯少しあがる程にして気のもれざる様に莚(むしろ)などをよく覆い、桶の廻りをも包み巻きて一夜おくべし。明くる日しぶ気はぬけて甘くなる物なり。此のゆかげん極めて肝要なり。柿ふとく渋気つよくば少しあつくすべし。又灰のあくにてさはす事もあるべし。
また烘柿(ふすべがき)と云うは、是も色付きたるを器物の中に入れ、ふたをしておくか、又はわらにて厚くつつみつり置けば、後はあかくやはらかに熟し、渋気さりて其の甘き事蜜のごとし。又生なる柿を、かめに水を入れ、其の中に漬け置きたるも数日の後熟し味よし。されども性冷なる物にて塩柿と是とは毒あり。人によりて用捨すべし。
又皮をけづり火にて烘(ふす)べ(あぶり)乾かす烏柿(うし)と云うなり。黒きゆへに名付くるなるべし。又柿づきは糯(もちごめ)五升、中ほどの渋柿五十(よく色付きたるを)わりて核子を去り、米の粉と同じくつき合せて食う。味あまくめずらし。又蒸しても食するべし。
又串柿、つり柿は渋多き大きい柿の熟し色付き、一霜二霜にもあいて青み少しもなく成りたるをつり柿には蔕(ほぞ・へた)のもとの枝を一二寸付けて折り取り、皮をむき、縄にはさみ、日に乾かし、夜露もとり、四五日してしし干(ひ)の時、さねくばりとて、指にて柿をつまみひねり、幾度も此のごとくして、やがて菓子に用いるは七八分干したる時、籠に入れおくか、又は東南の日の少し当る所に竿をわたしかけておくのもよし。是れ甘干しといって、極めて甜く賞玩なり。久しくおくは、少し堅過ぎるまでほしあげて、箱にても壺にても切りわらを敷きならべ、つきあわぬ様にして収め置けば、内にて白粉自然に出でて、味わいなおよく成る物なり。是れを白柿とも、柿花共云うなり。串柿をば大かた干したる時、先ずかりに串を削り一くしに十づつさし、一れんに十串、是れを縄にてあみ干し、さねくばりして干しあげ、其の後上柿は別に能き串を削りさしかえ、色よきわら、又は藺(いぐさ)にても、二所手際よく巻き、箱に入れおく事前に同じ。
又柿に七絶ありとて他の樹木に勝れたる事七つあり。一には久しくいのちながし。二には日影多し。三には鳥の巣なし。四には虫の付く事なし。五には霜葉(もみじは)愛すべし。六には実すぐれてよき菓子なり。七には落葉田畠に入れて却って肥える物なり。色々功能ありて損なき物なり。屋敷廻り余地あらば必ず植え置くべし。
又柿渋になる山渋柿をも植え置き、家事の助とすべし。木練(こねり)其の外菓子になる柿は人煙のかかる所ならでは実る事なし。山渋柿は人家をはなれても肥地にてはよくなる物なり。穀田のさわりにならざる所を見合わせて必ず植えるべし。惣じて柿のみに限らず、人の賞玩する果樹其の外四木等に至るまで世の助となる草木、人家をはなれ人の往来稀なる所には、いか程肥え良い土地にても盛長せざる道理と見えたり。就中勝れて実の太き果樹は朝夕人煙に触れ、根さき家屋の下にさしはびこるほどにあらざれば、十分の実りなきと知るべし。
(『農業全書』 より )
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