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私たちはオペラ座の近くのホテルに到着した。ホテル・ウェストミンスターというところだ。どうして、こんなところに泊まれるんかね。サラは恐ろしい女だね。ヴァンドーム広場はきれいな夜景だね。しかし、この玄関の豪勢さには、圧倒だね。バロック調のものなんだろうけど、グロテスクで懲りすぎといったら失礼だよね。まあ、モダンな建築様式に比べたらそうだろうけど、バッハの髪型みたいな、金持ちの心理状態を表現しているんだろうね。闇夜にはサタンがいるような時代だからな。まあ、移ろい行く愛の調べを奏でたくなるね。バロックという言葉は、ポルトガル語の歪んだ真珠を意味するバロッコ(Barocco)という語に由来するとされているそうだ。サラは、何かを伝えたいんだろう。なんとなく、わかるけれど…。くらくらしてきたから、チェックインしとこう。私と夕子は、二人きりになる。サラは、「ごゆっくりー」と帰っていってしまった。部屋に案内される。なんだか、おかしいんだけど。 |
小説・霧山幻想2
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私は、冬月と夕子に危害を加えようとする人々がいることを知った。だから、私は夕子を遠くに避難させることにした。ニューヨークにいるミュージシャンの友人に頼んで、フランスへ行くことにした。冬月は、黙って、それを承認した。冬月を狙っている連中は、どうやら複数いるらしい。だから、誰が冬月と夕子に危害を与えるか、わからなかった。私は、警察に問い合わせたが、全く手がかりがなかった。そして、ニューヨークの友人の持つフランスの別荘に向かった。冬月は、黒幕を洗うのだそうだ。私は、「あまり深入りするな」とだけ忠告した。でも、冬月の性格だと無理をするにちがいない。東国原綾も、その手の妨害で消えてしまったようだ。 |
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冬月は、夕子の妹・真矢の子守りをするようになっていた。おしめを変えたり、ミルクを飲ませたり、あやしてやったりと大忙しだ。そして、フィアンセの夕子をほったらかしにしていた。なるほど、子育ては大変だ。本当に、子供を育てることは大変だ。看護婦の真矢は、旦那が単身赴任なので、一人で子育てをしなければならなかった。仕事のときは、託児所に預けるが、仕事から帰ると、ぐったりして、子供にまで目が回らなかった。こんなときに、旦那がいてくれればと思う。でも、帰ってくる予定はなかった。今度の原油価格の高騰で、勤める貿易会社も厳しくなってきた。共稼ぎだからいいが、少しばかり収入にも影響が出そうだ。ますます、厳しくなる家庭事情が出て来た。稼ぎがいいときは、幸福感があったが、だんだんと出費が増え、収入が減り、会う回数が減るにつれて、愛が冷め始めていた。そう、真矢の家庭は、離婚の危機に瀕していた。「子はかすがい」という、その言葉で持っているような夫婦だ。冬月は、なんとか、夕子の妹を助けたいと思っていた。結婚すれば、杉原家とは一族になるからだ。 |
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山人会の競合での出来事だ。冬月は、鹿のヒレ肉でヒレカツを作って、油で揚げていた。その油の鍋に仕掛けがしてあった、冬月が一枚一枚とヒレカツを仕上げていると、突然油がひっくり返り、冬月の身体に襲いかあっていったのだ。冬月は、体をひるがえし、熱した油を避けたつもりだった。だが、その油は、冬月の左手にかぶざってきた。油の鍋の乗った台がこわれるようになっていたのだった。その陰謀の蔭には、地元の有力者の配慮があった。霧山人に冬月がなることを恐れたものの仕業だった。冬月の左手は重度の火傷に見舞われた。これでは、料理をつくることは困難になってしまった。心配する夕子は、夕子の妹・真矢の務める共立病院に、冬月を連れて行った。真矢は、冬月の前妻の亜季の同僚であった。 |
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夕子と冬月の馴れ初めを思い出していた。私は、冬月が霧山のサービスエリアにある高速レストランから追放された経緯も書かねばならない。追放されて、もう、二年経つだろうか。サービスエリアには、上り線と下り線があって、それぞれで料理を作っていた。冬月がこの地にやってきたのは、四年前のことだ。内閣特務機関の仕事で、イラク攻撃を反対しようと論陣を張っていて、ついに前の職場を追われたのが、発端だった。いろいろと事情があった。冬月は、最初の四ヶ月くらいは、上り線にいた。そのとき、夕子におそらく一目惚れしていたのだと思う。つまり、夕子を一目見たときに、ピンと来て、妻・亜季と同じような感覚にとらわれていた。夕子を見ると、亜季を見ているのと同じ気がしていた。そのとき、夕子は真面目で奥手な娘であった。そのとき、冬月には妻がいたが、夕子はいつものボソッとした口調で、「彼氏になってくれないかな。」ってなことをつぶやいたのを覚えていた。冬月に妻がいる事は知らないでいた。しかし、次の日に、冬月は下り線に配属になってしまった。夕子はとても苦しかったろう。おそらく食事がのどをとおらなくなっていたようだ。冬月が下り線に行って、そこで東国原綾に出会った。当時、M交通は多額の負債を抱えており、労働状態も最悪であったのだ。そして、だんだんと怪我人や病人が出て、不足する人員で、売り上げを増加せねんばならなかった。今、冬月がボロボロであるのは、このときからはじまった地獄のせいであった。一人倒れ、入れ代わり立ち代りとなり、使い捨てのように疲れ果てていった。その恐ろしい世界を乗り越えて、皿洗いの日々があった。レストランの厨房の人数が通常より三人少ない状態で、冬月はアルバイトから準社員になれないでいたのだ。そして、その結果、妻・亜季と別れることとなる。冬月は、副料理長と共に、下り線の改革に乗り出した。そして、綾もそれに協力してくれたのだった。綾との友情はここから始まっている。厨房の人数がいなかったので、盛り付けなんかをホールの面子に手伝ってもらって、うどん・そばのスナックコーナーとレストランの厨房を夕方は、二人で切り盛りした。その疲労は計り知れない。そして、ついにM交通は再生機構入りを打電した。経営陣は総退陣してしまった。それまでは、会社が機能を果たして折らず、道路協団と渾然となっている状態だった。そこに、本社と再生機構がからんできたので大変な事になった。冬月が二年目にみんなで一致団結して、少ない人数で前年比120%を達成し、上り線に呼ばれることとなった。そのとき、夕子が背中をちらつかせながら、誘っていたのだった。そのとき、もう亜季とは破局が進みつつあったのだ。なかなか準社員になれずに、業を煮やすのだった。最近、子供一歳の母となった亜季から連絡があり、冬月が結婚したら会ってもいいと約束した。亜季も冬月と話をするのがたまらなくありがたいようだった。やはり愛し合った二人は不思議なものがあるのだ。 |


