|
霞仙女の誘惑の影に、ある陰謀のあるを知った冬月は、彼女の身の境遇に同情するようになった。冬月は、その影のある瞳に惹かれながらも、これ以上深く入り込んではいけないという危険をまた感じてもいた。霞仙女の帯びた使命は、様々な薬草をつくることによって、不老不死の妙薬を作り出すということだった。そして、その使命を抱えて、それを実行するために、このハーブ園に囚われているように見えた。その隷属的な仕事というものは、見るに絶えない強制をも持ち合わせていた。そのうち、冬月は、霞仙女をハーブ園から自由にしてやろうと思うようになっていた。その使命のために、結び付けられようとした二つの赤い糸は、ある目論見によって、無理やりつながれようとした。しかし、その理不尽さは、やがて共通の同情を生み、その模造品ではあるが愛のしるしを生み出そうとしていた。 |
小説・霧山幻想2
[ リスト | 詳細 ]
|
霞仙姑のハーブ園で働く冬月だが、未だに真坂野交通の一件に苦悩していた。私は真坂野観光ホテルにおいて、神話伝説の研究をしている。なかなか、その研究は進展しないわけだが、何だか綾との関係はうまく行き始めていた。それは、さておくとして、今日はホテルの会議場で、重要な話し合いがあるらしく、関係者各位が集まって来ていた。その内容というものが、どうやら冬月が懺悔のために、真坂野社長に書き送った手紙が発端で催されたものらしい。その内容というものは、M交通のバスを太陽光発電で走らせるプロジェクトらしいのだ。私はホテルの一室にいるわけなので、詳しいことはわからないけれども、昨今のQ国攻撃による原油の高騰は、M交通においても燃費の増大を招き、大幅なバス路線の削減に追い込んでいた。そういった事態に、冬月はハーブ園の仕事の合間に、活動的に、M交通のスポンサー各社を訪問し、真坂野社長の意向も受け、増資を願って廻っていたのだった。動き出した冬月というものは、本当にとんでもないことを実行していこうとする。ソーラーバスの開発は、環境立国日本の、言わば“天岩戸開き”であり、太陽の国・日向にふさわしいエネルギー源であると思われた。去年は台風被害がひどかったが、今年は災害は比較的に少なく、稲作も豊作のようである。さて、みんなの協力によって、太陽神・天照大神を導き出して、再建の道を切り開いていくのであろうか。 |
|
冬月が霞仙姑のハーブ園で料理の研究を始めて、ひと月が経とうとしている。霞仙姑は、栄養学の知識を持ち、冬月の料理の研究に拍車をかけていく。冬月が大学で勉強していた生体の構造や細胞のしくみというものと重なっていく。生命が維持されていくためには、食料を摂って、ボディの材料をそろえなくてはならない。ボディ・プランを設計するのが遺伝子であるDNAであるが、DNAが導き出す蛋白質が構造物である筋肉や神経をつくりだした。さらに、蛋白質は酵素という物質代謝に関与している。この酵素こそ、体内の新陳代謝を活発にして、疲労回復や成長に深く関わっているものであった。エネルギーを生み出したり、神経伝達物質をつくったり、さまざまな物質が生み出されることによって、人体が生育しているのだった。だが、人体は病気になったり、老化したりする。それは、生体の耐え切れないストレスを抱えてしまうからである。ストレスというものは、人体の回復よりも多い疲れによるものからくる。すぐに取れる疲れならば、ストレスとは言わないであろうが、だんだんと溜まってくる疲れのことをストレスというだろう。このストレスが続くと、人体は老化してしまう。しわが増えたり、白髪になったりする。どうして、そのようになってしまうのか。そういうことを、冬月は霞仙姑と共に、調べているのであった。冬月が考えていることは、栄養素の欠乏が基礎代謝を停止又は減少せしめてしまうからではないかということであった。つまり、体内の滞っているものをすっきりさせることによって、ストレスから解放されるのではないかといえた。 |
|
途切れたる運命の赤い糸の行方は如何になりたることなるや。冬月と夕子の関係はこのまま終わってしまうのだろうか。冬月は、不老不死の料理を求めて、その食材たる植物を調べている。そこで、山人会の老師・楚山人の紹介で、霞仙女なる霞仙姑の経営するハーブ園に通うことになった。霞仙女は、崑崙山で不老不死の桃農園を管理する西王母のような存在だと、冬月は思っていた。桃は、中国では漢方五果の一つに挙げられる。漢方五果には、モモ、クリ、アンズ、スモモ、ナツメがある。そのように、身体によいとされる植物を探して栽培しているうちに、広大なハーブ園ができあがったようである。冬月は、料理を通して、今まで勉強してきた事柄を思い出して、人体と食事の関係をつなげることに行き着いた。食物は、消化管内でアミノ酸、ブドウ糖、脂質なんかに分解されて、体内に取り込まれる。肝臓では、多くの物質代謝が行われて、細胞の構成に必要な物質が用意されることになる。そういった物質は、血管を通って、各器官の細胞に分配される。その分配された物質を使って、体の組織をつくる細胞をつくるために、細胞分裂が開始される。だから、肉体というものは、食物を採らねば、生きていけないということになる。物質代謝には酵素が必要で、この酵素は遺伝子の発現によって、DNAからmRNAへの転写、mRNAからtRNAへの翻訳とつながって、タンパク質合成によってつくられる。tRNAには、各種アミノ酸がくっついていて、タンパク質の構成を秩序立てているのだった。これは、身体を構成する物質をつくるための働きで、もう一つは細胞や組織をつくるための働きが遺伝子にはあった。細胞が増殖しなければ、肉体というものは維持できない。細胞が増殖するためには、DNAが正しく複製されなければならない。DNAが複製されれば、細胞分裂が行われる。そのとき、細胞の中では、あわただしく酵素が活躍しているだろう。 |
|
冬月と夕子をくっつけることに失敗した綾は、私のいる真坂野観光ホテルにやってきた。 |





