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「誰か一人を愛するという自信がない。」 |
小説・霧山幻想2
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夕子が仕事場に出勤すると、綾が近づいてきた。綾は冬月とのことがきがかりであるのだった。 |
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冬月と会ったあくる日、夕子は揺れる想いに悩まされた。夕子の内部における葛藤が生まれたのだった。それは、男を選ぶにおいて、財力のある男か、優しくて愛を感じさせる男か、というものだった。しかし、まだ、夕子の心は決まることはなかった。常識からいって、おカネを持っている男のほうが断然良い。しかし、どうしても断ち切ることのできない温かい感情を浮かべる心があることも見逃せないのだった。このままでは、悪い女になってしまうと思いながらも、心を決めかねるのだった。冬月も、自分と一緒になることによって、苦難に満ちた人生を夕子に求めてしまうということを考えると、どうしても一緒になろうなどと言えないのだった。二人の関係には、まだ時間がいるのかもしれない。 |
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私は、綾がホテルの一室にやってきたときに、冬月と夕子の間を近づけてやろうと考えたのだった。それは、冬月の過去の出来事のつらさを知っているからであった。そのときのつらさと亜季との離婚、そして夕子との別離の三重苦に苛まれていれば、彼の仕事は苦痛を抱えながら逃避のためのものとなってしまう。冬月が恋愛や結婚でうまくいかないという原因は、二十歳のときに運命の出逢いを逃してしまったとずっと思い込んでいるからであった。そして、十年ほど経っても、実はそのときの想いを心の奥底に残し続けているようなのであった。二十歳の恋は、遠く筑後川を隔てて、離れ離れになってしまっている。いわば、引き裂かれてしまったようなのだ。そして、亜季とも別れ、夕子とも離れ離れのハイウェイということになってしまったのだ。冬月は孤独に影を潜めるかのように、難題ばかりに囲まれていた。 |
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私は、冬月が去った後に、頭を抱えていた。それは、冬月が私が書いた文章を読んで、君の文章は年収一千万以上の文章だよ、と言ったからだ。そして、君の親父だったら、年収三百万以下の文章を書くよと言い足したのだった。真坂野社長から、罵倒された冬月だったが、ホテルに滞在している間に、今までの二十代に経験してきたことについて、考えたようだった。冬月は、ずっとフリーターとして、あまり恵まれた生活を送ってきたとはいえなかった。そして、真坂野交通の高速レストランにおいても、不遇な待遇ばかり与えられていた。しかし、それは、不況下における霧山一帯の境遇であって、カネはめぐりのよい土地とめぐりの悪い土地があるということを身に以て知らされることとなった。そこで、生活する人々は粗野で、不親切で、野生的といわんばかりのものであった。しかし、冬月は、今まで出合った経験から、「衣食足りて、礼節を知る」ということは事実であるということに到達したのだった。そういうことを考えれば、年収一千万以上の人々は礼節をつくせるが、年収三百万以下の人々は礼節をつくせないということになる。礼節とは、礼儀作法を守るとか、法律を遵守するとか、そのようなところに通じてくるものである。特に、食事をきちんと摂取できない場合、そのような体力を維持できないので、礼節は乱れがちになってくるということが言えそうである。だから、真実が正解であるとは限らないのだ。 |





