恐れ敬うもの


おばあちゃんは、いつも仏壇を拝んでいました。
押入れの上の段の一部が、仏壇となっていました。
中には、おしきみと水、ご飯が供えてあり、一番奥には何やら大きな紙が貼ってありました。 今思えば、お札のようなものだったと思います。
そして、お位牌。先祖代々のお位牌が所狭しとまつってありました。

もう一か所、毎日2回拝むものがありました。
家のすぐ横にはえている大きな木。なんの木だったかは、覚えていませんが、横に大きく枝をはって高さも結構ありました。その木は、家の玄関へ続く道より1メートルほど高くした石垣の上にありました。
根元には、大きな洞が空いていて、中は暗くて見えません。
何もお供えはしませんが、朝夕2回、必ず拝むのです。

夏の暑い日は、木の下がちょうどよい木陰になり、ござを敷いてひとりで
ままごと遊びをしていた記憶があります。  渓流から吹き上がる涼しい風がとても気持ち良かったです。

私には、弟がいます。
その弟は、夏の間母方の祖父母へ預けられていました。
私の預けられていたのは、父方の祖父母宅でした。
お盆の終わりに、弟を連れて帰省がてら私を迎えに来るのです。

やっと迎えたお盆。 やっと、帰れます。
山の中腹から、下の学校を見ながら、今か今かと待っていました。
1か月以上、会えなかった家族と会えた時は、いつも泣いていました。
手をつなぎ弟を連れて、集落の家々を訪ねては、弟を紹介して歩きました。

全ての家を訪問すると、とても疲れてしまいました。なにせ、急な上り坂ばかりです。大人がすれ違えないほどの細い道。
もう、帰ろうかと踵を返したその時でした。
私たちのすぐ後ろに、男の子が立っていました。
保育園に通っているぐらいの年でしょうか。服装は、私たちと同じような格好です。
でも、この集落には子供はいません。
あ、私たちみたいに、どこかの家の帰省してきた子なのかも。
と、思いました。
でも、私は恥ずかしくて声をかけるどころか、弟の手を引いて男の子の横を素通りしようとしました。 細い道なので、男の子が道を譲ってくれないと
私たちは通れません。
一瞬、立ち止まると、
「どこ行くん?」と、むこうから声をかけてきました。
弟が「おばあちゃんち。」と、言うと
「んなら、おれも行く。」と、言うのです。
私は、知らない子を連れて行ってもいいのかな、と思いましたが
気が付くと男の子は、弟の後ろにまわって両肩に手を置いてニコニコしています。
弟は、「いこう、いこう。」と、楽しそうです。

仕方なく、祖父母の家へと向かいました。
「あんた、どこの子なん?」と、聞いてみましたが、何も言わずにニコニコしています。 私は、首をかしげて、変な子だな、と思っていました。

しばらく坂を下っていくと、祖父母の家の前に祖母がて立っているのが見えました。
「おばあちゃーん!」と、手を振るとこちらを見るなり、ぎょっとした顔でじっとこちらを見ています。
知らない子を連れてきたのを、怒っているのかなと、心配になりました。
すると、慌てた様子で家の中へ戻り、すぐにまた出てきました。
手には、なんと鎌を持っているのです。
何も知らない弟は、そのまま進もうとしましたが、私は恐ろしさを感じて
弟の手を引っ張り、立ち止まりました。

「そないなもん!どこから連れてきた!」
祖母が大きな声で、怒鳴りました。
私は、弟の後ろにいた男の子を振り返りました。
すると、男の子はいなくなっていました。
えっ?と、周りを見てみると弟の両肩に蔦が一本ずつ背中にかけてかかっています。 後ろには、蔦の葉が散らばっていました。
怖くなり、私は泣いてしまいました。弟も、祖母の怒鳴り声に驚いて泣いていました。
祖母は、鎌を持ったまま近づいてくると
「あやしげなもんを家にいれたら、あかん。じっと、しとり。」
と、弟の後ろへまわり、鎌で背中を撫でるようにし、蔦を払いました。

そして、私たちを家の横の大きな木へ連れて行きました。
「神さんに守ってくれて、ありがとう言うてお参りしぃや。」
と、二人の頭を手で押しました。
「ありがとう。」と、私と弟はペコリと頭を下げました。
すると、木の洞からとてもとても大きな黒い蛇が出てきました。
びっくりして「きゃあっ!」と叫ぶと、スルスルと木の後ろへ行ってしまいました。
「あの神さんに、守ってもらったんでぇ。  嫌な予感したで、木の前に来たら、風もないのに仰山揺れとる。あ、これは何かあるな思ってん。」

騒ぎを聞きつけて、祖父と両親が出てきました。
3人は、「また、おばあちゃんの神さんがはじまったわ。」と、笑っていましたが、私は本当に男の子を見ているし、弟は両肩をつかまれました。顔もはっきりおぼえていました。
その夜は、また、来るんじゃないかと怖くて寝られませんでした。
自宅へ帰っても、しばらくは怖かったです。

父は、帰りの車の中で 「しかし山には、訳のわからない怪しげなものがいるからな。」と、言っていました。
祖母は、「山の神さんを敬い慕えば、どんな時も守ってくれる」と、断言していました。

一体、あの男の子はなんだったのでしょうか?



谷あいの集落

夏休みは、毎年必ずM県の祖父母に預けられていました。両親が共働きで、夏休みの長い間子供だけで留守番させるのが、心配だったのでしょう。

そこは、県境です。
その集落の先は、お世辞にも舗装されているとは言い難い車同士がすれ違えないような道が、山の中に続いています。
今で言う、酷道です。
そのまま進めば、民家のない山間を隣の県まで続いています。

猿、鹿、猪、カモシカ。普通に目にします。 渓流が流れ、山々には杉や檜が整然とならんでいます。
その集落には、15件の世帯しかありません。
その昔、都から落ち延びた平家の落人が住み始め、山の民として生きてきたようです。
私が預けられていた頃は、林業で生計をたてていました。

渓流には、そびえ立つ岩がむき出しの山。その向かいの山に、段々畑のように民家が並んでいます。
車で到着するのは、集落で一番標高の低い場所にある元小学校。グラウンドは、集落の人たちの車の駐車場になっています。建物は、平屋の校舎です。そのころは、国民宿舎でした。夏などは、宿泊予約が入ると、集落の女性が対応していました。
車を降りると荷物を持ち、人がすれ違えない幅のコンクリートの道をかなりの傾斜でふぅふぅ言いながら登ります。
その道の途中に家が、ぽつんぽつんと建っています。
隣り合っている家は、ありません。
それぞれが、段々畑の一辺に一件の家があるのです。
その中腹に祖父母のいえがありました。
もちろん平屋で、風呂便所は外に離れてあります。水は、山の上から各家庭に湧水が引かれていました。
縁側に出ると、眼下には登ってきた細い白い道が、くねくねと見えます。通りすぎてきた何軒かの家も見えます。
視線をあげると、渓流に沿ってそびえ立つ岩肌が見えます。その岩肌には、松がうねるような姿で、しがみつくように生えています。そこに猿が時おり姿を現します。

渓流の激しい流れの音とセミの鳴き声。
その音しか聞こえない集落。
店もなく、週一で移動販売の小さなトラックが来るだけの集落。
テレビはありましたが、電話は交換手に繋いでもらわなければいけません。
小さな私は、自宅に電話したくても交換手になんと言ってよいか分からず、集落の外に連絡をつけることは出来ませんでした。 まるで谷あいの薄暗い集落に、捨て置かれたような気分でした。遊ぶ子供もいません。夜は、街灯などありません。懐中電灯がなければ、移動できませんでした。

そんな集落で、6年間、毎年夏休みを過ごし、体験した奇妙な体験を記したいと思います。

続く
小さなころから、怖い話や不思議な話に興味がありました。

自信の体験談などを、不定期で少しずつ書いていきたいと思います。

よろしくお願いします。

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