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ある日、一匹の故愚魔小熊さんが森を散歩していました。
「今日もクモの巣がうざいなぁ」
小熊の男の子はクモの巣を蹴散らしながら歩いていると、一匹のリスが目の前に現われました。
「あら・・いいんじゃない?」
小熊さんはそのリスをぺろりと平らげてしまいました。口の周りについた血が、食物連鎖の悲しさを物語っています。
また別の日、小熊さんが獣道を散歩していると、一匹の子狐が目の前に現われました。
「あら・・いいんじゃない?」
小熊さんはその子狐をぺろりと平らげてしまいました。爪に挟まっている先程まで生きていた子狐の美しい毛が、弱肉強食の恐ろしさをリアルに体感させてくれます。
そのまた別の日、小熊さんが林の中を歩いていると、一匹のうさぎさんが目の前に現われました。
「・・・あ・・」バタン!
小熊さんは声にならない声を出し、その場で失神して倒れてしまいました。
日が暮れた頃、小熊さんはようやく目を覚ますと、一目散に母熊のいる洞穴へ帰って行きました。
「あら、遅かったのね。今日は大好物の子牛のホルモンよ」
そう言って母熊は小熊の目を気にしながら自分だけコソコソと貴重なリブロースを平らげていると、小熊は母熊に今日あったことを相談しました。
「なんか・・変」
「な・・なななな何も変じゃないわよ。これはとぉってもおいしくないところなのよ」
「今日、気がついたら気絶していたんだ」
「そうそう・・これを初めて食べたときは私もあまりの美味しさに気絶しそうに・・ハッ。しまった!」
「僕も大人になったのかな?」
「ばれたらしょうがないわね。これはリブロースと言うとても美味しいところなの。プルコギにしたらとても美味しいのよ。でもね? これを食べられるのは大人になってからよ。お酒やタバコと一緒よ・・・って大人になったの!?」
小熊はホルモンで言ったらハツにあたる心臓をバクバクさせながら、ビクビクしている母熊の脇を通り過ぎ、自分の寝床へ戻って行きました。
次の日起きると、小熊は決心しました。
「よし。もう一度会ってみよう!」
なんだかんだで牛を全て平らげ爆睡している母親を尻目に、小熊は走り出しました。
(なんだったんだろう・・・あれは・・うさぎを見た瞬間、体がおかしくなったんだ・・うさぎの新しい技? いやむしろあのうさぎ、デスノートを持ってたのかも? 心臓発作失敗?)
小熊さんは様々なことを考えながら昨日の場所に向かうと、そこにはまた愛らしいうさぎさんがいました。そのうさぎを見た瞬間、小熊の全身の毛が坂立ち、なぜか尻尾が横にルンルンと動きはじめました。
(心の臓が! 心の臓がぁあああ!)
顔はニコニコ、尻尾はルンルンしながらも、小熊さんの心臓(ハツ)ははじけそうなくらい高鳴り、全身の毛は逆立ち、爪もいつも以上に輝いていました。
(あわわわわわわわ・・・)
パニックになり体を硬直させていると、うさぎさんの首が小熊さんの方へわずかに動いたのです。それを感じ取った瞬間、小熊さんはその場にいたたまれず、逃げ出してしまったのです。
「うさぎさんの、デビールイヤー!!!」
小熊さんは意味不明な言葉を発しながら一目散に洞穴へ戻って行き、寝床にもぐってしまいました。
(サンタとサタンは仲良し・・サンタとサタンは兄弟・・サンタとサタンはアンパンとバイキン状態・・)
寝床に潜ってプルプル震えながら小熊さんがブツブツ意味不明なことを言っていると、お母さん熊が起きてきました。
(まだ昨日のことを根に持っているのね)
そして母熊は思い切って切り出しました。
「今度、子牛のハツでプルコギを作ってあげるから許してよ」
その言葉を聞いて小熊の震えがぴたりと止まりました。
(ハツプルコギ・・ハツコギ・・初恋?)
年に一度見るか見ないかの強引さですが、母熊のナイスアドバイスで小熊は気がつきました。
それからうさぎさんを遠くから見守る恋が始まったのです。時には木に擬態しながら、時には杉の木の近くで花粉症に苦しみながら・・そして時には近くを通ってうさぎさんに視線を送って見たりもしました。
(今日は目があった・・今日は頬を赤らめていた気がする・・今日は一段とおいしそ綺麗だった・・)
しかし、種族があまりに違い過ぎる恋・・・あまりにも遠すぎる恋・・・どうしてもこれといった手ごたえが掴めません。
(どうせかなわぬ恋ならば・・いっそ早く諦めたほうが楽になるのかな・・でももしかしたらもしかすることもあるかもしれないし・・でもあんなに可愛い彼女と、大きいだけがとりえの僕・・所詮、森のアイドルと森の殺戮者は交わることなどないのかも・・・でも万が一と言うことも・・・いやでも・・)
そんな堂々巡りを繰り返しているうちに、あっと言う間にクリスマスイブがやってきました。あまりにもご都合主義の展開にガッカリしないでください。クリスマスだし。
小熊さんはM-1を見ながら爆笑していると、サンタさんが熊の洞穴にやってきました。
「僕はサタンと兄弟じゃないよ」
意味不明なことを言っていますが、サンタさんは自然界にだけ実在するのですね。そんなサンタさんから小熊さんはプレゼントを受け取りました。・・そのプレゼントは物ではなく、"言葉"でした。
「君がうさぎに告白しても振られるだけだからやめといた方がいいよ」
それだけ言うと、母熊の所にリブロースをおいて、去っていってしまいました。母熊はリブロースの匂いをかぎつけリブロースを手に取ると、―眠ったままなのでしょうが―むさぼりはじめました。どうやら夢遊病の兆候があるようです。
夢遊病患者はともかく、問題はサンタに振られる宣言をされた小熊さんです。呆然と立ち尽くしつつ、今までのことを思い出していました。
(楽しそうにしていたうさぎさん・・・遠くから見守ることしか出来なかったけど・・会話を聞くことすらできなかったけど・・・僕の愛は届いていたような気がする! あんなサタンの出来そこないの言葉に惑わされちゃ駄目だ! 端はかきすて! 男は当たって砕けなきゃ!!!)
サンタさんに言われた一言で小熊さんは勇気がわいてきました。まさに今の小熊さんにとって最高のプレゼントだったようです。
小熊さんはうさぎさんのところまでひとっ走りして、はじめてうさぎさんの半径十m以内に入りました。もう失神寸前・・かと思いきや、サンタさんのプレゼントのおかげだったのでしょう。思い切ってシンプルに秘めていた想いをぶつけました。
「大好きです! 僕とお付き合いしてください!」
そしてうさぎさんはこう言いました。
「僕はオスですけど」
小熊さんはうさぎさんをぺろりと平らげてしまいましたとさ。
食物連鎖と弱肉強食のお話でした。
めでたしめでたし。
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