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火曜日は仕事帰りに映画鑑賞の予定なので、早めに私の大好きな邦画を紹介しておきます。
私は洋画志向と思われているようですが、邦画も大好きなんです。
近年、テレビ局とタイアップした邦画の企画があまりにも安易でつまらんから劇場で邦画を観ないだけ。
私が広い意味で映画に興味を持ち始めた1974年(昭和49年)・・・・。
松竹の『砂の器』と東宝の『サンダカン八番娼館・望郷』という名作が発表されました。
鳴り物入りの超大作として単独拡大公開された『砂の器』・・・。
それに対し、プログラム・ピクチャー体系で2本立てで公開された『サンダカン〜』の方を、本日は紹介します。
 
イメージ 1
↑『サンダカン八番娼館・望郷』のA4パンフです。
 
イメージ 2
↑関西版新聞広告です。
『サンダカン〜」は扱いが小さいですが、たまたまです(汗)
勝新と健さん共演の『無宿』がメインの広告です。
当時の関西の東宝系邦画チェーンの劇場がよくわかると思います。
『サンダカン〜』の同時上映は草刈正雄主演の『沖田総司』でした。これも良い作品です。
 
イメージ 3
↑DVDパッケージです。
 
『サンダカン八番娼館 望郷』
南方の島へと売春の出稼ぎに渡ったからゆきさんと呼ばれる日本人少女たちの、辛く波乱に満ちた実態を描いた山崎朋子の原作を、社会派・熊井啓監督が映画化。女性史研究家・三谷圭子は、からゆきさんのことを調べる過程の天草で小柄な老女サキと出会った。サキがからゆきさんと確信した圭子は、彼女が経験した過去を聞き出すため、共同生活を始める。やがて、サキはその重い口を少しずつ開いて、あまりにも衝撃的な生涯を語り始めるのだった……。本作が遺作となった日本映画を代表する女優・田中絹代が全霊をこめた演技で自らの最期を飾った。
 
この作品は中学生くらいの時にテレビ放映で観まして、凄い衝撃を受けた作品です。
(1974年(昭和49年度)公開作品)
大きい史実ではなく、忘れ去られるような小さな悲しい歴史を描いた邦画の名作やと思います。
 
冒頭、栗原小巻演じる女性史研究家の圭子は、訪れた天草で田中絹代演じるサキという老女に出会う。
この出会いのシーンからサキの家を圭子が訪問する場面までの流れがまず印象的。・・・食堂でシケモクをあさるサキに、圭子がハイライトを勧める。国産のタバコに感動して、外国の事をつい口走ってしまったサキに、圭子の友人は、「分かった、お婆さん、からゆきさんでしょう?」って言ってしまい、凍りついた空気の中、サキは無言で食堂から去るんですね。
サキの忘れ物を持って、ファンタをお土産に圭子はサキを追う。道中の会話で圭子を気に入ったサキは、自分の家に圭子を誘い招くんですが、廃墟に近いサキの家の描写が強烈なんですわ。
全てがボロボロに朽ち果てており、床はムカデだらけ。野良猫数匹と暮らすサキの生活の最底辺ぶりが凄いんですよ。ところがね、都会人ではあるが、自らの研究に根性を入れている圭子はダテにハイライトを吸っていません(笑)、「家にあがってくれただけでも一生忘れん」というサキの好意に甘え、研究の事を隠して、後日サキの家に居候する事を承諾してもらうんです。
圭子はサキがからゆきさんだという確信を持ったわけやね。
 
サキはね、とにかく人が恋しくてたまらない孤独暮らしの老人ですから、圭子の居候が嬉しくて嬉しくてたまらんわけです。近所の人の訪問にも、圭子を「息子の嫁じゃ」って紹介する。
二人は共に生活してすっかり打ち解けるんですが、圭子が知りたい部分に対しサキの口は重い。
ある夜、町の間男にレイプされかけた圭子を見たサキは、重い口を開き、自分の過去を語り始める・・・。
 
物語は、サキの少女時代(高橋洋子)に遡る。少女時代のサキは父親を早くに亡くした事から極貧なんですね。母親が親類の後家に嫁いだ事で、やっかい払いのようにサキの兄は住み込みの炭鉱夫に、サキは訳も分からず大金を稼げるという理由でボルネオへ売られてしまう。
兄はサキを見送る祭に、貧しさから売られていくサキを思い、自分の足を鎌で刺して悔しさを焼き付ける。
そこからはサキの波乱に満ちた人生や唯一の恋が描かれるんですが、中年になってサキが天草に帰ると、兄はサキの仕送りで建てた家で所帯を持っており、サキにつれない態度なんですね。
「外国で働いた女は外聞が悪いから」って、サキをよそ者のように扱うんです。
もはや天草はおろか、日本はサキの安住できる場所ではなかった・・・。
 
圭子はサキの証言をメモし、東京に送り続けていたんですが、ひょんな事から天草の部落の人達に研究者という素性がバレてしまい、サキとの共同生活に終わりが訪れる。
自分の研究者としての身分と目的を明かし、からゆきさんとしての過去を聞き出した事をサキに詫びる圭子。
同時に別れを告げ、圭子はサキに聞くんですよ、「どうして身分を明かさない私を置いてくれたの?・・・私の事、知りたくなかったの?」って・・・それに答えるサキの言葉に私は絶句しましたね。
「わしゃ、どぎゃんお前の事を知りたかった事か。けどなお前、人にはその人その人の都合ちゅうもんがある。話してよかこつなら、わざわざ聞かんでも、自分から話しとる。ばってん・・・当人が言えん事は、言えん訳があるけんたい。
お前が言えん言葉、どうして他人のわしが聞いてよかもんかね・・・」って・・・。
方言そのまま書きましたが、壮絶な人生に裏打ちされた、実に思いやりのある重みのあるセリフです。若い頃に観た私の眼からウロコが数枚落ちた名セリフでした。
翌朝に訪れたサキと圭子の別れのシーンには泣けますねぇ・・・。
 
くだらん余談になるんですが、私、いい格好言うんじゃなしに、風俗店とかダメで行けないんですよ・・・十代の頃、バイト先の親方に遊郭に連れて行かれて、自分の親くらいのおばさん相手に筆おろししました。その事はいまだに後悔していますが、その時以来、自分から風俗店に行った事がないし、誘われても絶対に行かない。この『サンダカン〜』のような作品を何度も観ていましたんで、身体を売るという行為の裏にある事情とか貧乏を想像してしまってダメなんです・・・。売春って、よほどの事情がないと出来ない行為やと思うんでね。
AVなどで趣味と実益を兼ねてエッチしとる女は勝手にやっとれやって思うんですが・・・。
 
綿密な取材を元に書かれたであろう原作を、熊井啓監督がテンポよくまとめていますが、男はひたすらバカみたいに描かれていて、観ていて肩身が狭い(笑)・・・。
でも、女性はもちろん、男が観るべき作品やと思いますよ。逞しく振舞っていても弱い女性の本質というか、男が女性に出来ることってなんやねんって部分で大いに感じる事ができる映画です。
PTAの役員として接したら手強そうな栗原小巻の演技(汗)
あまりにも自然体で、健気な女性を少女から中年まで演じた高橋洋子の演技。
ひたすら観ていて支えてあげたくなる老女を演じた田中絹代の演技。
この作品で観られる女優3人の演技は奇跡の名演だし、作品ひとつとっても、近年の邦画の賞をとった作品の3本分くらいの重みのある名編やと思いますね。
歴史の勉強という趣も含めて、未見の邦画ファンの方に強く勧めたい作品です。
 
 
イメージ 4
女性史研究家の圭子(栗原小巻)と老婆サキ(田中絹代)が出会うシーン。
綺麗で清楚な感じの栗原小巻があのキツいハイライトを吸ってるんですよ(汗)
70年代の自立し始めた女性像がハイライトに表れているような気がします。
 
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食堂で買ったファンタ・オレンジを手に、サキを追う圭子。
人好きのする大らかなサキは、圭子を人恋しさから家に誘う。
 
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サキを元からゆきさんだと確信した圭子は、サキの家に居候させてもらう。
二人は打ち解けるんですが、サキは外国の話題だけは避けて、口が重くなる。
 
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ある夜、圭子は間男に襲われそうになるが、バカな男の失態に呆れたサキは、過去を話し始める。
 
 
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初めて客をとらされた少女時代のサキ(高橋洋子)は、あまりのショックを雨で洗い流す。
 
イメージ 9
早くに日本に帰るため、汚れる事を厭わず働くサキ。
サンダカンの女親分キクの死を機に、サキは日本へ帰るのですが・・・。
 
劇中のサンダカンのエピソードで、からゆきさんを束ねる女親分キクのお話がまた凄いんです。
男を静かに恫喝する、キクを演じる水の江瀧子の貫禄がカッコいいんですが・・・。
キクは生前に墓をボルネオのジャングルに建てているんですね。
圭子がサキの証言を元にジャングルを捜索すると、見つかった墓は荒れ放題。
そして、その墓は日本に背を向けられて建てられていたという、ラストまで凄く悲しいお話です。
 
ひとりの人物の生涯を、複数の俳優で描く例が多々ありますが・・・。
この作品の田中絹代と高橋洋子が演じたサキは凄い。どちらも完全にサキなんです。
少女から晩年を、二人の名女優がひとつのサキにしているという奇跡やね・・・。
劇中の言葉で不適切な表現が多いので、こんな作品は今は作れないと思います。
それを考えると、昔の映画作家は身体を張ってメッセージを的確に映像化しています。
悲しい歴史の一部として、我々の記憶の隅に残しておくべき事実の映画化ですわ。
 
 
 

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