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4月3日
決戦の日
朝、目が覚めると僕は窓のカーテンを勢い良く開けた。
全身に太陽の日差しと心地よい風を浴びると、その爽快さに僕は大きく深呼吸をついた。
昨日はなかなか寝付けなかったが、今日は朝から体調も良く、申し分ないほどに体は出来上がっていた。
そしてその日の午後二時半。
僕は試合会場に着くと、控え室へと向かった。
「今日の調子はどうだ?」
声がする方を振り返るとそこには会長が立っていた。
「自分でも不思議なくらい完璧ですよ。」
「そうか。試合まで体温めとけよ。」
「はい」
それから僕は着替えた後、シャドーボクシングをしながら緊張と不安を押し殺すために集中した。
そして時は来た・・
「それではお待たせしました。今大会メインイベントスーパーフライ級日本タイトルマッチを行ないます。それでは赤コーナー挑戦者、東拓人選手の入場ですっ!!」
今までにない歓声の中、僕は夢のリングへと歩きはじめた。不思議と緊張はなく、絶対に勝つという思いだけが僕の頭を支配していた。
「青コーナー、スーパーフライ級チャンピオン西成剛選手の入場です!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
会場全体が震えるほどの歓声が一気に響きわたった。
相手の西成選手は僕と同じく無敗で勝ち上がってきた選手でチャンピンになってからも度々見せるパフォーマンスで観客を魅了し、とても人気のある選手だった。
だが僕も負けるわけにはいかない。今チャンピオンにならなければ意味がないんだ。死ぬ気でこの試合に挑もう。ただそう思った。
相手の西成選手はすごい形相で僕を睨みつけていたが、僕も負けじと相手を睨み返した。
会長が言った。
「拓人!相手の挑発にのるなよ。自分のボクシングをしっかりするんだ。」
「はい。わかってます。今日の僕は死んでも倒れませんよ。」
「よし!行ってこい!!」
そういうと会長は僕の背中を叩き、リング中央へと押し出した。
そして運命のゴングが鳴った。
「カンッ」
正直なところ、僕はここからの記憶はない。
だけど一つだけ覚えていたことがあった。
それは
西成選手のずば抜けた強さだった。
しかし僕にはぜったいに負けられない理由がある。
相手の拳が僕にヒットする度に香織との結婚がなぜか頭によぎった。
1ラウンド、2R、3R、4、5、6、7R目までは西成選手になんとかついていけた僕だったが、8R目に差し掛かった頃から、西成選手のパンチをもらう数が増えていった。
そして9R目。
いつのまにか片目が腫れて視界が悪くなったせいか、西成選手のストレートが僕のアゴにヒットした。その瞬間、僕はリングに膝をついた。
観客の興奮する声が会場に響きわたった。
「うぉぉぉぉぉ!!!!」
するとレフリーが、
「ワンッ!ツーッ!スリーッ!フォーッ!ファイブッ!シックスッ!セブ・・・・」
ダウンをとられてしまった僕は立ち上がり、そしてファイティングポーズをとった。
そして試合を再開したのだが、僕は相手のペースに飲み込まれ、手を出すことさえも困難になっていった。
そのとき、パンチを食らう度に、自分の頭の隅では負けるかもしれないと弱きなことを考えてしまう。
そう思うと戦っている最中なのになぜか僕の目からは涙が込み上げてきた。
香織との約束、結婚、そして香織の夢。すべて消えてしまう・・・。
だが僕はどれだけパンチをあびようが倒れなかった。
倒れてしまえば、それは終わりを意味するのだから・・・
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