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(前回の続き)
「お客さん。その顔どうしたんですか?ケンカでもしてきたような顔をして。」
僕はその質問に答える気力さえも無くしていた。
だが、しばらくして僕は運転手に言った。
「運転手さん・・・」
「はい。なんでしょう?」
「もし・・奥さんが半年の命と言われたら運転手さんならどうします・・・?」
運転手はミラー越しに僕を見ると、明るくこう言った。
「んー難しい質問をしますねぇ。
そうですねー。私ならー、最後に家内の“夢”を叶えてあげたいです。私が叶えてあげられる夢ならですけど・・・」
夢?
そういえば香織の夢とはいったいなんなのだろう?
こんなに一緒に居たのに、今まで一度も香織の夢を聞いたことはなかった。
僕が香織にしてあげられること。
その時の僕にはいくら考えても、その答えは出てはこなかった。
そうして、タクシーを降りた僕はマンションに帰ると、部屋の電気も付けずにベッドへと転がった。
目を閉じると香織の笑顔が浮かんでくる・・・
そこにはいろんな笑顔があった。
ふと目が合ったときに、こぼれる香織の笑顔。
僕が待ち合わせに遅れてきたとき、怒った顔の後に見せる香織の笑顔。
香織の作った料理をおいしいと言ったときに見せる香織の笑顔。
[愛してる]とメールで返したときに照れ臭そうに笑う香織の笑顔。
まだまだ数えきれない程の笑顔が僕の目には映っていた。
すると僕の目からは、さっきまで抑えていた涙が一気に溢れ出し、その涙は止まらなくなった。
長い夜の始まりだった・・・
翌朝、ほとんど眠ることができなかった僕は、会社に電話をし、その日は休暇をもらうことにした。
そして朝一番で香織がいる病院へと向かったんだ。
病院まで行くと、受付で香織の病室を教えてもらった。
そして病室に向かい廊下を歩いていると、前から見覚えのあるスーツ姿の男が歩いてきた。
それは香織のお父さんだった。
僕はお父さんに挨拶をした。
「おはようございます。」
「あー、拓人くんか。おはよう。」
お父さんの声には力がなかった。
僕は言った。
「香織の様子はどうでした?」
「今のところいつもと変わりはないよ。
しかし・・・
とうとう恐れていた日がやってきた。」
「僕も・・昨日先生から話は聞きました・・・」
「知っていたのか。香織のやつ、私には病院に通っていると言っていたのに、嘘をついていたんだ。」
「・・・」
僕は何も言えなかった。
すると突然、お父さんが僕の両肩に手を乗せて言った。
「拓人くん!お願いだ!香織のことを頼む。
香織は本当に君のことが好きらしい。
家にいると毎日のように君の話をお母さんや妹の由里にも話しているみたいだ。
今、私が香織にしてやれることは優しい声をかけてあげることぐらいしかできない。
香織の残りの人生、幸せにしてやれるのは君しかいないんだ!
どうか最後まで香織の傍にいてやってくれないか?
このとおりだ!」
するとお父さんは僕に深く頭を下げた。
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