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(前回の続き)
試合の日に香織が倒れ、香織が入院してからも僕の仕事とジム、そして病院に通う日々は続いた。
それから入院生活も二ヵ月が過ぎようとしていたが、香織は何も変わりなく元気な顔を見せていた。
ボクシングの方は、次の試合もすぐに決まり、その試合に勝てばチャンピオンに挑戦できる。
チャンピオンになることはいつの間にか僕の夢になっていたが、香織の夢でもあった。
だからぜったいに負けるわけにはいかなかった。
それから月日は流れ、そして試合当日を迎えた。
その日もいつも通りに気合いを入れ、試合に集中することにした。
だが、いつもと違うのは、試合会場に香織の姿がないこと・・・。
そんな余計ことを考えている場合ではないことはわかっている。
もし病院の先生が言った通り、香織が半年の命ならば、あとわずか4ヵ月しかない・・・
信じたくはなかったが、それが本当ならこの試合に負けてしまうと後4ヵ月でチャンピンになることは不可能になってしまう。
ぜったいにこの試合に勝って次のチャンピオン戦にも勝たなければ、香織にベルトを見せることは永遠にできない。
そのためにも今は試合のことだけを考え、勝つために全神経をこの試合に集中しなければならなかった。
そしてリングに上がった僕は深呼吸を一度すると、
カンッ!!
試合開始のゴングがなった。
その直後、試合が始まったにも関わらず、なぜか僕の頭にある言葉が浮かんだ。
香織が言った二つ目の夢。
[お嫁さんになること]
ゴングが鳴るまでは試合に集中していたはずなのに、なぜこんなときにその言葉がでてきたのかわからない・・・
ふと気が付くと、知らぬ間に僕は相手の選手からパンチを打たれる一方だった。
するとコーナーから会長が叫んだ。
「こらぁ!拓人ー!!いつものように攻めろぉ!!」
その言葉を聞いて僕の目の色が変わった。
相手は攻撃に集中していて、少しガードが甘くなっている。
その一瞬の隙を僕は見逃さなかった。
相手の顔が見えた瞬間、渾身の力をふりしぼり、相手の顔面に拳を叩き込んだ。
当てカン100%、見事に僕のパンチは相手のアゴにヒットし、リングに沈んだ。
場内は一瞬静まりかえった。
「1ラウンド1発KO・・・?」
カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!
解説者「試合終了ぉぉ!ゴング開始わずか1分、東選手のKO勝ちでーす!!」
すると静まりかえっていた場内に歓声が飛びかった。
「うぉぉぉーー!!!!」
興奮した僕は、拳を高く上げ、観客の声援は僕に身震いまでもさせた。
いける!ぜったいにこれならチャンピンに勝てる!
僕はこの勝利でチャンピンになる自信を手に入れた。
試合終了後、いつも恒例になっていた胸を二回叩いて香織に拳を突き立てる行動はこの日はできなかったので、この時は胸を二回叩いた後、カメラに向かって拳を突き立てた。
そしてリングを降り、控え室に帰った僕はあることを考えていた。
試合開始直後に頭に浮かんだ香織の言葉のことを。
僕は密かに、以前から決心していたことがあった。
それが頭にあったから香織のあの言葉が頭に浮かんだに違いない。
僕の決心。
そう。
それは香織へのプロポーズだった・・・
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