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愛弟子に捧ぐ

私たちのジャンは、
すべての卑俗なものを超えています


フランスの作家ロマン・ロランの自筆書簡である。彼の愛弟子で夭逝したジャン・ド・サン=プリの書簡集にロランが序文を書くかどうかについて、ジャンの弟ピエールとやり取りしている。

「1924年3月26日 火曜日

親愛なるピエール

この手紙を受け取ったら折り返し、
あなたの、いえ、私たちの親愛なるジャンの生涯について、
重要な出来事を記したものを送ってください。

出版については何も聞いていません。
本日、完全な校正刷り一式を受け取ることになっています。
刊行は間もなくだろうと思いますが、何も知りません。
現状をお知らせください。
出版社はいつも中途半端な返事を遅れてしかよこしませんので。

クレミュー(※リーデル出版社のアルベール・クレミュー)は、
私が序文を書くことに乗り気でないことを隠しもしませんでした。
『シヴァ神の踊り』(※アーナンダ・クーマラスワミの論集)のために
私が執筆した序文のせいで読者が減ったというのです
(それにしても、彼はついていないですね。
私の『ガンジー』は2週間おきに重刷されているというのに!)。

つまり! こういう事情ですから、
あなたの母上たっての希望でなければ、
ほんの数行でも序文を書く気にならないのが
お分かりいただけると思います。
とはいえ、友人としてはっきり仰ってください
(私は他人への愛情や敬愛の気持ちから出るものに
自尊心を持ち込むつもりはありませんので)。
序文なしで書簡集を出版した方がよいと思うか、
考えを聞かせてください。
返事は至急お願いします(必要なら電報で)。

それに、もし書くとしても、
まったく打算や党派性のない、
純粋な親愛の情から出たものを、
ほんの3〜4ページ書くことになるでしょう。
私たちのジャンは、すべての卑俗なものを超えていますので。

あなたと、あなたの母上に、心を込めて。

ロマン・ロラン」


ジャンの書簡集は1924年5月、リーデル社からロランの序文付きで出版された。その文章は愛情にあふれている。

「私はほんの数日ですが、
彼(※ジャン・ド・サン=プリ)に会いました。
それは7年前のことで、彼の印象は今でも私の頭から離れません。
あの輝かしい出会いの瞬間は風景を金色に彩り、
重苦しい歳月が過ぎていく中で人生を照らしてくれます」

「22歳で亡くなったこの子は、小さな英雄だったのです。
才知に長けた飛翔する鷲でした。
未来を前に翼を折られた彼がそうした存在であったことは、
ここに集められた手紙の端々に示されています。
世間の騒々しい評判とともに多くの作品が消えていきますが、
この書簡集は彼の名前を後世に伝えることでしょう」

「彼が最後まで愛読していたシェリーやキーツ、
バイロンという偉大な詩人であるこの鳥たちは、
間違っていなかったのだと思います。
未来のシェリーたちは歌を途中で断たれた、
美しい調べを奏でるこの若い兄の遺灰に
優しい関心を抱くことでしょう。

<<耳に響く音楽は美しい。
だが、耳に響かぬ音楽はことさらに美しい。>>
(キーツ『ギリシア古壺のうた』)」

ジャンの書簡集にはロラン宛の手紙のほか、マルセル・マルチネやエミール・マッソンなどに宛てた手紙も収録されている。

出版されたジャンの書簡集(筆者所有)


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