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幼い反抗の悲劇

(アエルト)屈辱的な妥協や
卑怯なあきらめは大きらいです
(波多野茂弥訳『ロマン・ロラン全集【9】』
所収「アエルト」みすず書房 P189)


ロマン・ロランの戯曲『アエルト』である。1898年に「劇芸術評論」から出た初版本で、見返しにロランの自筆で献辞が書き込まれている。

本作の主人公アエルトは、戦いに敗れた前王の息子で15〜16歳。他国の助けを借りて勝利した現太守に軟禁されている。戦争当時は5歳だったが、成長してこれまでの経緯を知り、「正義に飢えた」少年は「道徳的偉大さ」を求め、不正と妥協しての平和より、気高い戦いを望むようになる。行動することにあこがれ、心を焦がす少年だったが、老獪な政治家である太守が見過ごすはずもなく――。

ロラン自筆の献辞が入っている

『アエルト』を着想した当時、ロランは「私は戦争が諸悪のうちの最大のものだとは思いません。享楽的な、物質主義的平和は人類にとっては、ノーブルな理由のために必要になった戦争よりもはるかに不幸なものです」(宮本正清・山上千枝子訳『ロマン・ロラン全集【32】』所収「マルヴィーダ・フォン・マイゼンブークへの手紙」みすず書房 P150)と綴っている。普仏戦争に破れたフランスは意気阻喪し、半ば望んで退廃・堕落に沈んでいた。ロランは幼いながら征服者に反抗する若々しい精神を描くことで、民衆の衰弱した生命力をよみがえらせ、無気力から奮い立たせようと意図したといわれる。ロランは後年、本作を次のように位置付けた。

「私は芸術の中に、生きるため、行動するために援けになる、慰め力づける光りをみとめていた。私が生活していた文学の世界を毒していた享楽的な無気力を、私は力強く非難していた。第一の義務は今や人間を虚無から引き離し、力と信仰と英雄主義をどんな犠牲を払っても彼に吹き込むことのように思われた。それは『アエルト』の精神であり、『ベートーヴェンの生涯』への後の序文の精神――『われわれの周囲の空気は重い。英雄たちの息吹きをふたたび生かそう!……』であった」(宮本正清訳『ロマン・ロラン全集【17】』所収「回想記」みすず書房 P267)

本作は慣例に従って1日だけの上演で終わったこともあり、世間の注目を集めるまでには至らなかった。だが、「『アエルト』はその後も彼がいとおしみつづける自分の肖像画だった」(ロビシェ著/蛯原徳夫訳『ロマン・ロラン全集【43】』所収「ロマン・ロラン」みすず書房 P316)といわれている。


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