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衰えない創作の熱意

私はまだまだ無謀ですよ。
71歳になって、書きたい作品やアイデアが
10年、20年分もあるのですから。


フランスの作家ロマン・ロランのタイプ原稿である。1937年2月9日、ロランの自宅があったスイス・ヴィルヌーヴで書かれたもの。「民衆劇場(Théâtre du Peuple)」で上演するロランの劇作品「狼」と「7月14日」をラジオ・パリが生中継するに当たり、ロランが自身の劇作について語ったものだと思われる。

19世紀末から第2次世界大戦までの激動の時代にありながら、青春時代に計画したことを一つひとつ具現化していくロランの精神的な粘り強さ、創作への熱意には敬服する。忍耐力こそロランの天才かもしれない。それは、彼がローマ留学時代に足しげく通ったサン・ピエトロ・イン・ヴィンコリ教会にあるミケランジェロのモーセに見られるような預言者の忍耐に似ているだろうか。あまり透明な視力を持つと苦労するものだ。

ミケランジェロのモーセ(2010年・筆者撮影)

【意訳】
ラジオ・パリのリスナーの皆さん、
舞台上で演じてくださる皆さん、
民衆劇場の皆さんに、
心よりごあいさつ申し上げます。

「待つ」ということを知らない若い作家たちにとって、
これから上演される2作品は忍耐の良き手本になると思います。

「狼」を書き上げた約40年前、
私は数人の同志とパリに「民衆劇場」を設立したいと考えていました。
名優ジェミエやリュニェ=ポーをはじめ
劇場関係者のご協力・ご厚意はいただいていましたが、
機が熟するのを待たなければなりませんでした。
それは分かっていたことです。
民衆劇場に関する評論の結論に私は次のように書きました。
「民衆劇場をつくるためには、まず民衆が必要である。
それは自らの宿命と力強さを認識している人々のことだ」と。

こうした自覚がついにフランス人にもたらされました。
そして出来たばかりの民衆劇場は、40年間、
演じられることを待っていた作品たちを演じ始めたのです。


今回上演する作品の紹介は
カルロス・ラロンドさんにお譲りします。
私よりうまくやってくださいますので。
私からは簡単に説明させていただきます。

「狼」と「7月14日」は、
フランス革命を描く12の劇作品の一部です。
私が考えていたのは(今でもそう思っていますが)、
フランス革命はフランス人にとっての「イーリアス」だということです。
私がやりたかったのは(当時は私も若く無謀でした)、
この「イーリアス」を12の劇作品で描くことでした。
これまでに次の7作品を仕上げ、出版しています。

①「花の復活祭」
序章。韻文と散文による音楽のある喜劇で、
嵐をもたらすジャン=ジャック・ルソーが老人の姿で登場します。

②「7月14日」
“民衆の行動”。パリの人々を描いたもの。
昨年、そのパリで有名になった作品です。

それから暗い悲劇が続きます。

③「狼」
軍隊におけるフランス革命。

④「理性の勝利」
ジロンド派とジャコバン派の争いで割れるフランス。

⑤「ダントン」
革命指導者2人の対決。

⑥「愛と死との戯れ」
恐怖政治下での悲恋の花。

⑦最終章「獅子座の流星群」
国民公会派の人物と王党支持派の人物が
ともに国を追われてスイスに亡命し、
彼らが信じてきた偉大な戦いの
必然的な結末を認識して和解する物語。

私の計画を完成するためには、まだ5作品足りません。
それらの作品もいい加減なものではなりません。
今年はまず「ロベスピエール」を書こうと思っています。
私はまだまだ無謀ですよ。
71歳になって、書きたい作品やアイデアが
10年、20年分もあるのですから。

「家を建てるというならまだしも、
あの年齢で木を植え始めるとは!」と言われるでしょうが、
私はラ・フォンテーヌの寓話に登場する老人が
若者3人に言ったように答えてみせます。
「お前たちは誰かの喜びのために何かすることを、
賢い人間にやめさせるつもりなのかい?
誰かの喜びのために何かすることは、
それ自体すでに果報なのじゃ。
わしは今、その甘い果実を味わっておるよ」と。


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