夜型生活者の呟き

江古田潤の、コピーライター&ゴーストライターの無為な一行。近著「屁理屈屋」。

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もう十年以上が経つ。






東京都下。某市。

彼はワクワクしながら待っていた。

扉の陰で。

もうすぐ大好きな、大好きな先生が来る。
ほら、もうそこで声がしている。

小さな心臓は、幸いにも異常なく発達していた。
だからトクントクンと幼い興奮を刻み、
ぷっくりとした頬を紅潮させ、おかっぱの前髪を揺らしていた。


扉がガラッと開く。

「わっ!!」

彼は勢いよく飛び付く。
びっくりさせるつもりだった。ただ、それだけだった。
が、彼は精神こそ4歳に満たないくらいだったが、
体格は経年にふさわしい10歳児のものだった。

そして大好きな先生はみんなからも好かれる先生だった。
肩車にひとり。おぶさるようにひとり。
園児たちがまとわりついていた。
足元をすくわれる格好になった先生は、
咄嗟に身体をひねった。

しかし。。その膝頭は彼の下腹部に入ってしまった。






死亡事故ということもあって、
その日のうちにマスコミがやって来た。
公立の障害者自立支援施設だったということもある。
翌朝、すぐ記事になった。

「『先生』つまり職員Aが、警察から事情聴取を受けている」と。


先生は「実名」だった。


「・・・なんで事情もよく分からないうちに記事になるのかな・・・・・」

肩を落として帰ってきたカミさんが、そうポツンと呟いた。
彼女は先生の同僚だった。

「どこの社が来てた?」
「○○新聞と××新聞、それにTV○×・・・」
「そうか・・・」

短いやりとりで終わった。
当時、私は週刊誌の記者をしていた。
報道の正義も信じていた。
それは彼女もよく知っていて、
だから彼女は短い溜息をひとつ洩らしただけだった。

××新聞とTV○×は取り上げなかった。
書いたのは○○新聞だけ。
そしてその一ヶ月後、○○新聞は企画記事の連載をはじめた。

客観的に見て、いい企画だったと思う。
取材も記事もいい出来だった。

高齢者施設や障害者(この用語、嫌いなのだが)施設、
そういった密室になりやすい場所に潜む
職員や関係者の虐待を暴いたもので、
「社会に警鐘を鳴らす」にふさわしい重みもあった。

だが、それで確信した。

予断があったのだ。○○新聞の記者もデスクも
進行中のこの企画に囚われ、

「彼の死は『先生』による虐待ではないか?」

のように疑っていたに違いない、と。。
だから「先生」の実名を出し、
警察の事情聴取にまで言及したのだ。

もちろん「先生」は事情聴取から即日で帰された。
しかしそのまま心を病んでしまった。
手取りの三割ほどのローンで買った新居は
近所の眼に耐え切れず手放し、引越しも余儀なくされた。
ふたりいた子供さんはそれぞれ転校し、
奥様はパート先を辞めた。
自身も六ヶ月の休職を経て職場復帰はしたが、
それでもまだ深く膿む。




職務執行中の公務員は、その基本的人権の一部を制約される。




記事は事情聴取という事実を報じただけで、
なんら法的瑕疵はない。
予断にのって好奇の目を向けた野次馬たちが
指弾されるべきなのかもしれない。
だが、「先生」が失ったものの質量を考えると・・・・・。。




閑話休題。




ヤフのブログで『お気に』に入れている某医師が
こんな表現をしている。

〜どんなにきれいごとを言っても医学は屍の上に成り立つ学問だ〜

これをそっくり真似すると、
「どんなにきれいごとを言ってもマスコミは他人の不幸の上に成り立つ産業」なのだ。

だから私は自問した。
「お前の書くものは正しいデータを記載しているか、本当に今、報せなければいけないものか、それは予断や偏見に支配されていないか、それでもなければ、読み手に歓んでもらえる娯楽を提供しているか???」


結論はまだ出ない。
ゆえに今は報道ではなく、
カタログやパンフレットのコピーライティング、
専門系ゴーストライターを引き受けて口を糊している。

その後。

私はカミさんと引っ付いて別れて、
でも戦友として仲良くしていて。。。
その彼女が今年二月に訪ねてきたときに、
一枚の賀状を手にしていた。

久しぶりに来たのよ、だから・・・。

彼女はそう言って、それを私に手渡した。

「先生」からだった。
ごくありきたりの年賀の挨拶文が記されているだけ。
が、背景に薄い文字で透かしのように
刷り込まれている文言があった。

憲法九条の条文だった。

そこには、
「いかなる理由があれども、二度と人の生命を奪う側に立ちたくない」
との十年分の懊悩が刻印されているようだった。




※※他のブログでもさんざん流した内容なんですが。。。
新規読者のために再録いたします。
自分の原点に近い時点の話だからかもしれません。
既読の方、失礼いたしました。
 
 
追記・2013年2月2日
 
この原稿を書いたのは5年前である。そして今また憲法9条の改正が問われている。
が、私は国防軍には反対だ。戦争を知らない世代である私だが、
なぜか戦争の恐ろしさは身について知っている。
10数メートルの距離で、9mmロング弾を眉間に打ち込まれるとどうなるか?
当ブログの読者には医療関係者が多いので、悲惨な状況が視野に浮かぶことと思う。
今度の政権には、なんとしても戦争を回避して外交復活にかけてほしい。
軍人だった老父は、「中国人は残酷だぞ」と言い、日本が中国にしたことも残酷だったと認めている。
戦争は、テレビや映画で見るようなカッコいい戦闘機や軍艦だけが出てくるわけではない。
人が人を殺すのだ。それをリアルに感じたら、もう2度と戦地なぞ行きたくなくなるだろう。
私は万感の思いを持って本稿を再録する。戦争反対だ。
軍事力によらなくても日本が国際的に活躍できる場があることを、拙著・屁理屈屋で書いた。
書いている筆致には、この先生の懊悩がにじんでいることを忘れたくない。
 

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先生のこれからにお祈りします、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

2013/2/3(日) 午前 1:16 奈々

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奈々さん、ありがとう。同じマスコミ人のアナタにいっていただくと、すごくうれしいです。視聴者・読者の皆様に頼られる報道人を目指したいですね。コメントありがとうございます。

2013/2/3(日) 午前 1:31 [ じゅん ]

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戦争は結果又は手段であり、原因を根絶することが、未だされていない。
戦争が怖いと感情に訴えても、結果又は手段が、怖いと言うことになる。
戦争という結果又は手段にいたる原因は、未解決で残っている。
どんなに結果又は手段を避けようとしても、原因を究明しないと又繰り返す。
戦犯が悪かったという。
あれだけ、教員、マスコミ、世論が火の玉になって、
満州国を建設し、鬼畜米英を叫んでいて、
戦争末期の一握りの一部戦犯が悪いという。
日本の官僚組織が、方向転換できぬ、年功序列と前例踏襲だったから
戦争に突入したのです。その官僚はそっくりそのまま、
まだ生き残っています。また、やらかしました。
経済でも原発でも。

2013/10/14(月) 午後 7:51 [ 悲歌慷慨 ]


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