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Fly fishing in Rural Stream.
釣りに行きたい!

書庫RS釣行記 '17

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ゴールデンウィーク。

同級生一家と休みを合わせて遊びに行く予定が、あちらの長男坊クンの発熱で急遽キャンセルになった。

メジャーな観光地へ行っても、人混みが容易に想像できるので、とりあえず、帰省することにした。
もちろん、車のトランクには釣り道具も満載して。

神様がくれた自由時間。

久しぶりに親父を連れて行くことにした。

と言っても、ここ数年で足腰の弱った親父は、釣りを卒業してキノコや山菜採りに熱中しており、山菜の新しいポイント探しをするとのことでついてきた。
母も孫を独占できるので、爺さんを連れて行けという圧力を発していた。

ボクも新しいポイントを開拓したいと思っていたが、熊の危険が伴う新規開拓は二人連れの方が安心だろうということで、親父を連れていくことにした。


しばらく走って、入渓できそうな場所を見つけたが、タンクガード等の下回りが補強されたSUVが1台停まっていた。かなり林道を走り回っているような風貌だ。
いつもなら、先行者をやり過ごして奥に進むか戻るかだけど、親父がこの辺りに入ってみようというので、そのSUVの後ろに車を停めた。

準備の簡単な山菜取りの親父は、ウェーダーに着替えるボクを残してさっさと藪の中へ消えていった。

準備を終えて、川原に向かうと見知らぬおじさんと親父がにこやかに談笑していた。
そのおじさんは、釣りではなく、水質調査のお仕事で、川の水のサンプルを採取しにきたとのことだった。
ボクの装備を見たおじさんは、開口一番『何を釣るの?』と質問してきた。

ボクは『50cmのニジマス!』と自信を持って答えたのだが、返ってきた言葉は意外なものだった。

『それだけ?他には?』

その言葉にボクは戸惑っていると、おじさんが更に畳み掛けてきた。

『もっと大きな奴さ。メーター級の。』

ボクの頭を思考停止に追いやるに充分な言葉だった。

『メーター級?』

道内の川でメーター級と言えば・・・

おじさんは口に人差し指を当て、『この場所は内緒だよ。』との一言を残して帰って行った。

メーター級。

イトウだ。

確かに、何十年も前にはこの辺りにも棲息していたという記録はあるが、ボクはてっきり絶滅してしまったものと思っていた。
というのも、この辺りには大きなニジマスやブラウンが自然繁殖しているはずなのだ。
イトウとニジマスは産卵期が重なり、かつ、ニジマスの方がほんの少し遅くに産卵するため、先に産卵したイトウの産卵床を掘り返してしまい、イトウの卵は孵化できなくなってしまったり、露になった卵が他の魚に食べられてしまったりするようだ。

もし本当に生息しているのならば、凄いことではないか?

これは何キロ歩いてでも、何回通ってでも探す価値はあることだと思う。

さて、気を取り直してタックルを見直す。
今日のタックルは、60cm級が釣れても大丈夫なように、いつも支笏湖で使っているタックルだ。
支笏湖モンスター用といえど、メーター級にはやや心もとない。
せめて、リーダーだけは新しい物に換えておこうと、0Xのフロロを取り出した。

ボクはこれまで、かの大魚を釣ったことがないのだが、棲息している前提で冷静に考えてみると、そろそろ産卵が終わって体力回復のための荒喰いを始める個体も出てくる頃合いだろう。
この川は水深の浅いところが多く、水温が高くなりやすいため、産卵も早く終わっているはずだ。
イトウの産卵は雪代が終わる頃にピークのはずだが、その雪代もだいぶ前に落ち着いていて、手を浸すとぬるく感じるほどの水温になっている。
それに、この辺りは下流域なので、産卵に直接影響する個体もいないはずだ。

そんな期待を胸に、大きなストリーマーを結んだ。

このあたりはまだ携帯電話の圏内なので、はぐれても大丈夫だろうということで、親父は予定通り山菜取り、ボクは下流を探ることにした。
とりあえず、昼頃に戻るという約束で親父と別れた。



何キロ歩いただろう。
かれこれ二時間以上探したが、反応がない。何かの稚魚だと思うけど、ほんの数cmの小魚はいても、辺りに大物の気配は感じられない。
時間的にちょうど折り返し地点かと思い、戻ることにした。


入渓地点と折り返し地点のちょうど中間くらいの場所、流れが下流に向かって大きく左にカーブしているポイントで、下ってくる時には気付かなかったが、対岸の葦際に茶色の丸太が沈んでいるのを見つけた。

先月の強風で傾いたのだろうか、川岸の樹木が少し川面に覆い被さって木陰ができている、良いポイントだ。
確か、下ってくる時にもダウンクロスでストリーマーをスイングさせたが、特に反応はなかった場所だ。

70cmほどの長さの茶色い丸太。

沈んだ倒木で、褐色の藻類か何かが繁茂しているのだろう。

水に濁りがあるので判然としない。

しかし、何故だか目が離せない。

釣り師としての直感が、ここを動くなとボクの身体に命令を下していた。


丸太が動いた。


魚だ!

濁りのせいで茶色に見えたが、まだ婚姻色が抜けていないイトウだった。

ボクは、川で泳いでいるイトウに初めて出逢った。
水族館にいるイトウとは違う、野生の猛々しさ、美しさ、ボクの貧相な語彙力では到底言い表せないオーラを纏った湿原の主がそこに確かに存在していた。


すぐに携帯電話で親父を呼んだ。


よく観察していると、このイトウはキョロキョロと辺りを探りながら定位していた。辺りに他の個体はいない。
やはり産卵が終わり、下流部に移動して餌を探している個体のようだった。

親父が来るまでの間にタックルを点検する。

フライは黒・紫・白を使ったイントルーダーもどき。元々は北米で、降海型のニジマス『スティールヘッド』を釣るために産み出されたフライだと聞いている。いつか静内川のスティールヘッドを釣り上げることを夢見て巻いたフライの一つだった。ボクのフライボックスの中で、一番大きくて強烈な存在感を放っていたのがこのフライだったので、湿原の主を誘い出すという大役を任せてみることにした。

数十分は待ったが、親父とはだいぶ離れてしまっていたようで、なかなか合流してこない。

釣り始めることにした。

幸い、下流側から見つけたので、まだこちらの動きは悟られていないはず。
流れの緩やかなプールになっているので、上流の対岸に向かって、アップクロスにキャストして逆引きすることにした。

第一投目。

魚の定位している場所から3m上流にフライが入った。ラインの弛みをとり、リトリーブを始めた直後、イトウが反応した。フライがイトウの横を通りすぎる直前、イトウは急激に頭を振り、三日月のように身体をくねらせてフライを猛追してきた。
ボクの心臓は破裂しそうなほどに高鳴った。

しかし、ボクのフライを餌ではないと判断したのか、元の定位置に戻って行ってしまった。

一定の速度でリトリーブしたが、それが不自然だったのか?
活きているベイトフィッシュなら、イトウに追いかけられたら全速力で逃げるはず。


第二投目。
同じように3m上流にフライを落とす。まずはラインの弛みをとり、そのままゆっくりとリトリーブ。
イトウが反応して頭を動かした瞬間、リトリーブの速度を上げ、全速力で逃げる小魚を演出する。
イトウが巨大な口を開けて猛然と追ってくる。

直後、
ラインが全く手繰れなくなった。
根掛かりしたようだ。
気分はどん底に落とされた。

フライを回収すべく、さらに強引にラインを手繰った。
すると、間髪いれずに『ゴン!』と反発する衝撃が伝わってきた。

あの大きなイトウと繋がっていたのだ。

ゴゴン、ゴゴンと何度もヘッドシェイクしながら、フライを振りほどこうとするイトウ。

ボクも負けじと、ロッドを跳ね上げ、何度か強くアワセを入れる。
イトウの顎は堅いので、強くアワセを入れないとフックが弾かれると聞いたことがあったことを思い出したのだ。

すばやくリールを回し、余ったラインを全速力で巻き取る。

張ったラインが切れないように、リールのドラグを調整する。
リールは、信頼のおける大型のソルトウォーター用で、ディスクドラグだ。

緊張したラインがビィーンと鳴り響く。

イトウが水面まで浮上してきた。

デカい。

緋色の、まるで『鯉のぼり』だ。

70cm位だと思っていたのは婚姻色の残る胴体部分で、さらに、30cmほどの巨大な頭部が付いていた。

メーター級だ!

一進一退のやり取りの最中、ようやく親父が到着した。

ボクはランディングネットを親父に託した。

親父もこんな大物を釣ったことはないので、興奮して、慌てふためいている。
何度もネットに入れ損ね、その度に対岸まで走られる。

そんなやり取りを数回繰返し、遂にランディングに成功した。


イメージ 2


湿原の王者 イトウ

1mを2〜3ミリ越えていた。


イメージ 1


力強く、悠然と淵に戻って行く姿は、とても神々しかった。

この素晴らしい大自然を遺していくために、ボクには何ができるだろう。

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