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写真提供・Mr.ティディ マラケシュのジャマ・エル・フナ広場に三人の女が手をつないで立っている。観光客がアクロバットや大道芸を楽しんでいる。蛇使いの老人が客に蛇を巻きつけて、稼いでいる。 夕日が沈もうとしている。 立ち並んだ屋台から、もうもうと煙が上がっている。食欲を誘うカバブの焼ける匂いが強烈にしてくる。 一人の女が初めて声を発す。 「私たちは、山を脱出したのね、ここにはすばらしい生活があるわ」 蛇使いの老人が、三人の女たちを見てニヤリとした。 ガラガラ蛇は、ちょうど興奮をして、首をもたげているところだ。 「ここはね、昔、処刑場だったのさ。刀で切り落とした首をいくつも晒してあったんだぜ。死者の広場さ」と運転手が言った。 女たちは行くところがない。三人は、大道芸人の住処に入っていく。どうやら、今夜はそこに休ませてもらえそうだ。 誰も居なくなったジャマ・エル・フナで一人の女が月の光の下で踊る。 スカートをちょっと持ち上げくるりと回る。アトラスを背景に踊った時のように。しかし、心なしか女から目の光が消えている。女は、両手に染料のヘンナで綺麗な模様を描いていて、それだけが月の光にオレンジ色にきらきらと光った。 「ヘンナはね、ベルベル人の間では、魔よけなんだ。ベルベル語では、『平和の使途』という意味なんだ・・・」 運転手が説明した。 途中、女たちは、やっとの思いで山から降りる。後を振り返りもしない。 彼女たちの親はジェラバの袖で涙を拭く。 山間には、いくつもの湖がある。砂漠地帯のオアシスだ。水を飲むロバの大きな目が彼女たちを見ている。ロバの首が上下するたびに、チリンと鳴る。 オリーブの木陰で若い男が帽子を顔に寝転がっている。 一人の女がその男に近づく。 男が帽子を取って、起き上がる。 「やあ」と、笑った歯が煙草の脂で黒い。しばらく女は男の横にしゃがんでいた。そして、その男が泣く。その泣き方がとてもいい。声は出さない。男泣きだ。男は、女が去るのを止めないが、どんなに心が痛いかがよく分かる。 男は、ロバの傍らにすたすたと歩いて行って、オアシスに頭ごと水に顔をつける。ロバが男の顔をぺろりと舐めた。 この話は、私がお世話になったハッサニアというおばあさんから聞いた話だ。彼女は2006年に他界したと聞く。ハッサニアは、英語が話せなかった。私におやすみの挨拶の代わりに、「スリープ!!」と言っていた。その笑顔を時々思い出すことがある。ベルベル人だった。 私は、今年になって、もしかしてこの物語はハッサニア自身の若い頃のお話 ではないかと思ったりしている。 文章・瑠璃子 転用不可 |

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