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定住地の自宅付近にある公園のベンチに座り、頬を撫でる風や、青々とした木の葉や木々の枝から漏れる太陽の光線に対して、心底「私はなんと幸福なのだろうか」と感嘆のため息を吐くことがあっただろうか? 見知らぬ土地であるがゆえに幸福なのだというのはどうだろう? 自分は誰からも知られていないという安心感。そして、一人にならざるを得ない瞬間的満足として。私は本をめくりながら、青のインクで傍線をほどこしてある箇所を目で追っていた。 「すばらしい沈黙の一瞬。人間たちは沈黙してしまった。だが世界のうたごえが湧きおこり、部屋の奥底に鎖でつながれていたぼくは、それを希求していた。いまなら語ることができる。一体、自分が自分の存在をいつも感じていられるということ以上に、より願わしい祈願がはたしてあるのだろうか? いまぼくが希っているのは幸福になることではない。ただ、意識していられることだ。ひとは自分が世界から除外されたと信じている。だが、こうした身内の抵抗感が解けてなくなるには、黄金色の埃にまみれてオリーブの木がすっくと立ち、朝の陽の光を浴びて目も眩むような海岸があるだけでじゅうぶんなのだ。ぼくについても同じことだ。ぼくは可能性を自覚しているし、その可能性にはぼく自身が責任を負っているのだ。人生の一瞬、一瞬は、そのなかに奇蹟の価値と永遠の青春の相貌をひめている」 私は、しばし翻訳本のフレーズの美しさに浸っていた。 どうやら田島は完全に日本を脱出した。この「太陽の讃歌」と田島の当時の心境との関りはあるのだろうか。 人生に意義を見出す望みが無い絶望的な状況、不条理を追求したカミュを田島はどのように愛読していたのだろうか。今、その本が私の手の中で心を動かしていることが何か不思議だった。 コンパスとは信頼。 不安は猜疑心を呼ぶ。 砂漠にはコンパスが必要だ。 見渡すかぎりのデューン その中でたった一人でいると 孤独の意味がわかる。 In French, the "Amour" of "Amour Pegasus" means "Cupid" and "Faerie" 愛も信頼 不安は支配欲 まして、強制ではない。 愛を所有や支配で自分の手の中に入れることはできない。 それらの中にいるものは、すべての時が来たら、飛び立つのだ。 言葉を捨てることがたまには必要だ。 そうすることによって世界を直感的に感じ取ることができる。 沈黙はすべてを制してしまう。 自分の目で生きること 他人の目で生きないことが、自分を生きることだと思う。 ハッサニアは、袋から皺がよったエプロンの紐をしっかり首で縛り、腕まくりをして、汚れた皿を洗い出した。しばらくして、ジェラバの裾が気になったのか、古びた布製のバッグから紐を出して、アラジンのランプに登場する丸くなったずぼんのように、裾を縛った。 「私は幸せだ。家は数え切れないくらいあるからねえ」 「あんたの家は? どこの出身だい?」 アジザが笑う。 「ご主人の奥様だよ。日本から来られた」 「ヤバン?」 「東のほうだけど、とても遠いからねえ。すぐには帰れないんだよ」 「ムスキーナ」 ハッサニアは、瑤子の顔を両手で挟んで、やさしく叩いた。 「あんた、帰れないと、どうするんだい?」 「奥様は、もうここの人になられたんだから、そんなに度々は帰るわけにはいかないんだよ」 「ムスキーナ」 ハッサニアは日本がどこにあるのか知らないだろう。 「私はやはり可哀相?」と言うと、ハッサニアは、ちょっと首を傾けて、「ムスキーナ」と再度呟いた。 「私の二番目の夫はやさしかったよ。いつも羊の肉を持って帰ってきた。今も私はみんなからやさしくしてもらっている。神様は寛大なお方だ。ハムドリラー。バラカ」 アジザがズッキーニに皮を剥きながら、クスリと笑った。 バラカは、私はお腹がいっぱいです。もう充分にいただきました。ハムドリラーは、ありがとうございますと食事が終った時に言う言葉で、日本語では、おごちそうさまに当たる。 西サハラの出身で、子供の頃からフォークロアで踊っていたという。身のこなしが軽い。あっと言う間にキッチンの床を拭きあげた。 アジザがカフェ・オ・レを入れると、「ビスミアッラー」と、天を仰いだ後に、うまそうに音を立ててすすった。 ハッサニアの持ち物は、古びたバッグだけだ。 「生きていくのに必要なものは、そんなにないのさ。私の必要なものは、全部このバッグに入っている」と、軽くバッグを撫でた。 ★文章・瑠 ★瑠璃子のメモ このブログは、最大文字で編集しています。 パソコンの表示から文字サイズを「最大」にして頂ければ きちんと整列した文字になると思います。 「ウエブでこのプログラムを使って侵入しようとする・・・」というセキュリティの黄色いマークが出てこのブログに来れないという報告が一部あるそうですが、セキュリティはきちんとしておりますのでご安心下さい。 ご訪問コメントの遅れの理由をゲストブックトップへ記しております。 ありがとうございます。今日も平穏でありますように心から祈ります。 六月三日(火曜日) 転用不可
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