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写真撮影・Ms.Jakki 太陽は真上にあった。暑くなり始めている。湿気はまったくない。車は太陽の熱で、焼けていた。 「あと、どれくらいかしら?」 「飛ばすと、二時間くらいでしょう」 こちらの人が飛ばすというのは、二百キロに近い。 「マダム、ちょっとスークに寄っていいですか?」 「ええ、私もメディナを歩くわ」 道なりに、大きな鍋でエスカルゴを茹でて売っている。強烈な匂いは、私が異国にいるということを思い出させた。 アリが積み重なったセジャーダから二枚のカーペットを選び出した。店の男とまるで旧知の友人のような顔で値段の交渉をし始めた。 メディナの絨毯屋は、しつこい店員に捕まらない限り楽しい場所だ。良い品が安くて買えたのだろう。アリが満足そうな顔でセジャーダを抱えて来た。一枚は、アジザが頼んだものだと言う。 アーチ型の門に射す斜めからの光に、絶妙の角度で黒猫が座っていた。 アリは、キヨスクでオリンピックブルーという煙草と、ロピニオンとリビラシオンという新聞を購入した。モロッコでは新聞配達が定着していない。識字率が低いからだ。読める人は、キヨスクで購入する。大学を卒業していれば、ある意味ではエリートなのだ。話によるとアリは、家の事情で大学を中退したのだそうだ。私を車で待っているときは、ペーパーバックの小説を読んでいることが多かった。彼は、運転手やプールの掃除が嫌だという訳ではなさそうだが、時々、無断でサボることもあった。そういう時は、大抵玉突きをしているか、家に帰ってシエスタの時間を取っている。私は文句を言う気にもなれなかった。アハマドが他界してから気が緩んだのだろう。それは仕方のないことだ。 アリは時々私に反抗的な目をすることがある。それは私の直感だ。 アリが休憩を取りたいと車をすっとカフェの横に着けた。そしてすたすたとカフェのほうへ歩いて行く。私も仕方なく車を降りる。私は道沿いのパラソルを出しているカフェに座った。アリは、私をちらりと見て、面倒だなあという足取りで、斜め後ろの席に座った。 道路を隔てて子供たちが追いかけっこをして遊んでいる。 女の子の靴が脱げて転んだ。日当たりのよい庭でその子の母親らしき女性が糸を紡いでいる。家の前で夫が西瓜を売っている。もうすぐ妻が家の中に入るだろう。夫がスークに行く時間なのでオリーブを袋に詰めなければいけない。穏やかな目をしたロバが家の前にある大きな木につながれている。妻が戸口で夫を呼んだ。夫は軽い身のこなしで家に入り、またすぐオリーブの袋を肩に担いで家から出てきた。夫はロバの紐を引っ張りながら、荷をロバに乗せた。そして、赤い紐の付いた鈴をロバの首にかけた。 スークまでの道を教え込んでいるロバは、トコトコとひとりでに歩き出す。
人の動きをじっと見ていると、脳裏の視覚が映し出すそれと、気持ちの中のそれが交差して、勝手に動き出す。
ひとつは、実践的に、そしてひとつは観念的に。 西瓜売りの男が、夫だという確信はどこにあるのか? 私は、テーブルの上にある苦いコーヒーを飲み干し、道路を横切って、テントの下に転がっている西瓜を一つ買った。 それはラグビーボールを一回り大きくしたような西瓜で、楕円形だった。 西瓜売りの男は、薄茶色の涼しい眼をしていて、遠目から見るよりずっと若くてハンサムだった。 その時、庭にいる女性が男に向かって声を発した。その男は彼女の方へ歩き出す。私の推測は、外れてはいなかった。理由は見つからないが、自分の観察眼が当たっていると、いつも私はちょっとだけがっかりする。 斜め後ろを振り返ると、アリは腕を組んで、椅子にもたれて目を閉じていた。もう運転はしないよ・・という雰囲気をかもしだしているようだった。食後でお腹が膨れて眠くなったのだろう。客はまばらで、私も目を閉じた。すると、やはりいつもの映像が浮かんで来る。いつもの映像とは、得体のしれないものではなく、もう何千回、何万回と見た映像だ。もしも私にこの映像が映ることがなくなったら、存在の価値すら疑わしい。しかし、その映像は、猫が尻尾とじゃれ合うように堂々巡りだ。 運命の糸を手繰り寄せると、一瞬の点のように見える。それが出発点なのか、最終地点なのかわからないほどの重なり具合だ。それに対して無抵抗になるまで、充分に時間は経過している。 「インシャーラー」という挨拶が後ろのほうで聞こえた。 私は苦笑いをした。 そして、本当にそういうものかもしれないと思った。 神のみぞ知る・・・ グレーゾーンで揺れてはいけない。 グレーゾーンであるからこそ、両方が見える。私は、どちらにも転がることができる自由がある。そう思うと、ふっと気持ちが軽くなった。 何百ものスライドの中から一枚を取り出すことはとても容易なことではないが、それが出来るようになるまで、気持ちを落ち着けなくてはならない。 ボーイがミントティーを運んで来た。 私の顔を見て、かすかに微笑んだ。 そして、そのボーイの横顔がにべもなく、
「それは、博打だね」と、すれ違いざまに呟いた気がした。
音楽が流れるまで時間がかかります。 ボリュームは右です。 文・瑠 ★瑠璃子のメモ このブログは、最大文字で編集しています。 パソコンの表示から文字サイズを「最大」にして頂ければ きちんと整列した文字になると思います。 宜しくお願いします。良き一日でありますように。 転用不可
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