|
ほんとにただの偶然だった。
この街に来たのも、
そしてあの猫に出くわしたのも・・・。
かなり遅めの正月休みをとることになった私は、
たいした計画もたてていなかったため、
ただ時間をもてあましていた。
正直、昨今の経済情勢のなか
仕事を休むことには抵抗があったし、
昨年末、何度目になるかわからない失恋をした私にとって、
仕事は唯一、その痛手を癒す手段であったのだ。
この休みも本来なら彼女と一緒に過ごすため、
昨年の内から申請していたものだった。
いまさら休む理由などない。
だからといってせっかくの休日を取り消す勇気もない私は、
予定のない有給休暇をしぶしぶ迎えることとなったのだ。
旅行にでることを思い立ったのは、
そんな休暇にはいって2日目のことだった。
選んだきかっけもいいかげんなものだった。
自宅のパソコンにたまたまお気に入りに設定していた旅行の予約サイトから
空いている宿を探して、適当にみつくろったものにすぎない。
ただ一刻も早く都心から離れたい、それだけだった。
東京から特急で3時間弱のところにあるその街は、
古くからある温泉地で、
海も近く、
冬だというのにドライスーツに身を固めたサーファーが、
ぷかぷかと浮かんで波を待っていた。
歴史的な建造物もわずかながら残っていて、
それなりに風情を感じさせる。
そんな江戸時代から続くと思われる萱葺き屋根の建物は、
観光用とはいえ、コンクリート中心の周囲の街波と比べると、
どことなくいびつな感じを覚えたけれども、
ファインダー越しに眺めればそれはそれで入りこめたように思う。
あの猫を見たのもそんな古い建物がならぶ通りの一角でのことだった。
to be continued
|