◆平成28(2016)年4月24日 中日新聞 朝刊
核心 虐待被害の子に安らぎを 里親委託伸び悩み 16% 自治体、根強い施設頼み
乳児や児童の虐待が全国で後を絶たず、虐待されたり、親がいない子どもが安心して身を寄せられる環境整備の重要性が増している。国際的には、集団生活を送る施設よりも、親子関係をつくって育てる「里親」制度が注目されているが、日本では地方自治体の動きが鈍く、里親が増えないのが実情だ。
□欧米は50%超
「子どもを社会で育てる風土や現場が変わらないと、幸せが届かない」。今月四日の「養子の日」、養子縁組や里親委託の推進を目的とし、全国二十の自治体と十三の民間団体が加盟する「子どもの家庭養育推進官民協議会」が発足。会長に就任した鈴木英敬・三重県知事は都内で記者会見し、こう訴えた。
里親制度をめぐっては、国連が二〇〇九年、「特に三歳未満の子どもの代替的養護は家庭を基本とした環境で提供されるべきだ」との指針を決定。日本政府も賛同し、一一年に施設での養育よりも里親への委託を優先するためのガイドラインを策定した。里親や、五〜六人の児童が養育者の家庭で一緒に暮らす「ファミリーホーム」への委託率を一九年度中に22%、二九年度末までに約三割に上げる目標を掲げた。
しかし現実は厳しい。厚生労働省によると、国内では一四年度末現在、虐待などにより、乳児院や児童養護施設、里親に養護された子どもは約三万六千人。このうち、里親やファミリーホームへの委託率は16・48%にとどまる。米国、英国、フランスなど欧米諸国では50%以上(一〇年前後)の国が多く、日本の低さが際立つ。
□専門的受け皿
全国乳児福祉協議会の森下宣明(のぶあき)副会長(和歌山乳児院院長)は「虐待や重い病気など、里親だけでは抱えきれない、社会的養護を必要とする子どもが増えている」と強調する。家庭的な環境の大事さは認めつつも、専門的な「受け皿」として施設は必要だと説く。
自治体も施設に頼る傾向が根強い。例えば、愛知県(名古屋市除く)では、養護された子どもの里親への委託率は13・4%にとどまる。県は一九年度末までに委託率を15・7%にまで上げる目標を掲げ、本年度から児童養護施設二カ所に里親委託の調整を図る相談員を配置した。名古屋市の委託率は11・98%。毎年1%ずつ上げていく計画だが、子ども福祉課の担当者は「(社会的養護が必要な子どものため)専門的な職員がいる施設の役割は残る」とも語る。
□支援の充実を
施設重視の施策に対し、国際人権非政府組織(NGO)「ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)」日本代表の土井香苗弁護士は「子どもは家庭で育つことができるという基本的人権が侵害されている」と批判。自治体側に里親支援の充実を求める。
里親経験者らが交流する「名古屋市親和会」の藤林誠会長(70)は「児相は虐待対策に忙殺され、里親支援に力を入れられない」と指摘。親和会が毎月開く体験談などを語る会への参加者は年々増えているといい、「関心は高まっているが、実際に里親になるまでに壁がある。児相が里親を支援する専門の職員を置くなど対策を充実させてほしい」と望む。
厚労省によると、全国の児童相談所が一四年度に対応した児童虐待の件数は約九万件。前年度比20%増で過去最悪となった。同省の有識者会議は三月に里親制度の充実・強化を提言し、保護された子どもは原則、里親に委託することを法律に明記するよう政府に求めた。
有識者会議の委員長を務めた松原康雄・明治学院大教授は「里親制度の充実に特効薬は無く、里親の裾野を広げるためには制度的な改正から日常の養育相談まで、手厚い支援が求められる」と指摘している。
(メモ)里親制度
親の死亡や虐待などの理由で、親と暮らせない0歳から18歳までの子どもを、里親が家庭環境の下で養育する児童福祉法上の仕組み。主に実親の元で暮らせるようになるまで育てる「養育里親」や、養子縁組を前提とした「養子縁組里親」などの種類がある。
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