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「は〜〜い、みなさキ―――――――――ン!!!」
突然に声が掻き消され、その場にバカ高い耳障りな音が響き渡る
そこに居る全員が耳を押さえるか、或いは非常に不快そうな表情を浮かべ、そしてすぐに僕の方をその全員が睨みつけてくる
「す、すみません!メガホンの音がひっくり返っちゃいました〜」
「んなことは分かってるから、もっとちゃんとやれ〜〜!」というお叱りの言葉が耳に入ってくる
うるせ〜!こっちだってちゃんとやろうとはしてんだから黙ってろ、という言葉は何とか飲み込んで、改めて手に持ったメガホンに声を当てた
「あ〜〜あ〜〜〜、みなさん聞こえますか〜〜〜」
聞こえま〜す、なんて可愛い声は返ってこない
まぁ、別に期待はしてないんだけど、もうちょっと愛想良くできないものだろうか
「え〜〜っと、これからみなさんには、そこにある『次天国行き』の列車に乗ってもらいま〜す。みなさん遅れないように付いてきてくださ〜〜い」
そうみなさんに告げて、僕は『次天国誕生者様』と書かれた小さな旗を持ちながら、そのグループの先頭に立って、そこにいる全員を誘導する
その全員が、やや不可思議そうにざわつきながらも、けれど自分達は一体どうすればいいのか分からずに、結局は僕の後を付いてきてくれた
良かった
今回の亡者さん達は幾分か楽みたいだ
たまに、全然言う事を聞いてくれない人たちってのがいるから、そんな時は本当に困ってしまうのだ
「では、歩きながら少しずつ説明させていただきますね〜」
みなさんの様子を伺いながら、僕は再びメガホンを取り、改めてこの世界についての説明に入る
「え〜っと、みなさんお気づきの事とは思いますが、みなさんは既にお亡くなりになっていま〜〜す」
その言葉だけで、みなさんは一瞬にして大きくざわつき始める
「は〜い、みなさん静かにお願いしますね〜〜〜、いくら騒いでも、もう死んでしまったことに変わりはありませ〜〜〜〜ん。なので、大人しく僕の話を聞いてくださいね〜〜〜」
けれど、そんな言葉では誰も耳を貸さないのか、あちこちから「ふざけるな〜!」「誰が信じるか〜!」「元の場所に戻しやがれてめぇ!」なんて声が上がってくる
その野次に僕は隠れてため息を吐く
やっぱり、ちょっと楽かも、なんて思った僕が甘かったらしい
もういつも通りに、今回も野次飛ばしを生業にしているような方々が、もうわんさかとお亡くなりになっているようだった
「みなさんご静粛にお願いしま〜〜す。みなさんはもう死んで生き返れませ〜〜ん。何があっても今までみなさんがいらっしゃった世界には戻れませんので、何卒ご理解くださ〜〜い」
「理解できるかこの野郎!」「責任者呼んで来い!」「私には子供がいるんです!」などなど、多方面から老若男女様々な方からの野次懇願が連鎖するかのように飛び出してきた
これだから、最近の死者はタチが悪い
もうちっとくらい現状を正しく理解して欲しいものだ
「えっと〜〜、みなさんの話を一々聞いていると、列車に乗り遅れちゃうんで、こちらの話を続けさせていただきま〜〜〜す」
それでも当然のことながら野次は出てくるのだが、僕はいつも通りに気にしないことにする
「みなさんは、これから全員まとめて次の天国に向かうことになりま〜す。地獄とかそんな非道なものはないので、ご安心くださ〜い。もちろん閻魔様なんて方もおられませ〜〜ん」
そこで、少しだけ野次が止んで、代わりに再びざわつき度の方が勝ってくる
「基本的に、みなさんは平等に次の世界に振り分けられま〜〜す。殺人等重犯罪を犯した方は別ですが、この中にはおられないはずなので、省略させていただきますね〜〜」
一応取り決めとして、重犯罪者は次の天国において多少のリスクを背負うことになる
まぁ、それは詳しく話す意味もないだろう
「ともかく、こちらにいるみなさんは、次も普通に人間に生まれることになりますので、安心してくださ〜〜〜い」
そこで、みなさんの頭上にクエスチョンマークが浮かんだように不可解な顔を浮かべる
恐らくみなさん、「次も人間に生まれる」という言葉に、敏感に反応したのだろう
「は〜〜い、その通りで〜〜す。みなさんは次の天国においても、人間に生まれますので、例えばゴキブリやアリに生まれることはありませ〜〜ん。逆に鳥とか魚にも生まれることは出来ませんのであしからず〜〜〜〜」
「なんだそりゃ?」「意味わかんない」「輪廻転生ってこと?」などなど、亡き者さん達は、色々な答えを自分達で導き出そうとしている
気持ちは分からないでもないが、そんなものは明確な答えを知っていなければ、ただの推測憶測にすぎない
「つまりですね〜、次の天国ってのは、今までみなさんが暮らしていた世界と、ほとんどにおいて変わりがないって事で〜〜す。多少大陸の形とか、国の名前や国家元首さんに違いはありますが、ほとんど同じ世界とお考え頂いていいかと存じま〜〜〜す」
これまたみなさんがざわつき始める
「何だそれ?」「俺達死んだけど、次も人間として生きられるってこと?」「やっぱ輪廻転生?」と、これまた色々とそれぞれの周囲と相談し出す故人さん達
「あ、一応付け足しておきますが、輪廻転生とはちょっとだけ違いま〜〜す。次が天国であることに変わりはありませ〜〜ん。というか、今までみなさんが暮らしていた世界も天国ということになっていま〜〜〜す」
一際ざわつきが大きくなった
「あれが天国?」「嘘だろそんなの?」「何だそれは、馬鹿馬鹿しい」「もうちょっとマシな嘘つけよ」とそんな感じだ
はぁ...、何だっていつもいつも、みなさん自分勝手なことばっかり言うんだろう
案内している僕が、マニュアル通りにそう言っているんだから、大人しくそれを信じてくれないものだろうか
「一応正確に言うと、今まで皆さんが暮らしてきた天国は、第953番天国になり、これから向かいます天国が、第954番目天国になりま〜〜す。付け加えるなら、今現在、私達の捜索において確認されている分で、約3億番までの天国があるとされていま〜〜〜す。もっとも、実数はそれ以上とも推測されていま〜〜〜す。というか、一番最初の世界が天国でないなんて保障もありませんので、実のところ誰にも正確なことは分かっていませ〜〜〜ん」
僕が最初この話を聞いた時は、もう唖然として、そんで泣きたくなったものだ
そんなにも現実世界が続いているなんて、いい加減勘弁してよと、当事のガイドさんに泣きついたものである
まぁ、そのおかげで、僕はこうして天国ガイドなんて仕事につけているのだが
「あ、ちなみに、今皆さんのお持ちの記憶等は、列車に乗っている間に消去されますので、ご理解くださ〜〜〜い。仮に記憶を消されたくないと仰られても、これだけは許可できないことになっておりま〜〜〜す」
「「ふざけんなっ!」「誰がそんな真似させるか!」「いい加減にしないと畳んじまうぞ!てめぇ」とか仰られても、どうにもできませ〜〜〜ん。今まで誰一人の例外も許されておりませんし、どうやっても次の天国に行くには列車に乗っていただかなくてはなりませ〜〜ん。仮に乗らないようにと、抜け出された場合も、天国狭間警察の方たちによって、強制連行されますのでご了承くださ〜〜〜い」
これまたざわつきが大きくなる
というか、もうすぐ飛び掛っていそうなほどに、みなさんがいきり立ってきている
いやいや、全くもって怖い人たちだ
こんなだから、実はちょっと不運な境遇に生まれてしまうことになるんだけど
「はいは〜〜〜い。いくら喚き騒いでも何も変わりませ〜〜〜ん。もし本当に抜け出した場合は、最悪その場で存在を消されるか、もう超不幸な境遇に生まれることになりま〜〜〜す。例えば、内紛地域に生まれるとか、生まれた早々に放り出されるとか、そんなことになってしまいますよ〜〜〜」
と、そこまで言ってから後悔する
何やら、みなさん本当に怒り始めたっぽい感じ
後もう一度何か言おうもんなら、ここにいる全員で襲い掛かってきそうな勢いだ
...つってももう遅いのだけど
というのも、ちゃんと順調には歩き進んでいたので、もうすでに横には『次天国行』の列車が待ち構えているのだ
今のところ抜け出した人も居ないようだし、本当に今回は問題がないらしい
うんうん、楽勝楽勝
「はい、それではみなさん列車にお乗りくださ〜〜〜い」
僕がそう言うと、真横にあった列車のドアが開き、みなさんを強制的にでも座席に着かせようと、何十人もの狭間警察官たちが飛び出てくる
その全身真っ白スーツに身を包んだ警察官達は、パッと見は天使と言えなくもないかもしれないが、でもその実、もうかなりの武闘派集団だったりする
もし仮に抵抗しようもんなら、いかなるテダレの人間であろうと集団で襲い掛かり、ちょっとばかり私刑にしたあげく、列車の中に放り込まれてしまうのだ
もうぶっちゃけ死神集団と言っても過言でないくらいに怖い人たちなのである
とまぁ、その旨の言葉もみなさんに伝えつつも、色々諦めとかないと問答無用でボコられるから、大人しくしといた方が身のためよって、感じである
たまに、「どうしても忘れたくない人の記憶がある」と言った理由で最後まで拒む人が居るのだが、それでも狭間警察の方たちには通用せず、結局は強制連行されてしまうのだ
もっとも、ここに居る人たちみたいな犯罪予備軍じゃない人
つまり、まさに天国に行くべきような善人さん達には、多少の便宜が図られている
例えば、次の天国でも、その大事な人と出逢える様に、とか、家族として生まれることになる、とかそんな感じだ
そこ行くと、こちらのみなさんは、多少なりと悪い事をしてきた訳なので、あんまり優しい対応はされないのである
残念無念、後悔先に立たずってことなのだ
というわけで、亡者さん達は何だかんだと不平不満を洩らしながらも、どうにかそれを了承し、次々と列車に乗り込んでいく
そうして、その場に居た全員が、多少時間が掛かりながらも、『次天国行き』の列車に乗り込んだ
「ではでは、みなさんどうやら大人しく列車に乗りましたね〜。早速ですが後ろが支えておりますので、さっさと次の天国へ向かっちゃってくださ〜〜い」
そう言うと、列車のドアが一斉に閉まり、そして、ゆっくりと前進し始めた
そして、あっという間にその速度を上げて、列車は順調に線路の上をひた走って行く
この先がどうなっているかは、僕も詳しくは知らない
何故か列車は元の位置に戻っているのだけど、誰もよく知らないらしいのだ
それはともかく僕は、その列車が走り去っていくのを見送りながら、いつも思う
無限天国は、無限地獄と何ら変わらないだろう、と
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