また遠くで、雷が鳴った
反射的に空を見るも、当然のように雷の光はすでに過ぎ去っている
僕は、一瞬光ったかもしれない空を眺めながら、一人草むらの上に仰向けに寝転がっていた
夕方の少しだけ蒸しっとした風が、草を薙いでざわざわと音を立てる
枕にした腕をくすぐってくる細い緑の感触に意識を取られながら、その場でじっと意味も無くグラデーションの空に見入っていた
ここは、昔僕らの秘密基地があったのと同じ場所
今は跡形も残ってはいないけれど、大体3年くらい前までは、トタンやベニヤで出来たボロ小屋があったのだ
そこで僕らは、毎日のように遊ぶ算段をしていた
持ち寄った玩具で遊んだり、しょうもない悪戯を考えたり、塾を3人一緒にさぼったりしながら、僕らは毎日を遊び倒していた
ここは、僕ら3人にとっての、大切な思い出の在り処だった
「...でもそれも、あと少しで無くなるのか」
地面に手を付いて起き上がり、改めて周囲を見回してみる
そこには、ただ広いだけの何も無い空き地
草が生い茂り、緑と薄茶色が入り混じっているだけのつまらない場所だった
まぁ、見えるとすれば、草原の入り口にあるオレンジと黒の立入禁止の柵くらいか
「建築予定地、か...」
来年の頭にはこの場所には新しいスーパーができる
どうも今ある小さなスーパーを大きく立て替えるという話で、本屋やゲームセンターも入るとの噂もあるらしかった
今この近くにはそういった総合店舗はなく、買い物とか遊びに行くとなるとわざわざバスを使う必要があっののだが、それが一気に改善されるというわけだ
これは、実際に住んでいる人間からすれば何よりも助かる計画だろう
「でも、やっぱちょっと寂しいかな」
ここは、僕ら3人や他のみんなにとってもすごくいい遊び場だった
公園以上の広さがあるこの空き地は、野球やサッカーをするには打ってつけの場所で、何をするにもここに集まるのが日常になっていたように思う
そんな拠点のような場所だったから、僕らはここに秘密基地を作って、毎日を楽しんでいたのだ
「...ま、今は僕一人だから、いいんだけどね」
タカシとカズヤとは小3からの友達同士だった
僕らは、ほぼ同じ時期に学校に引っ越してきた者同士で、それから3年間をずっと一緒に過ごしてきた
たまにケンカをすることはもちろんあったけど、今考えても僕達は立派な仲良し3人組だったように思う
もしも仮に同じ中学に通っていたら、多分今でもずっと仲が良かったのだろう
今はもう、2人とも引っ越してしまって、そう簡単には逢う事はできないのだが...
――また10年後だな!
――ああ!10年だ!
――10年だね!
不意に、あの時の言葉が思い起こされる
それは、3年前の出来事
たった3年前にしたばかりの、同じ場所での約束だった
思わず、溜息交じりに苦笑してしまう
だってまだ、決めていた10年には程遠い
僕らはまだちっとも大人になってはいないし、それどころか高校をどこにするのかさえ決めていない
何をするにも中途半端で、いつだって何かに迷っている
それなのに僕はもうこの場所に立っていて、しかもたった一人で掘り返そうというのだ
正直、何てバカらしい話なのだろう
まったくあの頃の僕らも、ここが永遠じゃないことくらい予想しておけと言うのだ
「はぁ...ともかくそろそろ始めますか」
僕は近くに置いていたシャベルを手に取る
今日は、ここにある物を掘り返しに来ていた
きっと後少ししたら建築工事が始まって、ここには立ち入ることすら出来なくなる
だからその前に、それを別の場所に移し変えようと思ったのだ
「タイムカプセル...か...」
ザクザクと穴を掘り進めながら昔を振り返る
あれはただの思い付きだった
確かテレビか何かで見たのを二人に提案してみたのだ
――今持っている大切なものを入れておこう
――10年後の自分達に手紙を送ろう
――10年後の自分達が何になっているのか予想しよう
なんて、そんなことを何の迷いもなく考えていた
ただ単純に楽しそうだと思って、この場所にタイムカプセルを埋めたのだ
そして、あれから3年
たったそれだけの時間で、僕らと僕らを囲む状況は変わっていた
中学に上がると同時に二人は引越して僕は一人になり、中学で出会った新しい友人との毎日をバカみたく過ごしている
最近は好きな人も出来、いわゆる青春らしいこともし始めて、今は高校受験に向けての勉強に励んでいた
同時に、未だ先が見えず、今後の自分がどうなるのかも分からないまま、ただとにかく何でもいいから前に進もうとしている...そんな状態でもあった
カツっ
「あ...」
そこで、シャベルの先に金属の感触が走った
...間違いない
僕はさらに掘り進めて、いつか見た丸いクッキーの缶が出てくるのを待つ
途中からはシャベルを使わずに直接手で土をより分けてあのタイムカプセルが見えてくるのを期待していた
そして...
「あった...」
出てきたのは記憶の中にあるクッキー缶そのもの
間違いなく、僕ら3人が10年後の僕らへと宛てた、少し錆びのあるタイムカプセルだった
一応確認のためにと表面の土を払ってみる
するとそこには、ちゃんと黒のペンでタイムボックスという文字と僕ら3人の名前が書かれていた
すでに随分と掠れていたが、読む分には十分な色がちゃんと残っていた
「...懐かしい」
あれからまだ3年とはいえ、やはり懐かしさがこみ上げてくる
一緒にこれを埋めた時の思い出も蘇り、僕が中に何を入れたのかも思い出すことが出来ていた
手に持った重みや音からして、どうやら中身はちゃんと入っているのが分かる
きっとこの中には、あの頃のままの手紙やらプラモデルやらが入っているのだろう
僕は箱を空けようと、缶の淵に手をかけてみる
そして、力をこめてそっと中を...
「............」
だが僕は、そこで力を入れるのを止めていた
ここでこれを空けてしまうことにとても大きな躊躇があった
だってそれじゃ僕は...
「......やめよう」
そう言って、僕は缶の淵から手を離す
だって、まだ全然早いと思ってしまったのだ
まだ全然早くて、つまらないと思ってしまったのだ
何しろ僕は、この中に入っているものを覚えている
手紙の内容だって記憶したままだし、それなのに中を見てしまったらきっと何の意味もない
そもそも、僕らの約束ともまるで違う話になってしまうだろう
だったら、ここで僕一人がこれを見るのは反則だ
それにそんなことをしたら、いつか訪れる7年後の楽しみが減ってしまうじゃないか
7年後、僕一人だけが微妙な感じになるのはやっぱり頂けない
「3人で、10年後に...」
俺は呟いて、自分に言い聞かせる
見たい気持ちはもちろんあるが、ここはぐっと堪えるのが筋ってもんだろう
僕はみんなで、このタイムカプセルを開けたいのだ
例えこの先、僕らが誰もこの場所に戻ってこなかったとしても、この答えに間違いはないはずだった
「んじゃ、小学校に行きますか」
小学校なら埋めた場所が無くなる心配は少ない
一応話は通してあるから、今から行っても問題はないだろう
そんなことを改めて思い返しながら、僕は空き地を後にする
歩く度に、手に持った缶々が音を立てカラカラと辺りに響いていた
同時に、遠くでまた雷がなったのに気付く
振り返ると、草むらの遥か上の方に、さっきは見れなかった白い光が走っていた
続け様に轟く雷は、さっきよりも音が近い気がした
「遠雷か...」
その、今はまだ遠い光を見て思う
今年もまた、秋になるのだ