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自転車1月、5月のバイク

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ペダルをこぐ

息を切らせながら精一杯にこぐ

夏のうだるような暑さに汗が流れ

照りつける強い日差しに、目がくらみそうになる

それでも懸命にペダルをこぎ続ける

これは、前から決めていたこと

街を見下ろせる展望台

その展望台に続く、長い、長い坂道

ここを、一度も足をつけることなく登り切る

それが、この夏

僕が立てた目標の一つだった

何度か挑戦したことはあったけれど、未だ達成されていない目標

我ながら些細な目標だと思わなくもないのだが

けれど、そんな些事すら達成できないことは、どうしようもなく屈辱だった

運動ができないわけではない

高校でも、そこそこできる方の部類だと思う

足の速さについては、特に自信がある

なのに、こんな程度の坂道を登りきれないことが許せなかった

「でもっ、今日、こそ、はっ!!」

そう

今日こそは、登ってみせる

なぜならテンションが違う

装備が違う

新品のクロスバイク

前のがお釈迦になってしまい、それでもようやく手に入れた新装備

一学期の中間、期末

それと、塾での試験結果が良ければ考える、という約束の下で達成された努力の結果

6ヶ月分の小遣い前借は、まぁ確かに痛かったけれど

でも、そんなものがあって、この坂を登れないわけがない

いや

登り切れなくて何が男なものか

「くっ!ふっ!はぁっ!」

とはいえ敵もなかなかに然るもの

ゆっくりと、ゆっくりとしか進めない

真っ直ぐに登っていた車体も、今は斜め斜めの蛇行運転

徐々に重くなっていくペダルは、さらなる誘惑を仕掛けてくる

だけどこれは決めたこと

今日は登ると決めたこと

だったら、自分との約束くらい

守り通せず他の何ができるのかっ!







そして

ようやく

「たっっ............

僕は

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ...」

仇敵ですらあった目標を静かに

ただ静かに、達成していた






自転車から降りることなく下を向き、そして息を吐く

盛大に盛大に息を吐き、矢継ぎ早に空気を吸い込んだ

気だるさに包まれた体は、ハンドルに体重をかけさせ、少しでも楽になれと懇願してきている

「ははっ...」

だけど、僕の心には、そんな気だるさなんてどうでもよくなる位の喜びに満たされていた

「やった...」

ついに登りきった

今まで、何度も何度も挑戦してきてダメだったことを、ついにやり遂げた

顔がにやける

口のはしっこが持ち上がって仕方ない

息を切らしつつも、込みあがってくるこの感情は、自分ではどうしようもないものだった

「ふぅぅ...」

上がっていた息が落ち着いてくる

心臓の音は、まだいつもより少し早いが、気にするなと答えてくれている

酸素も、そこまでいらないと肺は教えてくれた

そこでようやく、前のめりになっていた体を起こし、自転車に乗ったままの体制で、目の前の風景を眺める

「...はぁぁ」

清々しい光景だった

夏の日差しと入道雲

どこか遠いセミの声が、まだまだ続くこの季節を祝福している

遠目には、海がその顔を覗かせ、キラキラと白く海面を輝かせていた

「いい景色だなぁ...」

別にこれが初めてという訳ではないが、やはり今日は格別

見るもの全てが、祝福されているなんて錯覚すら引き起こされている

なんて、まぁそれは言い過ぎとして

「ん?」

そこで、そんな世界の中にに、妙に低い音が紛れ込んでいることに気づく

低く、振動した......うん、そうだ、これは...

エンジン音

多分だが、これはバイクの音だろうと思う

「どこだ?」

音からして、結構近い

というか、近づいてきている?

でも、この近辺には民家なんてない

また展望台と銘打っていても、ここは別に特質した何かがあるわけでもない

あるのは、一台のベンチと自販機が一台くらい

そんな場所が、人気スポットになどなろうはずもない

だがそれなのに、どうやらそのバイク?はここを目指しているらしかった

「ふむ」

妙に気になったので、自転車から降りて確かめることにした

展望台の欄干から、身を乗り出して確認する

すると、一瞬キラッと光る何かが見えた

それは、一度ではなく、何度も何度も太陽の光を反射しながら、こちらに近づいてきている

「やっぱり、バイク、みたいだな」

どうやら赤い車体のように見えるそれは、僕が必死こいて登ってきた坂道を、楽々と登ってきている

さすがは性能の差

自転車とは比べ物にならないくらいの走りである

まぁ、カッコいい、と思わなくもない

だが同時に、正直むかつく光景でもあった

「相手はバイクだって、分かってるけど、さ」

でも生憎、自分より優れているものを、あっさり認められるほど僕は大人じゃない

僕は基本、負けず嫌いなのだ

「ったく、どんな奴だ?あんなゴっツい、しかもあんな真っ赤で派手なバイクに乗ってる野郎は」

しかし、予想は付く

きっとバイクの通り、ゴっツいおっさんが、田舎のヤンキーみたいな奴なのだろう

「よし」

どうせだから、そいつの顔を拝んでやろうと思った

こんなことを呟いている内に、そいつはやってくるに違いない

もしかしたら、暴走族のような奴って可能性もあったが、その時はその時

無視を決め込んで、さっさとおサラバすればいい

「っと、来やがったな」

バイクの轟音が、すぐそこまで近づいてきている

そして案の定、赤いバイクは俺のいる展望台まで登ってきていた

「ん?」

だが、その第一印象に、僕は思わずギョッとしていた

いや正しくは、唖然、としていた

ぶっちゃけ、目を見張らずにはいられなかった

なぜなら

(長い、髪...)

そう

そのバイクに乗った奴は、やけに長い髪を、風になびかせていたからだ

いや、それだけじゃない

ゴっツいと予想していたわりには、随分と細い

いや、ライダースーツを着込んでいるとはいえ、もはや華奢とすら言えるスタイル

どうやら僕より少しだけ背は高いようだが、それはどう見ても

「おや?先客がいたんだ」

そう言って、ヘルメットをとる...その人

そして、左右に首を振って、その長い髪をさらさらと大きく揺らしていた

さらさらと

さらさらと

「...ぁ」

その瞬間を、思わず...見入っていた

その綺麗さに、というよりは、目の前にいる

その『女の人』の

とても格好のいい、一挙一動に

「や、こんにちは」

「............」

「ん?挨拶は...なしかな?ふむ、そう怪しいつもりはないんだが...」

自分の格好を確認するように見回すその女の人

ご丁寧なことに、足の裏まで確認している

恐らくは3、4歳は年上だろう人のはずだが、何というか、随分とお茶目というか、妙にフランクな人だ

「あっ!いえ!すみません!ええと、こんにちは、です...」

「ん?ああ、こんにちは。今日も暑いね」

僕の返事に満足したのか、その口元を微笑ませ、彼女はバイクを降りようとする

その長い足で、さもコンパスで円を描くようにして、その両足を地面につけた

そしてそのまま、何気ないように、自然に展望台の端に歩いていく

「ぁ...」

そんな何でもない姿さえ、僕には洗練されたものに見えていた

何て、妙な感じなんだろう

バイクの彼女は「ふぅ」っと息を吐きながら一瞬だけ景色に見入って、その欄干に両手を添える

そこには、真っ直ぐな眼差し

どうやら、その大きな瞳は、遥か先にある海を見つめているようだった

「ぁ」

その時、海の方から風が吹いた

その緩やかな向かい風が、彼女の髪をなびかせて、僕の側を通り抜ける

わずかに、甘い柑橘系の香りが鼻先を掠めた

周囲を囲む緑の山々と、青く広がる空の間の...紅一点

赤いライダースーツと黒めのジーンズが、自然の中に映えて、僕にものすごい違和感を覚えさせる

何なんだろう、この人は

「んん〜...キミ?そんなに見つめられると、さすがに私も照れくさいんだけどな」

「え、あっ!」

って、ホントだ!

つい何となく、見入ってしまってた!

しかも結構な時間っ!

何をとちくるっているんだ僕はっ!

「いや、私もそこそこの顔立ちと、一応は思ってはいるが、でも、そこまで見つめられたのは初めての経験だよ」

「いやいやいやいやっ!別にそんなんじゃなく!」

慌てて否定する僕

どうにも格好が付かない

「おや、そいつはすまない。少しばかり自意識過剰だったか」

「え?あ、いや...あれ?」

別に容姿の事をどうこう言うつもりではなく、ただ見つめていたことを否定したかったのだが、いやまぁ、見ていたのは事実なのだけど、ん?どっちにしてもあんまり意味合いが変わらないか?

うう、なんだろう

妙に居心地が悪い

そもそも、僕は何をそんなに緊張してるんだ

「あの、それよりも、どうしてこんなとこにいらしたんですか?」

って、いきなり僕は何を聞いているんだ?

相手は初対面の女の人だぞ!?

しかも文脈からすれば、かなり失礼な事言ってないか?

「ふむ、それよりも、というのはいささか不満が残るが...ん?ああ、気にしないでいい。別に大したことじゃないよ」

「う...」

フォローまでいられるなんて、なんて無様か

「ともかく質問に答えるなら、ただの気晴らしだな。ここの景色は好きでね。よく走りのついでに寄ることにしているんだ」

「へ、へぇ、そうなんですか...でもまぁ確かに、ここの眺めは綺麗ですもんね」

「...ああ、私のお気に入りだよ」

そう言って、二人して、その景観を見つめる

青と白と緑と光の風景

うん、やっぱり俯瞰からの風景は壮観だ

見ていると、心も落ち着いてくるし

普段は煩わしい夏の暑さも日差しもうるさいセミの声も、今は一風景を彩る大事な要素になっているくらいだ

うん、気持ちいい

(けど...)

そう

今はその中に、景色以上に目が行ってしまうものがある

「あの、聞いてもいいですか?」

「ん?ああ、どうかしたの?」

「えっと...そのバイクなんですけど、ちょっとだけ、近くで見てみてもいいですか?」

バイクを指差しながら尋ねる

見ると、その赤い車体は、照りつける太陽の光を赤く跳ね返していた

「ん〜、まぁそれは構わないけど、何?バイク、興味あるの?」

「まぁ、人並みには...ほら、やっぱりカッコいいじゃないですか。バイクって」

なんだかんだ言って憧れはある

自転車も好きだけど、素直に言えば、いずれはバイクを買うのも有りだと思っているし

「そうか、そうだな。キミくらいの歳だと、そういうものなんだろう...ああ、見るのは全然構わないよ。ただ、まだエンジンが熱いから触るなら注意したほうがいいかな」

「あ...ありがとうございますっ」

思わず最敬礼なんてしてから、すぐさまバイクの側に寄る

そして、その赤いフォルムや、むき出しのエンジン部分やらをしげしげと眺めた

多分1000CCは超えてる大型バイク

といっても、所謂バカでっかいタイプのハーレーなんかとは違う、スマートなライン

後ろのハードケースが、邪魔っちゃ邪魔だがそれはそれ

「やっぱ、カッコいいな〜...」

つい、口端から漏れ出る独り言

我ながら悪い癖だと思う

「だろう?」

「え?」

急に話しかけられ、ついたじろいでしまう

側には、バイクの持ち主である彼女が立っていた

僕のすぐ側に

「イタリアからの輸入物でね。あちこち整備しながら、もう随分長い事乗っているんだ」

ハンドルに柔らかく触れながら話す彼女

本当に愛おしそうに、大事そうに

「女の私には、少しばかり扱いにくいが、どうも他のって訳にはいかなくてね」

「へぇ、愛着って奴ですか?」

「ん?ああ、まぁそうだな。そうかもしれない」

「?」

何だろう

妙に歯切れが悪い

「それよりキミのクロスバイク。あれも結構いいものみたいだけど?それにまだ新品みたいだし」

「あ、はい。まだ買ったばっかです。前のをちょっとお釈迦にしちゃって」

「お釈迦?...事故、か何か?」

「あ、いえいえ。どっちかというと寿命、ですかね。あんま手入れしないで乗り続けてたんで」

ホント、ちゃんと整備はしとかないとね

ましてこんな海の近くの街なんだし

「なるほど。まぁ、バイクであれ自転車であれ、ちゃんと整備はした方がいい。やはり乗り物全般の基本なんだろう」

「ええ、それ痛感しました。今度はちゃんとするつもりです」

「うん、懸命だな」

そう言って彼女は、何か物思いにふけるように自分のバイクを撫でる

何かを思い出すように、何かに笑うように

「ふむ、そうだな」

そして、何かいいことでも思いついたように、彼女は僕にこう言った

「もし良かったら、なんだけど、乗ってみる?」

「...はい?」

突然何を仰ってますかこの人は?

「いや、これでもバイク乗りなんでね。少しでも興味のある若者に、バイクの良さを伝えておきたいんだよ」

「は、はぁ...」

分かるような分からないような理屈だ

「ほら、バイクってどちらかと言うとマイナーな乗り物でしょう?ファンの数は、常に車を下回っている。だから、私としては、バイク信奉者を少しでも増やしたいと、そういう腹なのさ」

「は、はぁぁ...」

やっぱり分かるような分からないような理屈だ

バイク乗りって、こういうもんなのか?

「どうだろう?当然運転はさせて上げられないから、後席ということになるんだけど」

そらそうだろう

「えっと...でもヘルメットは?二つもあるんですか?」

「もちろん。そうじゃなきゃ誘わないさ」

そう言って、後ろのハードケースから何かを取り出す

その手には、青いオープンフェイスのヘルメット

「って、わざわざメットを二つも持ってるんですか?」

「ん?ああ、まぁね。用心のためさ」

「は、はぁ...」

ヘルメットを二つも使う用心って、どんな用心だ?

しかも、本人のはフルフェイスなのに、そっちはオープンだし

「で?どう?乗る?乗らない?」

「え、えっと...」

そんな唐突に言われても

というか、その、後の席ってことは...

やっぱ、どうしたって意識しちゃうし

「あ、あの...」

「ん?」

「僕は、ほら、いやあの...」

「んん〜?」

「それは、やっぱり、僕は...」

「って、いい加減じれったいな。乗るの乗らないの?制限時間、後5秒っ」

「え!?あ、の、乗りますっ!」

って、いやいやいやいや

なんで了解しちゃってるのさ僕はっ!

「よしっ...ほらっ」

彼女は満足げに頷き、すぐにヘルメットを投げてよこす

「わっ、お、おっとっ!」

それを戸惑いつつも、体で受け止めた

「ナイスキャッチ...っと、そういえば自己紹介がまだだったな。私はアカネ。皐月原朱音。キミは?」

「あ、はい。僕はムツキです。藤堂睦月」

「ムツキ君か、いや、睦月に皐月でなかなか面白いじゃないか。さながらどっかのお笑いコンビのようだし、ふふふふっ」

「あ、ああ...そうで、すね」

いきなりお笑いコンビ扱いされても対応に困る

しかし、なにかしらツッコミでも返しといた方がよかっただろうか

「まぁ、それはともかく、早速行くとしよう。何、帰りはちゃんとここまで送るから、クロスバイクは施錠をちゃんとして置けばいい。ああ、鍵はちゃんと欄干に繋いどいたほうがいいぞ?まぁ本気で取られるとなれば実際意味はないが、鍵をぶち壊すなんて真似は、一般的な人間にはそうできないからね」

「は、はい...」

なんだ?

妙に心配性、というか、いやどちらかというと、おせっかいな人、か

とはいえ、間違ってはいないような気もするので、言われたとおりに欄干に自転車を繋ぐ

そして、少し躊躇するも意を決して、というか諦めて、手に持ったヘルメットを頭に被った

見れば、アカネさんも、もうすでに自分のヘルメットを被って、バイクにまたがっている

「よし、じゃあ、後ろ乗って?あ、ほら、ちゃんとしっかり抱きかかえるように」

「あ、う、は、はいっ」

これまた言われたとおりに、アカネさんのお腹辺りで腕を組む

しかし、このライダースーツ越しでも分かる、人肌の感触は...

いや、分かってはいるけど、どうしたって抵抗あるだろ?普通さ

「よしよし、じゃあ行くぞ?後ろはちょっと遠心力やらGやらが強いから、気をつけてね」

「は、はいっ!」

って、今更言いますか!?

「って、あ」

と、そこで何となく気になったことができたので、聞いてみる

「あ、あの、まさかアカネさん、スピード狂、とかじゃないですよね?」

もしそうなら、さすがにシャレにならない

スピード狂の後席なんて死んでもゴメンだ

「ん?まさか、今は後ろに人乗せてるし、まして下り坂だからね。そうそう無理はできないよ」

「そ、そうですよね?」

そりゃそうか

どっかの漫画にありそうな、ぶっ飛び急フルスロットルなんて、早々あるわけないよね

でも良かった

それなら安心だ

「ああ、だがキミは、バイクは初めてだろう?だったら、そうでなくとも少し怖いかもしれないかな」

「え?あぁ、そうかもしれないですね」

「そうだな。例えるなら自転車で下り坂を走った時、自分が怖いと思うくらいのスピードになると思う」

「え?いや、それって、結構スピードでってうおおっ!!」

危ないって!

急発進は危ないですって!

下手すれば舌噛んじゃいますって!

しかも、気のせいか...妙に、速く...ありませんか?

「あ、あのっ!少し、速くありませんっ?」

「ああ、そうだな。少し速いね」

って素で返された!?

「って、いやいや、たった今アカネさんそんなスピードは出さないって!」

「いやね、少し興が乗った。だから久しぶりにスピードを上げてみようと思って」

「え、ええっ!?」

今何つったこの人!?

「安心しなよ。そんな凄い無茶はしないからさ。よしっ!いっくよぉぉっ!!」

「いやだからってうをああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!?」

ヤバイヤバイヤバイよ!

怖いって!嘘だろ!?マジかよ!?

って、この先、結構な下り坂だぞ!?

そこにこんなスピードで突っ込んだらってヤバいからブレーキをって減速緩いっ!!

うわもう絶対スピード出し過ぎだって!!

しかも進入角度キツいって!!

「ぐをぉわああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」

そうして、僕は風になった

いやもう、ホント過剰表現なく

勘弁してよ、もう...

「はぁぁぁぁっ...」

盛大なため息を吐く

吐きたくて吐いているんではなく、もう普通に出てしまっている

「し、死ぬかと、思った...」

ホント死ぬって思った

マジ成仏するって思った

マジであの世いっちゃう5秒前だった

仕舞いにゃ生きてるって素晴らしいなんて思っちゃってた

「はぁぁぁぁぁぁぁっ...」

「あははははははっ!!」

「............」

この人はこの人で大笑いだし

「あはははっ、くくくくっ、いやごめんごめん。ついキミのうろたえたところが見たくなっちゃってさ、くくくくっ...」

「な、なんつ〜自分本位ですか...」

てか思い切りワザとじゃん

滅茶苦茶タチ悪いよこの人

「いや、だからゴメンって、ほら、これお詫びのしるし、ほいっ」

「っとと...ども」

またも放り投げてよこすアカネさん

手の中には、つめた〜いの缶コーヒーが収まっている

「でもいや、ムツキ君には笑わせてもらった。あれは、なかなかいいリアクションだったよ。特に急カーブ直前からの反応は一級品だった、くくくくっ」

「...余計なお世話ですっ...ったくあなたって人は」

「いや、だからさっきから何度も謝ってるだろう?笑って許してよ、これくらいさ」

「...そりゃ、そうですけど、でも、アカネさんさっきから笑いっぱなしで、誠意ってものが感じられませんよ」

言ってみて何だが、誠意が感じられないってのは、我ながら、なんてステレオタイプな聞き方だろうと思う

「そいつは仕方ないな。込み上げるものは込み上げてしまうんだ。くくくくっ...」

「っ、あなたは...」

まだ笑い足りませんか

まだ、人をコケにしたいですか

そりゃまぁ、自分でも了見が狭いと思うけど

だけど、あれは怖すぎだし、で、今のあなたは笑いすぎだ

「だってほら、ああいう場面ってある意味お約束じゃない?キミもそんなこと聞いてきたから、思わず、私もっ、なんて思っちゃってね」

「そんな余計な気を回さないで下さいよっ」

フィーリングだけで、人の命を弄ばんでください

「ああ、悪い悪い。ふ〜〜...でも思いのほか楽しかったよ。ありがとうね」

「んなこと言われても僕は全然楽しく、なんて...」

つい、言葉が出てこなくなる

正直者はバカを見るとはこのことだ

「ん?なんて?言葉が途中な気がするんだが?どうした少年、お姉さんに言って見なさい?」

この人もこの人で、そういうとこだけ無駄に発達してるし

「くっ...ええ、そうですよっ、楽しいですよ楽しかったですよっ!いけませんかっ!?」

もういっそこのままキレてやろうかとすら思う

だがアカネさんは、そんな僕のことなんて気にせず、ただ普通に微笑んだ

「...そうかそうか。そいつは良かった」

そんな風に満足そうに微笑みながら、アカネさんは、すぐ横にある海を見る

「ったく」

不平を口にしつつ、僕もそれに習って顔を向けた

ここは、海岸沿いの砂浜近く

堤防で仕切られた、アスファルトの道路脇

そして目の前には、泳ぎたいとはお世辞にも思えない感じの、少しよどんだ灰色の海

「なんだかな...展望台からはあんなに綺麗だったのに、近くからだとこんなだなんて、ちょっとガッカリだ」

「...そう、ですね」

展望台からはまるで宝石くらいには見えた海

でも、ここにあるのは、ただの汚れた海

そのギャップはどう見たって大き過ぎる

もっとちゃんとしたビーチや、それこそ展望台でもあれば、また違うのかもしれないが

「だがまぁ、世の中そういうものか。それに、今日の目的は達成されたんだから、良しとしよう」

「目的って、僕がバイク乗りを目指すかどうかってやつですか?」

「ん?いや、さすがにそこまでは望んでいないよ。バイクが色々とお金がかかるし、そう簡単にはいかない。それに、もし本当に乗りたいなら、やっぱり運転技術とか事故の怖さとかも、ちゃんと知っていて欲しいしね」

「...あれだけの運転をしといて、よくそんなこと言えますね」

というか、あんな運転されたら、二度と乗るもんかって思うんじゃないか?普通

「ん?あっはっはっは、ああ、全くだ違いない。一体私は何をやっているんだかな。確かに最初があれじゃ嫌になってしまって当然じゃないか。ははははっ」

豪快に笑う彼女

「............」

でも、一方の僕はその笑い声に、つい黙ってしまう

だって、そんな事言われたら

実はそうでもなかった、なんて、言いたくなくなるじゃないか

自分でちゃんと、バイクに乗りたい、なんて思っていることなんて、言いたくないじゃないか

僕は負けず嫌いなんだ

だから、どうしても、ここで認めてしまうのは、どうしようもなく負けた気がして嫌だ

我ながら、何とも難儀なことだとは思うが...

(...でもまぁ)

あの、まるで風にでもなった感じ

全身の何かをふっとばす爽快感

開放感のある景色の移り変わり

車とは違う、直接触れることの出来る、自分だけの空間

そんなものを、もっとたくさん感じたいと思っている自分がいるのは確かだった

バイクに対する憧れが、僕の中に渦巻いているのは、どうしようもなく確かだった

ただ

「あの...また一つ、聞いていいですか?」

「ん?ああ、構わないよ」

その前に、どうしても聞いておきたい事が、できてしまっている

気になって仕方のないことが、できてしまっている

「その...キサラギさん、って誰なんですか?」

「え...」

全くの虚を突かれた

アカネさんは、そんな顔をしていた

今日初めての、アカネさんの驚きの表情だった

「あ、いや、ヘルメットにそう書いてあって、多分これ、名前かなって...」

バイクにかかっているそのヘルメットを見ながら言葉を繋ぐ

彼女の赤いヘルメットと、僕が被っていた、青い柄入りのヘルメット

「如月...二月、ですね」

「あ、ああ...そうだな」

「まるでお笑いコンビ、みたいな感じ、とか?」

「ああ...そうなる、かな...」

「で、やっぱり...恋人、とか?」

「ん?ああ、まぁ...そうなる、のかな」

「............」

やっぱり、か

「まぁ、どちらかというと、恋人でもあった、みたいな感じが正しいかな。デートらしいことなんて一つもしてないし、あいつとはいつもツーリングだったし」

「......そう、ですか」

半ば、予想通り

ヘルメットの印象も、如月の文字の形も

とても、女の人のものではなかった

それ以前に、アカネさんには似合っていない

とっても全然、似合ってない...と思う

(あれ?...でも今...)

そんな風に思っていたのが伝わってしまったのか、アカネさんは、まるで自分を自嘲しているかのように笑い、そして答えた

「お察しの通り、になるのかな?...その如月っていう、私の恋人だった奴は、もう死んだよ」

「ぁ...」

「つまらない事故だった。何の変哲もない右直だった。普段のあいつなら全然楽勝のはず...だった、のにな...」

目を瞑るアカネさん

心なしか、唇を噛んでいるように見える

今にも、涙がこぼれてきそうに、見える

肩が、震えているわけではないが、とても、悲しそうに、見えた

本当なら、ここで話しを終わりにした方がいいんだと思う

これはプライベートだ、だったら聞くなんてこと、普通は出来ない

だから、この話はさっさと切り上げて、とっとと、あの展望台に戻った方がいいんだと思う

だけど

「なら、どうして...」

僕は、続きを聞いていた

アカネさんのその、儚げとすら見えてしまう、その表情を見て

僕は、聞かずにいられなか...いや、違うか

聞きたかったんだ

この人の口から、ちゃんと聞きたかっただけだ

「まったくキミって子は...仮にも女性に、そんなプライベートな話をさせようと言うのか?」

「...すみません」

悪びれたりしない

とにかく、素直に謝った

「...確信犯、か...はぁぁぁ、まぁいい。話してあげよう。さっきのこともあるし、これでチャラだ」

そう言って、やや諦め顔で僕を見て

そして、一息二息の間にアカネさんは話し出した

「...事故の前日にさ。あいつは、私とのツーリングで無理をしてしまってね。そうでなくともバイトバイトで疲れていたのに。それなのに私が強引にあいつを連れ出してしまった」

「.............」

独白

僕は、酷い事をさせているだろうか

「きっと後悔、しているんだろうな私は...直接でなくとも、私のせいで、私が無理をさせてしまったから、その事故は起こってしまった」

きっと、そうなのだろう

普通から見れば、随分とズルい

「分からない。本当のことなんて分からない。けど、全部でないにしろ、私は関わってしまっている。もしも、なんてことを想像するのは無意味だが、どうしても考えてしまう。私の望む答えなんて、決して出るわけもないのにな...」

ズルくてズルくて、でも聞きたくて

彼女の弱いところを知りたくて

「整備不良、事故の相手側のミス、例えば霧が出ていたとか、或いは何かに目をとられたか...。まぁ、どれも信憑性に欠けてるんだけどね」

「......すみません」

「ん?いやいや、これはキミが気にする事じゃない。全部が全部私の勝手な被害妄想だ。キミは何も悪くない」

「でもほら、結構無理言って、話してもらったわけだし...」

聞くことすら、何の意味なんてなくて

僕がただ、この人の痛みを知りたいだけで

知りたい、だけで

「ふふっ、ああ、それは確かにその通りだ。別に乙女ぶるつもりはないが、少なくとも女性に強いる話じゃあないな。反省したまえよ少年」

「............」

この人は、底抜けに

明るく見せようとして、そう言った

僕も、それに、同意した

「さて、そろそろ戻ることにしよう。この海で夕暮れを見ても、そう大して面白くもあるまい」

「...そうですね、僕も自転車が心配ですし、あ、帰りは普通の運転でしますよ?」

「ああ、任せておけ。基本私は安全運転がモットーなんだ」

「...うそくさ」

「...ほう。いい度胸じゃないか。そんなに言うなら、今度は全速で上り坂に挑んでやろうか?」

「うえっ!?いやいやっ!嘘です嘘です!嘘ついちゃいました!」

「ふふ〜ん、さて、どうしてやろうか。ふっふっふ...」

「うわぁ...マジ勘弁してくださいよ〜」

「はははっ、キミは本当にイジメ甲斐のある子だな〜」






なんて、そんな感じで、僕とバイク乗りのお姉さんとの一日が終わった

その後も、別に何があるわけでもない

別にロマンスに発展するわけも、到底ない

言ってみれば、ただの夏の1ページ

カッコいいお姉さんと、一緒にバイクに乗ったなんて、ホント出来過ぎな1ページ

でも、そうだな

ただ、一つ付け加えておくのなら

帰りの運転中

ちゃんとした安全運転の中で、彼女の少し聞きづらい独り言のような言葉があった

聞き逃しそうだったけど、実は全部聞こえてしまっていた言葉があった






なんで、私は、こいつを誘ったんだろう

あれ以降、一度もそんなことはなかったのに

ずっと一緒に走ってきた、形見のバイクに一緒に乗って

ずっと一緒に世界を見てきた、形見のヘルメット被らせて

...まったく

今日の私、どっかがおかしい

それもこれも全部が全部

こいつが、あんな場所にいたからだ

私たちの想い出の場所で、あいつみたいな間抜け面してやがったからだ

まったく、キミって奴は...






なんて

個人的には複雑だけど

まぁ、決して不快でもない

だって、それはチャンスってことだ

僕にもまだ、漬け込み余地が残ってるってことだ

亡くなった彼には申し訳ないけれど、生憎と僕は負けず嫌い

せっかく見つかった新しい望みを、そう簡単に放り出すつもりはないんだ

またちょっと無理言って、携帯もちゃんと教えてもらったし

あとは、そうだな

さっさと二輪の免許を取りに行こう

年齢的に大型には届かないけど、とりあえずは中型に乗れるようになろう

そうすれば、またチャンスは広がるだろうから

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