|
僕はひとり
独りぼっち
それでもいいと思った
その方がいいと思った
僕なんていらないんだと思った
僕なんて邪魔なんだって思った
僕はひとり
ひとりっきりで
駅を目指した
坂の下の、もっと先の最寄り駅
家からは、随分遠い最寄り駅
でも今日は、そのもっともっと先まで行くつもりだった
どうせ独りの方がいいのだから、もっとさらに独りになろうと考えた
独りになって、あいつらを見返してやりたかった
だから、駅を目指した
家出した僕には
もう...戻る家なんてない
もう嫌だった
毎日のように勉強しろと言い続ける母親も
中学受験なんて当然受かるべきと言い放つ父親も
出来のいい、僕なんかとは違いすぎる兄貴にも
みんなみんな嫌だった
嫌で嫌で
嫌で嫌で嫌で嫌で
苛立ってムカついて腹が立って頭にきて
僕の事を、誰も、何にも分かってないじゃないか、って叫んで
だから僕は、家を出た
貯金箱を叩き割り、身の回りを整えて、財布と時計だけ持って
それだけで
家を出た
遠くへ
とにかく遠くへ行きたかった
そんな、分不相応なことを、本気で考えていた
駅には、すぐ着いた
思ったよりも、すぐ着いた
夕暮れ時の駅前は、少し人が多いように感じた
たくさんの人が、僕を不信がっているんじゃないかと、そう感じた
でも、そんなものを振り切り
僕は、切符売り場の前に立つ
それでもどこかに不安を抱えながら、料金表を見上げた
「あ...」
だけど
そこで、止まってしまった
呆然としてしまう僕がいた
何も思いつかない僕がいた
行き先がまるで思いつかない、僕がいた
手が...震えてきた
唇を...噛んでいた
鼻が...ツンとした
目が...宙を彷徨った
「っ!」
それでも、僕はボタンを押す
とにかく千円入れて、ボタンを押す
740円のボタンを押す
急いで急いで
とにかく急いで切符を買わなければならなかった
こんなとこで、止まってしまう訳にはいかなかった
そして、すぐに吐き出される切符
それを、震える拳で握り締め、改札口に向かう
足早に、改札に向かう
目を伏せて
何も考えないように
歯を食いしばって
早く、早く
早く早く
「あ...」
でも
それなのに
その歩みは...
途中で
「............」
止まって、しまった
改札のすぐ手前
後は、改札の機械に切符を入れるだけの
そんなわずかな距離を前にして
僕は、止まってしまっていた
僕は、遠くへなんて行けるほど
赤ん坊でも、まして大人でも、ありはしなかった
理解し切れていない、けれど、知らない訳でもない現実が...僕の目の前には横たわっていた
山に、登ることにした
山といっても、ハイキング程度で登れる低い山
学校の近くにある、まさに裏山
標高300mくらいのほんの小さな山
そこに、登ることにした
意味なんてない
そもそも、今の僕には、何もない
遠くへ行く勇気も
お金も
今はもう、行く当てすらも
本当に何もない
何にもなくて、何も出来ない
どうしようもなく、ダメな僕
いや
それすらも違うのか
もう今となっては、何もないと、そう思い込みたいだけ
被害者面して、同情を誘いたいだけ
心配、して欲しいだけ
「くっ...」
なんて、ちっぽけな奴なんだろう
分かってはいたけど
自分の大きさなんて分かっていたけど
それでも、あんまりに惨めで
あんまりにも愚か過ぎるじゃないか
こんな奴、いっそ死んでしまった方がいいんじゃないかとすら思えてしまうくらいだ
でも僕には、そんな大それたことなんて、それこそ出来るはずがない
僕は、家出すらまともにできない、ただの意気地なしだ
ふらふらとした足取りで、山を登る
頭がぼんやりして、脳みそにモヤがかかっている
考え付くのは、後ろ向きで、下らなくて、ネガティブなことばかり
もういい加減、笑ってしまいたくすらなってきた
そんな風に、自分に呆れ果てた頃
僕は、山の頂上に辿り着いていた
「...はぁ」
息をついて、その場にへたり込む
山を登りきった爽快感などありはしない
むしろ疲労感と空虚感が増しただけ
むき出しの赤茶けた地面に目を向けて、そのまま呆けて、そこに存在しているってだけ
もうすぐ夜になる
日は沈みかけ、辺りに夕闇が迫ってきている
もうすぐ夏だというのに、寒々とした空気が、僕の体と心を支配していた
同時に、もう何も思いつかなくなっている自分がいる
何を考えても無意味だと、そう思っている自分がいる
そのままで
時間が過ぎていった
ただただ虚無で
どこまでも無意味な時間が、刻々と過ぎていった
|