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世界の人間を皆殺しにしたい、なんて思ったことはないだろうか
私は、ある
私は人間が嫌いで、動物も嫌いで、植物だって別に好きじゃない
言ってしまえば、道端の石ころすらも、その存在を否定してきたこともある
私は、この世にするその全てが憎かった
憎くて憎くて、もうとにかく不快極まりなく思っていた
憎くて不快で腹が立って、どうしようもなく気持ち悪かった
もうこの手で、その全てを八つ裂きにしてしまいたいほどに
...だから、なのかもしれない
これは、ある意味で言えば、報い、ということになるのだろう
人を呪わば穴二つ
情けは人のためならずの真逆の意
どうやら私は神様に嫌われて、どこぞの悪魔の隣にでも腰を下ろしてしまったようなのだ
気づけば私は悪魔の友人になっていて、知らぬ間に悪魔に魅入られていた
だったらそんな私は、もうとっくに人間ではないのだろう
言うなれば、私は人間などではなく
生きている真似をした...ただの、呪い人形とでも呼べばいいのだろうか
事の発端は、7年前
私は、ある病に冒される
心臓病
簡単に言うと、私は、そんな病気を患ってしまった
詳しい病名なんて知らないし、覚える気もない
そんなのは意味のないことだ
ただ、その頃の私はまだ10歳で、とても自分の死に向き合えるほど強くはなく、むしろ世界を呪うことの方が容易かった
けれどもしここで、ちゃんと病気に向き合っていれば、もしかしたら別の未来があったんじゃないかって、たまに思うこともある
やはり意味はないのだけど
ちなみに私は、これでも良家のお嬢様という奴で、その歳まで何不自由なく生きてきた
欲しいものは、望めばいくらでも手に入ったし、食事も朝から晩まで専属シェフなんてものにわざわざ作らせていた
親ではなく、自分自身に仕える人間もいたし、自分に媚を売ってくる人間もいた
社交界に出れば、もう当然のように人気者だ
それだけの器量はあったつもりだし、自分が何者かも理解していた
橘家当主の娘
私はそれ以上でもそれ以下でもなかった
父は厳しかったし、母も優しくはなかった
けれど私は、橘家の人間としての自覚があったし、父と母の期待に答えるつもりもあった
だから私は、何一つとして欠点などなく、完璧な人間であろうとしていた
どこまでも完璧で、誰からも敬意を表される存在
そうあることが、私にとっての普通だった
でもまさか、それが長く続かないなんてこと、本当に夢にも思っていなかったのだけど
ある時、私は胸に不可思議な痛みを覚える
妙な違和感のある、激しい痛み
恐怖とも言える、断続的な軋み
そこから私の中の何かが、少しずつ少しずつ、けれどついに徹底的に壊れてしまったらしかった
ええ、もう本当に、何もかもが完全におかしくなり始めていた
発症当初
皆、私のことを心配してくれた
皆、すぐに良くなると励ましてくれた
また、一緒に学園に行こうって応援してくれていた
私自身もそう思っていた
すぐに元通りになって、みんなと一緒に学園に通えると...
すぐに助かると...そう信じて疑っていなかった
例え心臓病なんて大病であっても、治らない筈がない
日々医学は進歩しているし、いくらでも助かっている例はある
まして、橘の人間であるこの私が死ぬなんてありえない
父も母も精一杯私を助けてくれるだろうし、それ以外の人たちも、懸命に私を助けてくれる手段を探してくれている
だから私にも、そんな助かっている例っていうものが、当然に用意されているものだと、普通に思っていた
まぁせいぜい、助かるためには、私の体が多少なりと傷つけられることに我慢しなければならないんだな、なんてつまらない感傷に浸っていたくらいだ
ともあれ実際、ドナーからの心臓提供さえあれば、特に問題はないはずだった
日本の法令制限により、当時の私では現実的不可能であったとはいえ、海外であれば、十分に手術を受けることが可能なはずだった
莫大な費用がかかってしまうけれど、それでも助かるはずだった
なのに...
「お嬢様のお体は、その、少々特別な部類なもの、でして、その、適応する型が、人よりも限られておりまして、ええと...例え海外であったとしても...」
親の前で、冷や汗を流しつつオドオドと説明する専属医
自分の身を第一に考えるなんて、医者の風上にも置けない、ムカつく専属医
でも、そいつの挙動それだけで、どんな結果なのか分かってしまっている自分がいた
どうやら私は、そう簡単には助からないらしい状態にある、と
奇跡でも起これば或いは、なんて、運頼み神頼みでしか助からないような、死に掛けの状態にあると...要は、そういうことだった
その日から、皆の態度が一変する
毎日のように私を見舞いに来てくれた人間達は、一人、また一人と来なくなり
私の周囲にいた取り巻きも、あっという間に私を見限った
果ては、あれほど信頼し尊敬していた両親ですら、すでに私を諦め始めていた
あれほどに、橘家の人間として努力して生きてきた私を、諦め始めていた
そうして私は、少しずつ少しずつ、誰からも見捨てられ
誰からも、忘れさられていった
たかが心臓病にかかった程度の事で、私は、世界から孤立してしまったのだ
世の中を心から呪い始めたのは、この頃
自分の生を存分に楽しむ奴ら
ただ、愚鈍に日々を垂れ流している奴ら
生きていて楽しいなんてホザく奴ら
生きるのがつまらないなんて抜かす奴ら
笑ってる奴ら
泣いている奴ら
怒っている奴ら
悲しんでいる奴ら
もう、全部が気に入らなかった
未だ何かを出来る奴らが、殺したいくらい憎かった
何かが出来るのに何もしない奴らを、八つ裂きにしてしまいたいくらいに憎かった
世界の全てを、この手で完膚なきまでに引き裂いてしまいくらい許せなかった
そんな時だ
そいつが、私の前に現れたのは
「キミを、助けてあげようか...」
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