ちょっぴり不思議な小説小箱

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キミの臓物は何色か

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本文中に一部、グロテスクな表現が使われています

そういうのが苦手な人は、読まないほうがよろしいかと存じます

どうかご注意の程、よろしくお願いします
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世界の人間を皆殺しにしたい、なんて思ったことはないだろうか

私は、ある

私は人間が嫌いで、動物も嫌いで、植物だって別に好きじゃない

言ってしまえば、道端の石ころすらも、その存在を否定してきたこともある

私は、この世にするその全てが憎かった

憎くて憎くて、もうとにかく不快極まりなく思っていた

憎くて不快で腹が立って、どうしようもなく気持ち悪かった

もうこの手で、その全てを八つ裂きにしてしまいたいほどに

...だから、なのかもしれない

これは、ある意味で言えば、報い、ということになるのだろう

人を呪わば穴二つ

情けは人のためならずの真逆の意

どうやら私は神様に嫌われて、どこぞの悪魔の隣にでも腰を下ろしてしまったようなのだ

気づけば私は悪魔の友人になっていて、知らぬ間に悪魔に魅入られていた

だったらそんな私は、もうとっくに人間ではないのだろう

言うなれば、私は人間などではなく

生きている真似をした...ただの、呪い人形とでも呼べばいいのだろうか






事の発端は、7年前

私は、ある病に冒される

心臓病

簡単に言うと、私は、そんな病気を患ってしまった

詳しい病名なんて知らないし、覚える気もない

そんなのは意味のないことだ

ただ、その頃の私はまだ10歳で、とても自分の死に向き合えるほど強くはなく、むしろ世界を呪うことの方が容易かった

けれどもしここで、ちゃんと病気に向き合っていれば、もしかしたら別の未来があったんじゃないかって、たまに思うこともある

やはり意味はないのだけど

ちなみに私は、これでも良家のお嬢様という奴で、その歳まで何不自由なく生きてきた

欲しいものは、望めばいくらでも手に入ったし、食事も朝から晩まで専属シェフなんてものにわざわざ作らせていた

親ではなく、自分自身に仕える人間もいたし、自分に媚を売ってくる人間もいた

社交界に出れば、もう当然のように人気者だ

それだけの器量はあったつもりだし、自分が何者かも理解していた

橘家当主の娘

私はそれ以上でもそれ以下でもなかった

父は厳しかったし、母も優しくはなかった

けれど私は、橘家の人間としての自覚があったし、父と母の期待に答えるつもりもあった

だから私は、何一つとして欠点などなく、完璧な人間であろうとしていた

どこまでも完璧で、誰からも敬意を表される存在

そうあることが、私にとっての普通だった

でもまさか、それが長く続かないなんてこと、本当に夢にも思っていなかったのだけど

ある時、私は胸に不可思議な痛みを覚える

妙な違和感のある、激しい痛み

恐怖とも言える、断続的な軋み

そこから私の中の何かが、少しずつ少しずつ、けれどついに徹底的に壊れてしまったらしかった

ええ、もう本当に、何もかもが完全におかしくなり始めていた

発症当初

皆、私のことを心配してくれた

皆、すぐに良くなると励ましてくれた

また、一緒に学園に行こうって応援してくれていた

私自身もそう思っていた

すぐに元通りになって、みんなと一緒に学園に通えると...

すぐに助かると...そう信じて疑っていなかった

例え心臓病なんて大病であっても、治らない筈がない

日々医学は進歩しているし、いくらでも助かっている例はある

まして、橘の人間であるこの私が死ぬなんてありえない

父も母も精一杯私を助けてくれるだろうし、それ以外の人たちも、懸命に私を助けてくれる手段を探してくれている

だから私にも、そんな助かっている例っていうものが、当然に用意されているものだと、普通に思っていた

まぁせいぜい、助かるためには、私の体が多少なりと傷つけられることに我慢しなければならないんだな、なんてつまらない感傷に浸っていたくらいだ

ともあれ実際、ドナーからの心臓提供さえあれば、特に問題はないはずだった

日本の法令制限により、当時の私では現実的不可能であったとはいえ、海外であれば、十分に手術を受けることが可能なはずだった

莫大な費用がかかってしまうけれど、それでも助かるはずだった

なのに...

「お嬢様のお体は、その、少々特別な部類なもの、でして、その、適応する型が、人よりも限られておりまして、ええと...例え海外であったとしても...」

親の前で、冷や汗を流しつつオドオドと説明する専属医

自分の身を第一に考えるなんて、医者の風上にも置けない、ムカつく専属医

でも、そいつの挙動それだけで、どんな結果なのか分かってしまっている自分がいた

どうやら私は、そう簡単には助からないらしい状態にある、と

奇跡でも起これば或いは、なんて、運頼み神頼みでしか助からないような、死に掛けの状態にあると...要は、そういうことだった

その日から、皆の態度が一変する

毎日のように私を見舞いに来てくれた人間達は、一人、また一人と来なくなり

私の周囲にいた取り巻きも、あっという間に私を見限った

果ては、あれほど信頼し尊敬していた両親ですら、すでに私を諦め始めていた

あれほどに、橘家の人間として努力して生きてきた私を、諦め始めていた

そうして私は、少しずつ少しずつ、誰からも見捨てられ

誰からも、忘れさられていった

たかが心臓病にかかった程度の事で、私は、世界から孤立してしまったのだ

世の中を心から呪い始めたのは、この頃

自分の生を存分に楽しむ奴ら

ただ、愚鈍に日々を垂れ流している奴ら

生きていて楽しいなんてホザく奴ら

生きるのがつまらないなんて抜かす奴ら

笑ってる奴ら

泣いている奴ら

怒っている奴ら

悲しんでいる奴ら

もう、全部が気に入らなかった

未だ何かを出来る奴らが、殺したいくらい憎かった

何かが出来るのに何もしない奴らを、八つ裂きにしてしまいたいくらいに憎かった

世界の全てを、この手で完膚なきまでに引き裂いてしまいくらい許せなかった

そんな時だ

そいつが、私の前に現れたのは







「キミを、助けてあげようか...」

ある雨の夜のことだった

そいつは唐突に

しかしこれ以上ないというほど相応しい、どしゃぶりの雨の日に、私の前に現れた

後ろでは雷が鳴り響き、そいつの登場をとても上手く演出していたと思う

しかもその姿は、まさに不吉そのもの

黒いコート

黒のシルクハット

サングラス

黒のブーツ

そんな、全身黒ずくめの姿をした

しかも歯をむき出しにして笑う、そんな見ただけで気持ち悪くなるような大人が、そこにはいたのだ

そしてそいつは、言った

「キミを、助けてあげようか...」

何の嘘もなく

何の誇張もなく

何の感慨もなく

何の優しさもなく

ただ普通のことのように

そいつは言ったのだ

「キミ、死にたくないんだろう?」

「あ、あなた誰よっ!?」

あまりの突然の出来事に、私は何の対応もできない

せいぜい、自分の身を包む毛布を、自分に手繰り寄せただけだった

「別に誰でもいいじゃないか。私はただ、キミを助けたいって、それだけを考えている人間さ」

絶え間ない気持ちの悪い笑顔で、そいつは私に言う

私は、その不吉を心から気持ち悪い生き物だと感じていた

「どうだい?死にたくなんてないだろう?何も恥じる事はない。だってそれは当然のことなのだから」

「ふ、ふざけないでよっ!あんたなんかに私を助けられるはずないじゃない!そんなことより早く私の部屋から出て行ってよ!!私の前からいなくなってっ!!」

私にはその不吉が分からなかった

理解できなくて怖かった

もう意味不明で恐ろし過ぎた

「おやおや、せっかくのチャンスを見逃すのかい?そいつはあまりに勿体無いと思うのだけれど」

不吉はそう言って、懐からタバコを取り出して火をつける

そして、深く吸ったかと思うと、天井に向かって大きく白い煙を吐いた

その笑みを浮かべた口から吐かれた白い息は、有毒ガスか何かとすら思えてしまう

「や、やめてよ!タバコなんて吸わないで!!それよりさっさと出て行きなさい!でないと人を呼ぶわよっ!!本当に呼ぶんだからっ!!」

本当は呼べるかも分からなかった

誰か呼んでも来てくれるなんて思えなかった

それでもあの瞬間の私は、もしもを信じて、世界に呼びかけていたと思う

本当ならもっと早くに、そうすべきだったのかもしれないが...

「おお、怖い怖い。なら、さっさと出て行くから、その前に一つだけ、一つだけでいいから、私の質問に答えておくれよ」

大袈裟に肩をすくめながらの、まるで演技のような言葉遣い

「な、なによ、質問って」

「何、簡単な質問さ。キミは死にたいか、それとも生きたいか。その二択問題という奴だ」

にやけたそいつの意味不明

それが一体、何になると言うのか

その質問で、こいつは私が助かるとでも言いたいのだろうか

そんなことありえない

そんなの、ありえるはずがない

ありえてしまう訳がないだけど

「そ、そんなの生きたいに決まってるじゃないっ!!あんたバカじゃないのっ!?」

だけど、その時の私は、そう答えていた

さっさと目の前の不吉に出て行って欲しかっただけなのだけど

全くそいつの言うことなんて信じていなかったけれど

或いはもしかして

私の中に、得体の知れない何かにすらも、すがってしまう気持ちが、無くはなかったのかもしれない

「ふふふ...そうか。それは良かった。それならキミは、もうこの後すぐに、間違いなく助かるよ...」

「え?あなた何を言って?」
「ふぅぅぅぅぅぅ〜〜〜...」

そいつは私の質問になんて答える気などなく、その口から、大きく白いガスを噴出す

タバコくさい、不愉快な有毒ガス

それは、一瞬私の視界を遮ったかと思うと

「...えっ?」

次の瞬間には

その黒く意味不明な不吉は、私の前から掻き消えていた

私は、自分の目の前で起きた出来事に、とてもじゃないがついていけず、ただ呆然としていた

とにかく今の自分を保つことしか出来なかった

「な、んだったのよ。今の...」

そして、ようやく言葉を発したその瞬間

ドンドンドンドンドンっ!!!!

「っ!?」

突然、ドアを乱暴に叩く音が部屋中に響いた

何度も何度も激しく叩かれる部屋のドア

「な、なにっ!まさかまたあいつがっ!?」

正直もう気が気でなかった

病魔を抱えた心臓が恐怖に大きく震える

もう今度は、とても理性を保っている自信はなかった

ドンドンドンドンドンっ!!

「ヒナタっ!!ヒナタっ!!」

「...え?」

けれどその激しいノックの正体は、さっきの不吉などではなく、私のよく知る父の声だった

そして父は、まるでドアを蹴破るように、慌しく私の部屋に飛び込んできて、私にこう言った

「心臓がっ!心臓が移植が出来るぞっ!お前は助かるんだぞヒナタっ!!」






手術は、滞りなく進んだ

すぐさま移植の準備やら、渡米の準備だとかは行われ、着々と手術の日に近づいていった

もう誰もが、この私のために動いてくれていた

見捨てられていた、なんて思っていたけれど、ちゃんと私のために、事を進めてくれていた

これに感謝しないなんて、そんなことありえない

ありえない

ありえない、だけど...

それでも私の頭には、得体の知れない不安だけしか、思い浮かんでこなかった

何故こうも、あの不吉が言ったように、助かりそうな道筋が整っていくのか

実は、私の周りのどこかに、あの不吉が潜んでいるのではないか

気づけば私は、あの不吉に何かをされてしまっているんじゃないか

そんな不安に、私は、ずっと怯え続けていた

こんな偶然はありえない

もうどう考えても、あの不吉がこれに関わっているはずなのだ

ならば、何かが起こるに違いない

何かが起こらなくても、何かを求められるに違いない

それは何?

あの不吉が何を求めると言うの?

お金?

私自身?

橘家の財産すべて?

もう次々と、嫌な想像ばかりが私の頭の中を駆け巡っていく

だって命が助かるなんて、そんな代償

そんなもの、早々ありえるはずがない

だから私は、最後までその手術が安全なものか、私に適合するのか、ドナーの方に問題はなかったのかなど、知りうる限りにおいて、調べるようにお願いした

何度何度も調べてもらって、何とかこの恐怖を取り払おうとした

けれど、返ってくる答えは「問題ありません」のただ一言

本当にちゃんと調べたのか甚だ疑問だったが、それでも私は、その言葉を信じる以外の方法はなかった

大丈夫と、何度も自分を言い聞かせる以外の方法を、何も思いつかなかった

いや...

それに目の前に


生きられる


なんて希望があるにも関わらず、それを放棄するなんてこと

とてもじゃないが、出来やしなかったのだ

助かるかもしれない可能性を、見限ることなんてできなかったのだ

しかして、私は手術の日を向かえ

予想していた不吉の、不振な行動はとくになく

周囲にも誰も怪しい奴なんてのもいない

淡々とした時間の中で

私の手術は、無事...成功した

あの不吉が言った通りに、私の命は助かったのだ

「ふ〜ん。なるほどね」

その人、鬼司谷玄治(きしたに げんじ)さんは、私の話にそんな相槌を打っていた

興味なさ気に

つまらなさそうに

面白くもなんともないように

今にも欠伸でもしそうなくらい無気力に

私の話を聞いてくれていた

「............」

こうして話をするのは、一体何年ぶりだろう

もうずっと、人との会話なんて必要がなかったから、何やら新鮮な気分ですらある

考えてみると、ざっと4年ぶりくらいだと気づき、思わず苦笑してしまった

「まぁ、予想通りっちゃ予想通りか」

「...何か、分かったんですか?」

しかも、今まで誰一人として理解してくれなかった、いや信じてもくれなかった話を

私の目の前のその人は、さも当然のように分かってくれていたのだ

嬉しくないはずがない

「そりゃな。こいつは俺の専門だ。まして自分の商売事となりゃ、分からないわけがない」

「商売、ですか...」

それは、一体どんな商売だと言うのか

一気に、この人に対して抱いていた安心感が消えうせる

人の命を弄ぶなんて、とても普通の売り買いとは思えない

「あ、いやいや、そう怪しまないでくれ...あ〜、つっても無理か。怪しさにかけてこの商売以上のものなんてそうはねぇしな、うんうん」

自分でもそう思う、みたいに頷くその人

その仕草には、どこか子供っぽい印象が垣間見えている

つい気を許したくなる、不思議な雰囲気

会話するのは初めてだけど、もう随分長い事、この人は、こんな私に話しかけてくれた大事な客人なのだ

かれこれ、今日で一ヶ月ほどになるだろう

そんな人を怪しむだなんて、それはやっぱり失礼に当たる

まぁ、今の今まで心を開いてなんていなかった自分が言うのも何だけど

「...あ、いえ、ごめんなさい。お気を悪くしたのなら謝ります。でもその、やっぱり...」

とはいえ、もしもこの人の言う商売が、あの不吉と関わりがあるというのなら、それはやはり怖い

私はあの不吉のせいで、私はこんなことになってしまっているのだから

「あ、いいよいいよ。気にする必要なんてない。そういうのにゃ慣れてんだ。ああ、言ってしまえば、ある一種の職業病とさえ言えるな、うんうん」

またも子供っぽく頷くその人

どうしてこの人は、私をこんなにも不思議な気持ちにさせるのだろうか

「キミが会ったっていう不吉な男は、確かに俺と同業だな。会ったことはないけど名前は確か、骸場不気味(むくろばぶきみ)、いや〜、ニックネームか何かは知らんけど、ホント不吉な名前だよな」

「骸場、不気味...」

そいつが、わたしをこんなにした張本人の名前か

「まぁ、目的としちゃ、取り扱うには厄介なその心臓の処分兼、最悪は娯楽だった。ってとこか」

「娯楽って...そんなの」

なによそれ

私が、あんな奴の娯楽道具に使われたって言うの?

しかも、あんな惨劇を娯楽扱いにして?

「信じられない...何なんよ。それって」

「...だな。奴の噂って同業だと結構入ってきてさ。えげつない奴だよ。マジでさ」

「............」

「まぁ、ともかく移植から約6年、か...つ〜ことは、相当辛い目に合ってんだよな?いや、正直俺が来るのが遅過ぎだ。せめて5年前に出会いたかったよ」

「...ぁ」

この人は、何でも分かっているんだ

あれは、やはり起こるべくして起こったということに

「通称『道連れ』それがキミに移植された心臓の名前だ」

「みち、づれ?」

「そう、道連れ。まぁ、これはもうそのまんまの意味だね。その効果は、自分の死の際、他人を巻き添えにして徹底的に殺しつくす、なんてそういう物騒な代物さ」

「............」

その道連れ、という言葉に、あの忌まわしい過去が思い起こされる

気づいた時には、もう手遅れだった

気づいた時には、もうあんなことになっていた

もしも、それを知っていたなら或いは...

いや、例えそれを知っていたところで、私には何も出来やしなかったのだろう

「過去、その心臓に関わった人間は、俺の知りうる限りキミを含めて9人。被害者数2800人以上。その殆どが死亡。いや全く、大した威力だと思うぜ実際」

「そんな、に...」

そんなたくさんの人達が、この心臓のせいで人が死んでいるというのか

普通はとても、そんなの信じられる話ではない

「でもそれが現実。夢みたいな本当の話。まぁ、キミなら多分、それも信じられる話、なんだろうけどさ...」

「............」

その通りだった

例え誰が信じなくとも、それは私だからこそ信じられる、紛れもない真実

自分のこの目で直視した、凄惨な事実

5年前のあの日に起こったあの出来事を見てしまえば

いかなる惨い数字であっても、真実味を帯びた、現実のものであると、無理やりにでも理解できてしまうのだ






あれは、手術が終わってからの約一年

私はその日まで、とても普通に過ごしてきた

普通に朝起きて

普通に学園に通い

普通に友人同士との楽しい時間を過ごし

普通に両親と、今まで通りの暮らしを生きてきた

その日その日を大切に、とても普通に生きてきたのだ

以前は、常に恐れていたあの不吉も、あの夜以降、私の目の前に現れてはいない

いや、むしろあの黒い人は、実は私を救うために、神様が使わした天使だったんじゃないか、とさえ思ってしまっていた

...一瞬でも、そのように思ってしまった自分を、私は許せはしないだろう

そして、その手術成功から丁度一年たったあの日

みんなは、手術後一年のお祝いにと、盛大にパーティーを催してくれた

橘の邸宅の一番大きな部屋を丸ごと使って

あちこちの壁にリボンを飾りつけ

幾つ物豪勢な料理が、大きなテーブルを所狭しと彩って

その中央のテーブルには、もうそれは本当に、とてもとても大きなケーキを、私のために用意してくれていた

私自身も、純白の、まるでウエディングドレスみたいな綺麗なドレスに身を包み、あたかもお姫様のような心持で、パーティーを楽しんでいた

友人達もこぞって参加して、あの多忙な両親さえ、私のことを祝ってくれていた

私は、もう涙が出るくらい嬉しくて

みんなと一緒に楽しんで、みんなと一緒に喜びを分かち合った

なのに

なのに突然

あまりに突然に、私の心臓が、再び痛み出したのだ

一年前に感じた、あの違和感のある...いや、それ以上の痛みが、私を襲い掛かっていた

嘘、と私は思った

どうして今更、と私は嘆いた

まさか、またあの暗く一人ぼっちの世界に戻るのか、と

また、あの絶望した毎日に戻ってしまうのか、と

あんなにも苦しい毎日を、再び続けることになるのか、と

そんなのは嫌だ

絶対に嫌だと思いながらも

私は

成す術もなく

保つべきだった、意識をあっさりと失った

その後に、それ以上の絶望が待ち構えているなんて、思う余裕は欠片ほどもなく

どれくらい、意識を失っていたのだろうか

私は唐突に、目を覚ました

理由は分からないが、ともかく生きてはいるようだった

それに不思議と、さっきまでの胸の痛みは治まっている

安心した

どうやら、今の自分に異常はないようだ

おそらく今のは、ただの貧血か何かだったのだろう

きっと、色々疲れていたせいで、あんな妙なことになったのだ

だったら、きっとみんな心配している

なら早く起きて、みんなを安心させてあげなくちゃ

なんて、そんなことを思っていた

まどろむ意識の中で、そんな間の抜けた事を、考えていた

もうあまりに間が抜けていて、その目を開くまで、倒れていた自分を、誰一人として、介抱してくれていないことを、何の疑問すら感じ取れずにいたのだ

何故か濡れている床に両手を付きながら

何故か誰の声も聞こえない、静かな部屋の中を

何も考えずに

何も感じず

ただ、真っ直ぐに見つめてしまったのだ

「......え?」

自分の目に飛び込んできたのは、ただ一面の、赤色世界

赤くて赤くて

赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて

赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くて赤くてどこまでも真紅に染まった、紅蓮世界

血で

血で血で血で血で血で血で血で血で血で

血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で血で、誰か大勢の人間の血によって真っ赤に染め上げられたパーティー会場

今はもう、ただの生臭い臭いに包まれた、かつてパーティー会場だったはずの場所

今はもう、ただの腐敗した何かが散乱する、気持ちの悪い空間

見れば、私の純白のドレスも...

ううん、それどころか、顔も頭も手も足も、今やただの赤く血塗られてしまっている

それに、そう...

その部屋のあちこちには

何か恐ろしく、やけに気持ちの悪い形をした

そして、やはり赤く染まっている

形も定かではない、異形の物体が無数に転がっているのだ

もう本当にあちこちに

あちこちにあちこちに

あちこちにあちこちにあちこちにあちこちに

とても数えきることなんて出来ないくらいに、かつて体のある部位だったはずのものが、果てしなく転がっていた

例えば、何かに助けを求めいるかのように、鍵詰め状になっている手だとか

例えば、ふともも付近からふくらはぎにかけて、パックリと肉と骨がむき出しになっている脚だとか

例えば、上半身と下半身が、それぞれ逆向きになったままイスに据わっている胴体だとか

例えば、さっきまでお腹の中にあった筈の、でも今はぶち切れたまま散乱している誰かの小腸やら大腸だとか

例えば、歯をむき出しに目玉も無く、血の涙を流したまま、転がっているかつて友人の顔だったものだとか

例えば、顔の上半分と下半分が真っ二つに分かれたまま、それでも私を見ているかつて父親だった筈のものだとか

例えば、頭がはじけて、その脳みそが飛び散り、その脳みその破片を口にくわえている母親だったものだとか

例えば、例えば、例えば、例えば、例えば、例えば...

そんな、挙げてしまえば、数限りないほどの、かつて人間だったものが無数に

もうとても人間だなんて呼べない、異形の物体が無数に

赤く染まった、もう赤いだけの、臭気を放つ何かが無数に

無数に無数に

無数に無数に無数に無数に

とにかくどこまでも無数に

その、私の目の前に

確かに無数に、気持ちの悪い、かつて人間だったものが、あった...のだ

「い、い、い、い、い、いいいいいいいい...」

「いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい...」

「い、いいいいいいいいいいいやややああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!」

思い出しただけでも、あの気持ち悪さが蘇る

口に手を当てないと、戻してしまいそうになるほどだ

「ああ、5年前のその日についても、一応調べてある」

その人は、淡々と続ける

「橘家所有の屋敷において大量殺人事件が発生。被害者数は屋敷にいた38名中37名。その全員が死亡。みな、その全身をとても鋭利な刃物で分断され、あるいは非常に強い衝撃により破壊され、直視できないほどの惨状であった。原因はその一切が不明。警察では何者かが、集団で犯行に及んだものとして、全国的に捜査を開始。ただ一人の生存者である橘日向が何かしらの事情を知っているものとして、彼女の意識が戻り次第事情を聞く方針。尚、橘宅以外でも、同様の殺害方法にて83人以上が何者かに殺害されている事件が起きている。主に橘日向の通っている宝仙学園の教師等の関係者に多く、何者かによる怨恨の可能性もあるとされて...と、まぁ頭がこんな感じかな」

「............」

概ねその通りだ

意識の戻った私に、すぐに警察に事情聴取を受けた

たが、意識を失っていた私に、その詳細なんて語れるわけもない

私が知っているのは、私が意識を失っている間に、みんながああなってしまったことだけだ

一応念のため、あの不吉な男についても言及したが、それについては取り合ってもらえなかった

「まぁ、キミはその後、ともかく橘家の財産を相続し、あまりキミ自身とは縁が深くはないこの、八崎家、に引き取られることになった、んだよな?」

「...はい。そうです」

今私がいるこの部屋は、八崎家所有のもの

かつての家は、すでに人手に渡ってしまったらしい

ともかく私は、あれから5年間をこの部屋だけで生活している

あてがわれたのは、まるで屋根裏部屋みたいな薄汚れた部屋

よく苦慮してしまうことがあるが、まぁでも、それは仕方がないのだろう

こんなもしかしたら殺人犯かもしれない私だ

そんな私なら、こうして引き取ってくれただけで由としなければ

「ふん、そういうもんかね?その八崎家の人間ってのは、俺が言うのもなんだけど、相当に酷い人間だと思うぞ?キミ本人は、こんな明るいだけの陰湿で汚くて埃まみれでカビ臭い部屋に押し込んで、とりあえず食事の支度だけは、雇った人間に用意させて、本人達は君の両親の遺産をじゃんじゃん使い込んで働きもせずに豪遊三昧。なんて、とても下らない生き物だと個人的には思うけど」

「............」

それは、確かにその通りだ、と思う

けれど、そんなのはどうでもいいこと

もしも、あの惨状を引き起こしたのが私なら、と考えた私にとって、この今の状態こそが、間違いなくベスト

とにかく私は、もう金輪際誰とも関わらない方がいいと判断したのだ

あれだけの被害者が出ておきながら、私だけが生き残っている、というだけで疑いは十分だった

しかも、橘家以外も含めて、あの日に死んでしまった全員が、私との何らかの接触のあった人物だった

先生を初め、当時のクラスメイト数人、学園の先輩、あの日の少し前まで私に仕えていた使用人、果ては学園で飼っていたウサギでさえも犠牲になっていた

中には全く知らない人間もいたのだが、きっとそれは私が忘れているだけなんだと思う

だから私は、これ以上の被害を出さないようにと、この5年という時間を、可能な限り人との接触を避けて生きてきた

中には、死なずに生き残っている人たちも少なからずいたのだが、どうしてその人たちが生き残っているのかは結局分からなかった

だからこそ私は、誰とも言葉も交わさず、誰にも関わらず、身の回りのことは出来る限り自分で行い、かつ、誰にも接触をさせない空間を用意してもらうことを条件に八崎家に遺産を分与した

これは言わば、自業自得のようなもの

「う〜ん、まぁそれは確かに、概ね正しい対応だったと思うよ。『道連れ』はね。キミが触ったことのある生き物に対して発動するものだ。握手、ボディタッチ、肩がぶつかった、そんな程度のことで十分なくらいのね、でも、たったそれだけのことで、その人の体の中には間違いなく、致死性の高い時限爆弾がセットされてしまう」

「う、そ...」

そんなことで?

たったそれだけのことでみんなが?

あんな、簡単に?

「ああ、ホントのことさ。『道連れ』はね。その心臓の鼓動によって、言っちゃえば魔力、みたいな呪いを、血液に乗せてキミの体を循環させる。それが、誰か生き物の体に触れる際噴出して、他者に移ることで、その呪いを撒き散らすんだ。しかも移植から丁度一年後に持ち主を仮死状態にさせて強制発動させるオマケつき」

「そ、そんな、バカみたいな話...」

「信じられないかい?でも、キミの目の前で起こったのは惑うことなき現実さ。あの日に死んだ人間はね。人間、動物、或いは植物であれなんであれ、キミが心臓移植を受けた日からの一年間の間に、触れたことのある生き物なんだよ」

「............」

そうか

だからあの日に死んだのは、比較的親しい人物や、私が世話をしたことのあるウサギだったりしたのか

つまり逆を言えば、私が知っていても触れた事のない人であれば、生き残っていることにもなる...

「あ〜、まぁだからさ、こうして一つところに隔離されるっていう、キミの対処法は基本的に正しいことになるね。いや賢明だと思うよ?」

「そう、なんだ...」

それについては、一応安心していいことなのだろう

私は奇しくも、もっとも正しい判断をしたことになる

いわゆる不幸中の幸いとでもいう奴か

「ふむ、ちょっとは、納得できたかな?そりゃ何よりだ。うんうん」

またも子供っぽい彼の頷き

それだけで、何となく心が落ちついてくるから不思議だ

「まぁともかく、僕としてはようやくこうして、キミと会話が出来たんで、さっさと治療に入りたいところなんだけど。いいかな?」

「......え?」

え?

え?

今、この人は、何て言ったの

今まさか、まるで私が、治るみたいなこと、を言わなかった?

え?

うそ?

そんなの...

え?

でももしそうなら、それって...つまり?

つま、り?

え?

「うん、治るよ。しかもあっという間にね。特に手術することもないし、傷なんて作らない。そうだね。ぱぱっと後10秒で完了できるくらい簡単だね」

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