ちょっぴり不思議な小説小箱

人との繋がりを大事にしていきたいと思ってます。ご訪問、お待ちしてます♪

マヒルノマツリ

[ リスト | 詳細 ]

海辺の道を少年はつまらなそうに歩く
遠目に祭りの縁日が見えた
少年は、なんとなくそこに向かって歩いていた
記事検索
検索

全1ページ

[1]

マヒルノマツリ(1)

波の音が聞こえた

すぐそばを、浴衣姿の、僕と同い年くらいの子達が二人で駆けて行った

その顔には満面の笑みが浮かんでいるようだった

なんとなく、冷めた目でその子達を目で追う

右手のインスタントカメラがきしむ

夏休み

今日は、この近くでお祭りが開かれているらしい









『マヒルノマツリ』








海辺の土手を歩く

土手の下には砂浜が広がっていた

その向こうには海

少し、波が荒れている気がする

空を見上げると、真上にギラギラと暑苦しい太陽が浮かんでいた

あつい

あつくてたまらない

「あつい...」

口にしてみる

暑さが変わるわけでもない

一瞬でいいから気温を0度にしてくれ、と心の中で愚痴る

言葉にはしない

意味も無い

ただ、そうやって愚痴って、勝手にふて腐れていたいだけだ、というのも自分で分かっていた

「...ったく、なんでこんなとこに」

一人愚痴る

隣には誰もいない

親も妹も、当然友達も

ここは、知らない場所

知らない海

知らない街

「何も無いな。ここ」

そうはいうものの、自分が住んでいる場所と比べて、何かが違うわけでもなかった

街の感じは、むしろここの方が街らしい

「はぁ...」

暑さとうんざり感にまた溜息をついた

今回の旅行には、最初から乗り気ではなかった

そもそもの目的が墓参りで退屈なものだというのも分かっていたからだ

車で何時間もかけて親戚のおばさんの家に行って

二時間ぐらいお墓の掃除をして

居心地悪いおばさんの家で、親達が話している一、二時間ぐらい黙ったまま足を投げ出していた

まぁ、お菓子が貰えたのは嬉しかったけど

それでも退屈である事には変わらない

家までの帰り道、温泉宿に泊まることも分かっていた

これは悪くは無いと思った

広いお風呂は気持ちが良かったし、夕飯は豪勢だった

ファミコンがないのは、少し残念だったけど

ともかく今日、やっと家に帰るらしい

ただ、帰るのは夕方になってから

早く帰ろうと何度もねだったがダメだった

今、親と妹は温泉に入っている

僕も誘われたけど、お風呂はいいや、という気持ちと、親への反抗心から、一人外に出る事にした

かといって、別に遊ぶことは余り期待していない

ただ、右手に持ったインスタントカメラ

残り枚数が3枚

その残りを、使ってもいいのかを父さんから了解を取っていた

こういった機械的なものは好きだったし、シャッターを切る瞬間の感覚も好きだった

カメラの中から機械的な音がするのも、なんだかカッコよかった

いつもは写真は父さんが撮っていたので、ちょっとした憧れもあったのかもしれない

試しにカメラを覗き込む

その先には歪んだ感じに見える海が映っていた

試しに一枚撮ってみようかとシャッターに人差し指を置いてみる

でも、止めた

残り枚数が3枚

大切に使いたいと思った






祭りの会場は、少しだけガヤガヤしていた

でも、祭囃子は聞こえないし、露店はまだやってはいなかった

だけど、あちこちからたこ焼きや焼きソバの香ばしい匂いが流れてきてもいた

「まだ、か」

つまらなげに呟く

海辺の道を歩いていると、砂浜の向こう辺りに、赤、青、黄色、緑のいくつかの屋台が見えた

さっきの浴衣姿の子達を思い出し、何となくその場所に歩いてきていたわけだが

どうやら、お祭りはまだ始まってはいないようだった

ちょっと不思議に思ったのは、砂浜の上に幾つ物屋台が並んでいることぐらい

他のお祭りでは、道端に並んでいる事が多かった気がしていた

でも、それだけだ

何も無い

つまらない

お祭りは嫌いじゃないし、もしかしたら楽しめるかと思ったが、結局退屈なままだった

何気なく、またカメラを覗き込む

そこには、忙しそうに準備する何人かの大人たちが見えた

別に撮る気は無かった

大して面白いとも思わない

これなら海でも撮った方が良いか、なんて思い歪んだレンズを覗き込んだまま、ぐるっと半回転してみる

たこ焼き、りんご飴、くじびきの屋台が右に流れていく

そして、屋台と屋台の真ん中にできた道が見えてくる

そこに

「あ」

パシャッ

「「え?」」

ウィーン

「...あ゛」

機械的な音が鳴り終わる

残り枚数が...2枚になった

一枚は、青い浴衣姿の女の子の写真となっていた






「あちゃ〜、押しちゃった」

頭を掻きながら残り枚数を確認しようと、名前も知らないシャッター下の歯車をジリジリと回してみる

やっぱり2枚

「ねぇ」

「え?」

急に声をかけられた

視線の先には、可愛い感じのピンク色のサンダルが見える

目線を上げると、そこにはさっき一枚写真を撮ってしまった浴衣の女の子が立っていた

「もしかして今、私とった?」

「え?あ、うん」

「ふ〜ん」

声をかけてきた浴衣姿の女の子

僕より背は低い

ただ、その表情には何も見えない

まさか、勝手に撮ってんじゃないわよ!とか怒るつもりなのだろうか

しょうぞうけんのしんがいよ!とかいってお金をせびるつもりだろうか

...さすがに、な

そんなわけないよな?なんて思いながら内心ドキドキしてしまう

「な、なんだよっ。なんか文句あんのかよっ」

強がりだった

普段、こういった乱暴な言葉は使わないのだが、舐められるのは嫌だった

同い年くらいの女の子に負けるのは嫌だった

ただ、目の前の背の低い女の子より優位に立ちたいと思っていただけだった

「ううん、そんなのないよ?ね?それよりカメラ持ってるんだねっ」

「え?あ、うん」

でも、そんな僕の態度をなんとも思わない女の子

それよりも、ただ興味深そうにカメラを見つめていた

その目には、どこか期待の色が浮かんでいる気がする

なんだか調子が狂う

そもそも女の子と話すこと自体あまりないのだが、まして、相手はクラスメイトでもない全く知らない女の子

正直、どう対応していいのか困ってしまった

「ねぇっ?」

「え?」

「そのカメラ、使ってもいい?」

「は?」

唐突な言葉に困ってしまう

主語が無い言葉に困ってしまう

何となく意味は分かっているのだが、なんとなく、困ってしまう

「...だめだ」

困ったので、一言で済ませた

「え〜!いいじゃん!」

「嫌だよ。なんで僕がお前なんかにカメラ使わせきゃなんないんだよ」

「いいじゃん!いいじゃん!」

何度も使わせてと言葉を繰り返す女の子

「い・や・だっ!」

正直うるさかったので、ちょっと大きな声で強めに言い放った

それに、何となく妹とのやりとりと同じような感じで面倒に思ったりした

「なによ!ケチんぼ!」

「なっ?...うっさいな〜...」

小声で非難しつつ、ここは引く事にした

むかっとしたけど引く事にした

こういう時は、下手に言い争わない方がいいと妹とのケンカから学んでいた

「ほら」

カメラを差し出す

「え?」

そして、下手に逆らわない方が身の為だということも知っていた

すると、女の子はカメラをしげしげと眺めて

「...いいの?」

僕を見ながら、そう聞いてきた

僕は「うん」とよそ見をしながらに答えていた

カメラがすっと手から離れるのを横目に見ていた

「わぁ!ありがとっ!」

女の子は笑顔でそう言って、カメラをいじりだす

表面を眺めたり、空に向かって掲げたり、名前も知らない歯車を回そうとしたりしていた

そして、ファインダーを覗き込み、さっきの僕がやっていたように、くるくる回りながらレンズの奥を見つめていた

「なぁ、使い方わかってんのか?」

何となく心配になって尋ねる

でも、女の子は「分かる分かる」と相変わらず、くるくると回りながらカメラの中を見たままだった

でも、急に止まったかと思うと

パシャッ

「え?」

ウィーン

機械的な音が鳴り終わる

「あははっ!撮っちゃった〜っ!」

呆然とする僕一人

「さっきのお返しだよ〜!」

嬉々とした表情の女の子

残り枚数、1枚

2枚目は、僕の間抜けな顔に変わった

マヒルノマツリ(2)

さっきは真上にあった日が少しだけ傾いていた

でも季節は夏

まだまだ空は明るいままだ

僕達二人は、変わらず砂浜にいた

今は、海辺に置いてあったボートに向かい合って座っていた

多分、船底にヒビが入っているところをみると、壊れて捨てられているものなんだろう

歩き疲れていたので、どこかに座れるところはないかと探していたら、女の子がこのボートを指差したからだった

「ん〜...どうしようかな〜...」

ボートの上に座りながら、カメラの残り枚数を確認する

残り枚数は1枚

別に遊ぶつもりは無かった

なんとなくカメラを使ってみたかっただけだった

でも、それも残り一枚

なんとなく、使い切ってしまうのがもったいなくて、でも、他にやることが思いつかないでいた

目の前には、にこにことした青い浴衣の女の子

「お前のせいでもう一枚になっちゃったじゃないかよ」

「え〜!何それ!私のせいじゃないもん!」

「い〜や!お前のせいだ!」

「ちがうもん!」

さっきから、何度かこんなやり取りをしていた

別に本当に目の前の女の子に文句を言っていたわけじゃない

ただ、やることがなくて、でも帰りまでの時間はまだあって、どうしようかなって思っていただけだ

やる事が無くて、ついちょっとした不満を言っていただけだ

「なぁ」

「なによ?」

また文句でも言われるのかとふて腐れた顔を見せる女の子

その顔を見て、ちょっと悪かったかな、と思いながら聞いてみた

「このお祭り、いつ始まるか知ってるか?」

「お祭り?うん。えっと...5時からだったと思うよ」

5時

ちょうど、僕が家に帰る時間だった

「そっか〜...」

膝に肘をついて、目を細める

相変わらずやる事が思いつかない

「ねぇ」

「ん?」

気の無い返事を返す

「ひまなの?」

「そうだよ」

「ひまなんだ」

「そうだって」

「ふ〜ん」

適当に答えている僕をよそに、彼女は思案気に僕を見ていた

すると女の子は急に立ち上がって

「だったらさ、私と遊ぼうよ!」

膝に手を当て、前かがみになって、そう言った






それから、二人して遊ぶことにした

最初に遊ぼうと言われた時はびっくりしたが、特にやる事もなかったし、それでいいかと思った

いつもは同じ学年のやつらをばっか遊んでばかりで、今まで、特に女の子と遊ぶ事は無かった

全くというわけじゃないが、いつも野球やサッカーばかりだったので、当然女の子と遊ぶということはほとんど無かった

なのに、どうしてか、それでもいいか、と思っていた

もしかすると、僕も目の前の浴衣の女の子と一緒に遊んでみたかったのかもしれない

最初は砂浜で泥遊びだった

砂山を作って、トンネルを掘った

次は鬼ごっこ

二人だけだったけど、砂浜を駆け回った

僕が鬼だった時間の方が長かったような気がする

靴を脱いで、水を蹴りあった

僕の方が濡れている面積が大きかった

そんな風に、いつもはやらない子供っぽい事をして遊んだ

でも、楽しかった

二人して笑っていた

そうやっているうちに、太陽はさっきよりもずっと傾いていった





「あ〜、遊んだ遊んだ」

「うんうん。遊んだよね〜」

また、波打ち際のボートのところに戻ってきていた

二人して、ボートの座る部分に後ろ手に手をついて空を見上げていた

まだ、空の色は明るいが、色がオレンジに変わってきている

そろそろ時間だと思う

そろそろ、父さん達が帰りの準備をしている頃だと思う

そろそろ、家に、帰れるんだと思う

でも

残り枚数は1枚

まだ、使い切れていなかった

まだ、一枚だけ、残っていた

「お祭り...まだかなぁ?」

そう呟いていた

「うん。そうだね。そろそろじゃないかな」

屋台の方を見ると、さっきよりも人が増えている

浴衣姿の同い年くらいの子供達

キャラクターもののわたあめをぶら下げている子供達

お面をかぶっている子供達

屋台を眺めたり、たこ焼きを食べたり、お酒を飲んでいる知らない大人たち

つい、ポケットを探ってみる

さっき濡れたせいで、ちょっと湿っていた

取り出したのは、253円

手の平の百円2枚と五十円1枚、それと一円が3枚だった

たぶん、足りないだろう

子供ながらにそう思った

なぜだかちょっと、悔しかった

何度ポケットを探っても1枚も増えないのが悔しかった

すると、突然

「あ...」

その手の上に、もう3枚が増えた

百円玉が、3枚

「これで、買えるかなぁ?」

そう言ったのは、青い浴衣の、僕よりもすこしだけ背の低い女の子、だった

「行こうよ!お祭りっ!」

女の子は笑顔でそう言って

突然僕の手をとり、お祭りの方に引っ張っていこうとしていた

僕も、いつのまにか、ボートから立ち上がって、女の子と一緒にお祭りの方に走っていた

僕を引っ張る女の子の手は、柔らかくて、あったかかった

その後、二人でたこ焼きを買った

おじさんから「仲がいいな」と言われた

一つしか買えなかったけど、二人で分けて食べた

他の屋台も見て回った

金魚かわいいねと女の子は言っていた

くじ引きやりたいなと僕は言った

わたあめ食べたいねと二人して頷いた

その間、ずっと手を握っていたままだった

時間は...5時を過ぎているようだった

「............」

お祭りの真ん中で僕は立ち止まっていた

周りの大人達が、僕達の横を通り過ぎていく

「あれ?どうしたの?」

女の子は、不思議そうに僕を見ていた

「あのさ...」

小さな声だった

「ん?な〜に?」

「そろそろ、帰んなくちゃ...」

「あ、そうなんだ」

「うん」

そう言って、僕は女の子の手を放した

女の子も僕の手を放した

「............」

なんだか、さびしかった

手を放した事も、多分、これでもう会えなくなる事も

なんだか、とても、さびしかった

だから

「あのさっ!」

「ん?な〜に?」

そう、首をかしげる女の子に

「写真...撮ってもいいよ」

そう、言っていた

「え?いいの?」

最後の一枚だけど

「さっきの、たこ焼きの、お礼...」

そう、言っていた

これが、別に何のお礼になるわけでもない

三百円の代わりになるわけじゃない

でも、それくらいしかできなくて

それくらいしか、もってなくて

「わぁ!ありがとうっ!」

それでも、女の子は笑ってくれて

僕は女の子が笑ってくれて嬉しいんだけど

なんだか、無性に、くやしかった

「どうしたの?」

そんな表情が出てしまっていたからなのか、女の子が聞いてきた

僕は何でもないような顔をして

そう、強がって

「なんでもないよ」と、言った

「ふ〜ん?」

女の子は僕の顔をしげしげと見つめると、すぐに踵を返し

「あの、お姉さん!」

横を行き交っていたお姉さんに声をかけていた

「あのね?写真をとって欲しいの」






残り枚数は0枚

こうして、最後の一枚も無くなった

僕は、父さんのところに戻り、その日の内に家に帰った

遅くなって心配したじゃない!と二人に怒られた

それは車の中でも続いた

妹は、僕よりも小さいくせに我関せず見たいな感じで眠っていた

こうして、退屈だった、でも楽しかった旅行は終わった

残り枚数0枚のカメラは写真となって、僕の撮った3枚の写真と一緒にアルバムの中に収められた

屋台の真ん中を歩く浴衣の女の子と

間抜けな顔をした僕

それと、お祭りの真ん中で、二人手をつないで写っている写真

よそ見をしている僕と、笑っている青い浴衣の女の子

全1ページ

[1]


.
シャッフル
シャッフル
男性 / A型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
友だち(33)
  • 沙奈♪**
  • sky
  • クレア
  • papiko
  • 琉歌
  • かかし
友だち一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

Yahoo!からのお知らせ

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!
話題の新商品が今だけもらえる!
ジュレームアミノ シュープリーム
プレゼントキャンペーン
ふるさと納税サイト『さとふる』
お米、お肉などの好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事