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僕は雪だるまになった

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僕は、温かい手に作られた雪だるま
でも、どうして僕はここにいるんだろう?
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僕は雪だるま

あの日からここにいて

あの日からずっと、僕はあの女の子を見ていた

「............」

あの女の子も優しそうな顔で僕のことを見ている

そして、その女の子に僕は温かい手のひらで撫でられた

そういえば、あの日...僕はこんな温かい手のひらで作られたんだ





『僕は雪だるまになった』





「お母さん?」

「............」

「お母さん?何を作ってるの?」

「............」

「お母さんってば?」

「...よし、できた」

「え?何が?」

「ふふふっ...ほら」

僕は『おかあさん』と呼ばれた人の温かい手で作られた...

その『おかあさん』は僕の事を持ち上げて、一人の女の子の前に出される

「あ...雪だるま?」

ゆきだるま...その女の子が僕を見てそう言った

それが僕の名前なんだろうか

「ええ、そうよ...この前、あなたが外で雪だるまを作っている子供達を見て、とても羨ましそうな顔をしていたから...」

「......うん...そう......だったね」

「それに最近、春美は雪にも触って無かったでしょう?」

「あ...そういえば、そうかも」

「ずっと病院の中だったし...」

びょういん...

なぜだろう...僕はその言葉がとても気になった

「それが、やっと自宅療養になって...しかも今年は、積もるくらいに雪は降ったから...それでね?」

「うん...そっか...私ってそれくらい長い間...病院にいたんだよね...」

「春美......いつか...ううん、きっとすぐに、あの子たちみたいに外に出て、これより大きな雪だるまを作れるようになるわよ」

「うん...そうだと...いいな...」

二人の顔は微笑んでいたけど、僕にはとても寂しそうに見えたんだ







そして、あの日から僕は、透明なガラスの外側にある狭い隙間に置かれて、ずっとこの女の子の様子を見ていた

柔らかそうなベッドの上で横になっている女の子の名前は『はるみ』

はるみはずっとここにいて、大半の時間を眠って過ごしている

そしてたまに、こうして僕の近くに来て僕の頭を撫でてくれた

その手は温かくて、優しくて...僕はこの時間が一番好きだった

「ねぇ...」

僕の事をじっと見て、はるみが話し掛けてきた

「...雪だるま君は...外に出たい?」

そと...

「外に出て...いっぱい遊んでみたい?」

外...きっと僕の背中越しにある世界の事だと思う

だけど僕は、その世界を見た事がない

僕の世界のすべては、目の前にいる女の子の部屋だけだ

「私はね...外に行きたいんだぁ...外に出て、普通に中学校に通って、友達をつくって、そして、みんなで遊びたい...」

はるみは少しだけ悲しそうな顔をした

僕はそれが嫌だった

たまに、僕のことを見てくれるはるみは、僕のうしろにある世界を見て...いつもこんな顔をする

最初の頃、僕ははるみにこんな顔をさせる外の世界が嫌いになりそうだった

でも

「あっちに、誰かが雪で滑り台作ったんだって!」

「それってホントー!?」

「ホントだよ!だから早く行ってみようよ!」

僕の後ろから何人かの元気な声と足音が聞こえる

「ふふっ...いいなぁ...」

はるみはこんな時、嬉しそうに笑う

少し寂しそうにも見えるのだけど、その顔は...とても穏やかだった

とても、優しそうだった

「私...あんな元気な子供達を見ると...嬉しいんだぁ...それは、ちょっとは羨ましいけど...でも」

はるみは、その元気な声のする方向を目で追っていく

「でも...あの子みたいな元気な声を聞くと、私も元気になれそうな気がするから...」

賑やかな声がしなくなると、はるみはとても寂しそうな顔をする

でも、すぐに微笑んだ

「あっ...雪だるま君もまだ元気でいてね?最近はとっても寒いし、よく雪も降るから直してあげられると思うけど、暖かくなってきたらもう会えなくなっちゃうんだから...」







数日が過ぎた

僕の体は、最初の頃に比べて小さくなってきているのかもしれない

それでも、はるみは毎朝ちゃんと僕の近くに積もった雪で、僕のことを直してくれている

最近は僕の側に積もる雪が少なくなってきて、おかあさんに雪を集めてくれるようにお願いしているようだ

でも、今朝はまだ直してくれていない

はるみはずっとベッドと呼ばれる台の上で眠ったままだ

「ぅ...ぅぅ...」

時折、とても苦しそうな声をあげている

どうしたんだろう?

いつもより、体の調子が悪いのだろうか?

「うう...あぅ...」

その声がだんだん大きくなってきた

とても、とても辛そうだった

でも、雪だるまである僕じゃ、はるみに何もしてあげられない

何かをしてあげたいのに、背中をさすってあげたいのに

「うう...くる..しい...」

歩く事も出来なければ、木の枝で出来た手を動かす事も出来ない

僕には何もできず、ただ...はるみをじっと見ていることしかできなかった

「おかぁ...さん...」

小さな声でおかあさんを呼ぶが、その声はあまりに小さくて届かない

僕が変わりにおかあさんを呼んであげたいが、僕には喋る口がない

「おか......さん...」

カチャ

その時、部屋のドアが開く音がした

「はるみ?おはよ...」

ガシャン!!

おかあさんは手に持っていた朝ごはんのお盆を落としてしまった

でも、おかあさんはそんな事を気にせずにはるみの側に駆け寄る

「はるみ?はるみっ!?」

「...おかあ......さ...ん」

「大丈夫?どこが痛いの?」

「心臓...が...」

はるみは胸に手を当てた

その言葉に、おかあさんの顔が青ざめる

「わかったわ!...すぐに救急車を呼ぶから!...少しだけ待ってて!?」

でも、すぐに気を取り直して、おかあさんは部屋から出て行った

「...くる...し.........いた.....い...」

はるみは目をぎゅっと瞑っている

とても痛そうに、辛そうに、目を瞑っている

でも、やっぱり僕は...ただはるみの事を見ているだけしか出来ない

それが、とても辛かった

はるみがいなくなって、また数日が過ぎた

誰もいないベッドを見て僕は、とても悲しくなる

僕の体は、寒さが続いているので、まだ形を止めているが、片腕が落ちてしまい、顔も崩れてきている

何故か、それが僕の泣いている顔なのだと思ってしまった

カチャ

その時、部屋の扉が開いた

はるみ!?

僕はそう思ったが...

「............」

そこにはおかあさんが立っていた

その頬には、涙が伝っている

おかあさんは、その顔を拭いもせず、部屋の中を見回していた

しばらくその場に立ち止まったままだった

でもその後、ゆっくりとはるみのベッドに近づいていく

そして突然、崩れ落ちたかのように床に膝をついて、そのベッドの上に顔を伏せた

「おねがいよ...おねがいだから...」

おかあさんが顔を隠しながら、くぐもった声で何かを言う

「これ以上私から...大事な子供を奪わないでっ!!」

!!

その言葉に、僕は...

僕の中の何かが...動いたのを感じた

何かが、僕の中で強く強く叫んでいるようだった

「お願いよ!!私から...はるみを奪わないでっ!!」

おかあさんが泣き叫んでいる

どうしてだろう...そのおかあさんの姿が...とても、とっても悲しかった

今までにないくらい、悲しかった

「はるみ...はるみ...」

はるみの名前を呼び続けるおかあさん

なんでだろう...僕は...知っている

知っているんだ...その...お母さんの悲しそうな姿を...

「なんで...なんでよ...」

ベッドに伏せるおかあさん

涙を流して、喉が枯れるくらいに泣き叫んで...

「あの時もそう...」

あの時...

「まだ小さかったあの子を...」

小さい...子?

それは...誰?

「元気に走り回っていたあの子を...」

元気に...走り回る...

「あの子...あの子を...」

............

「雪兎をっ!!!」

!!!

ゆき...と...

その名前を聞いた途端、目の前が真っ白になった

声が聞こえてくる

誰かの声

優しい声

暖かい声

それは...







「ゆきちゃん?」

「なーに?」

「ゆきちゃんはどこに行きたい?」

「んんーとね...ええっーとね...」

「私、遊園地がいい!!」

「あっ、お姉ちゃん!?勝手に決めちゃずるいよ!?」

「ふっふーん。こういうのは早い者勝ちなのよ?」

「うぅ...でもいいや。僕もお姉ちゃんと一緒でゆうえんちがいい!」

「ふふっ...ゆきちゃんはいつもお姉ちゃんと一緒ね?」

「だって僕もゆうえんちに行きたいんだもんっ!」

僕とお姉ちゃんの二人はお母さんにお願いして、その日は家族四人でゆうえんちに行く事になった

お父さん

お母さん

お姉ちゃんに...

そして...



僕...



あの時の僕は小学一年生で

お姉ちゃんは、その時もう小学生5年生だった

その頃お姉ちゃんは体が弱くて、よく病院に行っていたけど、もうすぐ治るってお医者さんに言われていた

その気の早いお祝いとして、僕達家族4人で遊園地に行く事になったんだ

「ゆきぃー?」

「なに?お姉ちゃん?」

「そんなに早く走っちゃダメだよ?」

「?...なんで?」

「だって、こんなに雪が積もっているから、滑って転んじゃうよ?」

「ああ...そっか...うん。わかったよ!」

僕はお姉ちゃんが大好きで、お姉ちゃんの言うことは何でも聞いていた

本当にいつも、お姉ちゃんにベッタリだった

「うん!ゆきはいい子だね?」

なでなで

「へへへー...」

お姉ちゃんはよく僕の頭を撫でてくれた

そんな大した事でもないのに、いつも優しく僕の頭を撫でてくれた

僕は、そうやって頭を撫でられるのがとても好きだった

とっても、大好きだった







「あぁー...楽しかった!」

僕ははしゃいでいた

その日初めて、僕はジェットコースターに乗れたんだ

今まで、少し小さめの僕は一度もジェットコースターに乗った事がなくて

いつも悲しい思いをしていたけど

でも、なんとかギリギリで身長が足りた

初めて乗ったジェットコースターはとっても怖かったけど、とっても楽しかった

それに、自分が大きくなっている事も嬉しかった

だから、とってもはしゃいでいて...

周りが見えなくなるくらいに嬉しくて...

だから...



「ゆきーーーーーーっ!!!!」

お姉ちゃんが何で叫んでいるのか分からなかった

その顔は、とても驚いているように見えた

キキキィィィ――――!!!

「え?」

ガンッ!!

突然、僕の体が宙に浮いて

何が起こったのか、わからなくて

ドサッ

僕は何もできないまま、気づけば雪の上に転がっていた

「ゆき...」

横たわった僕がお姉ちゃんの声がした方を見る

「...っ」

その顔は、僕の事が見えていないような感じだった

いつもよりも、ずっと大きな目で、ずっと遠くを見ているようだった

「ゆきちゃん!?雪兎!!?」

いつの間にか、お母さんが側にきていて、僕に声をかけていた

「雪兎!!しっかりしろ!!」

あのいつもしっかりしたお父さんも、いつに無くうろたえている

なんでみんなが、そんなにも慌てているのか分からなかった

(大丈夫だよ...)

僕は声を出そうとしたが、それは言葉にならない

(大丈夫...)

僕はそれでも伝えようと、口を動かした

その間もみんなは僕に声を掛けてくれていた

何度も

何度も

ゆきと、って

(みんな...しんぱいしないで?)

(ぼくは...だいじょうぶだから...)

(今は...目が見えなくなってきてるけど)

(もう...いたくないし...)

(だから...泣かないで?)

(お願いだよ...)

(おねがい...だから...)

僕は何も言葉に出来ず...意識をなくしていった







そして僕は...その日...



世界から、いなくなった...



でも、僕の心はここに、みんなの側にあって、みんなの事をずっと見つめていた

でもお姉ちゃんは、僕がいなくなってせいで、どんどん元気をなくしていった

もう少しで治るはずだった病気は、少しずつ悪くなっていった

だから...お母さんはとっても辛かったんだと思う

あの時、僕は見てしまったんだ

僕の部屋にあるベッドの上

そこには泣き叫んでいるお母さんがいて

それなのに僕は...何もできなくて...

一言も声を掛けてあげられなくて...

大好きなお母さんが泣いているのに、慰めてあげられなくて...

大丈夫だよ......って言ってあげることもできなくて...

だから僕は...

僕は...







僕はずっと願っていた

死んでしまったあの日から、ずっと願っていたんだ

もう一度、お父さんと遊びたい

もう一度、お母さんと話したい

もう一度、お姉ちゃんに頭を撫でてもらいたい

僕はもう一度、みんなに会うことを願い続けていた



でも、その想いとは逆に、時間が経つに従って、僕は自分の記憶を失っていった

自分が誰で

なんで、この家族の近くにいるのか

どうして、こんなにも悲しいのか

僕は何も分からないのに、この場所を離れる事が出来なかった...

そんな日々が過ぎていく中、お母さんがお姉ちゃんのために雪だるまをつくっていた

それを見た僕は...

何かを考えるでもなく、その中に入ったんだ







(お母さんっ!)

僕は声に出したかった

お母さんはあの時と同じように泣いている

お姉ちゃんが僕のせいで辛い思いをしている

だから...

だから...

(お母さん!)

(僕に気づいて!)

(僕のことを見て!)

(お母さんっ!!)

届かない言葉

伝えられない想い

僕は...また大好きなお母さんに何もしてあげられない...

今の僕は...ただの雪だるま

体も動かせない

言葉も持たない

何一つできる事のない

ただの...雪だるま...

こんな...こんな辛い事があるだろうか

大事な人たちが、こんなにも辛そうにしているのに、何も出来ないなんて...

何も...伝えられないなんて




カタッ

(あ...)

突然、ベッドに伏せっていたお母さんが立ち上がった

そして、ゆっくりと僕の方に近づいて

窓を開けた

(...お母さん?)

「雪兎...」

(え?)

「雪兎...お姉ちゃんを守ってあげて?」

お母さんが僕を持ち上げて、そう言った

(...お母さん...もしかして...僕に?)

「雪兎...お願い...」

(お母さん...)

お母さんは僕の体を大切そうに抱き締めてくれた

(......あかあさん)

分かっている

お母さんは、僕が雪兎であることに気づいていない

ただ、雪だるまを通して雪兎を感じようとしているだけなんだ

僕に、気づいているわけじゃない

でも

(お母さん...)

(ありがとう...)

(僕...行ってくるよ...)

(お母さん...会えて...僕に話し掛けてくれて...嬉しかったよ...)

僕はそっと...その体から抜け出した

自分の事が分かったおかげで、僕は雪だるまから外に出ることを思い出していた

そして、お姉ちゃんのところに向かった

病院だ

僕が消えた場所

そして、今...お姉ちゃんがいる場所







「ふむ...少しは落ち着いてきた...でも、ここからが山場だ...」

「...そうですね」

「君、この子のご両親に連絡してくれないか?」

「はい、分かりました」

お医者さんと看護士さんがそんな会話をして、病室を出て行く

「............」


お姉ちゃんは病室のベッドで、何も語ることなく眠っていた

(お姉ちゃん...来たよ...)

僕は、眠ったままのお姉ちゃんのすぐ側に立って

(お姉ちゃん...)

僕はお姉ちゃんの頭をそっと撫でた

(お姉ちゃん...大丈夫...大丈夫だよ?)

(僕が...お姉ちゃんを助けるから...)

(何も心配しなくてもいいよ?)

(すぐに良くなるから......ね?)

僕はお姉ちゃんに心の中で話し掛ける

そして、手を当てているお姉ちゃんの額から、少しずつ...僕の心を送っていった

暗い世界

何にも無くて、ただ黒い色だけが見える世界

そこにお姉ちゃんはうずくまって座っていた

だから僕は、お姉ちゃんの側によって、優しく話し掛けた

(お姉ちゃん?)

(............)

(お姉ちゃん?)

(......え?)

(お姉ちゃん...大丈夫?)

(......君は)

お姉ちゃんが両足を抱き締めたまま横目に僕の事を見る

でも、その目には、光が映っていないようだった

(僕だよ...雪兎だよ?)

(ゆき...と?)

一瞬僕の事をちゃんと見た

気持ち、瞳に光が宿ったように見える

でも、まだまだだ

(うん...そうだよ...)

(ゆき.........そっか...そうなんだ...)

でも、すぐに顔を隠してしまった

(私...死んじゃったんだね...)

(違う!お姉ちゃん、それは違うよ!)

(でも、こうして...ゆきが...)

(ううん...違う...僕はお姉ちゃんを助けに来たんだ)

(私を...助ける?...どうして?)

また僕の事を見て不思議そうな顔をする

(どうしてって、お姉ちゃんは僕のお姉ちゃんじゃないか。大好きなお姉ちゃんを助けるのに理由なんて要らないよ)

(ゆき...)

じわ...

お姉ちゃんの瞳に涙がたまっていく

(え?...お姉ちゃん!?)

(ゆき...ごめんね?ごめん...)

お姉ちゃんは、また顔を伏せた

(どうしたの?なんでお姉ちゃんが謝るんだよ?)

(だって...だって私のせいで...ゆきが...)

(そんな、お姉ちゃんのせいなんかじゃないよ!)

(ううん。私が...私が遊園地に行きたいなんていわなければ......私が、あの事故の時もっと気を使っていて、ゆきを引き止めていれば...ゆきは...ゆきは...)

(そんなことないよ...あの日は僕も遊園地に行きたかったし、事故にあったのを僕が勝手にはしゃいじゃったからだよ?)

(でも!)

(お姉ちゃん?...もうそんなことを気にしなくていいんだよ?)

(無理よ!...ゆきだって、本当は私の事が嫌いなんでしょう!?)

(...お姉ちゃん)

(いいんだよ...私の事は気にしないで...私なら...このまま死んじゃってもいいよ...)

声に力がなくなっていく

生きる力が失われていく

だから僕は、より一層優しい声で話し掛ける

そして、その後ろから、包み込むようにお姉ちゃんを抱き締めた

(あの事故は全然お姉ちゃんのせいじゃないし、僕は、お姉ちゃんを恨んでもいない)

(............)

(でも...もしお姉ちゃんが生きるのを諦めたなら、それこそお姉ちゃんを...)

(............)

(大好きなお姉ちゃんを、嫌いになっちゃうよ...)

(ゆき...)

(お願いだよ...僕にお姉ちゃんを嫌いにならせないで?)

(............)

(ね?僕の大好きな、はるみお姉ちゃん?)

(............)

お姉ちゃんは振り返って

(ゆきぃ...ごめんねぇ?ごめん......本当にごめん...)

何度も謝りながら

僕の事を、優しく抱き締めてくれた

(うん...うん...大好きだよ...とっても大好きだよ...)

(ゆき...)

お姉ちゃんは、そっと僕から体を離し、そして...そっと僕の頭に手を当てて...

(あ...)

なでなで

僕の頭を優しく撫でてくれた

(ゆき...ありがとうね...私に会いに来てくれて...)

(へへへ...)

グス...

僕は涙が出そうになるくらい嬉しかった

でも、僕はそれを堪えて

(さぁ、お姉ちゃん...僕の手を握って?)

(うん...)

僕とお姉ちゃんは向かい合って手を繋ぎ...ぎゅっと互いの手を握った

そこから光が溢れて、暗い世界を照らしていく

(お姉ちゃん...元気になってね...約束だよ?)







お姉ちゃんの夢から、病室に戻ってくる

目を開くと、そこにはどこか優しい表情を浮かべたお姉ちゃん

でもそれは一瞬で、すぐに苦しそうな顔に戻ってしまう

それにやっぱり、まだ息は荒い

(お姉ちゃん...今、助けるからね?)

僕は、お姉ちゃんの側に立って、その額に手を当てていた

(お姉ちゃん...こんなにも辛かったんだ...)

(こんなにも...苦しくて...痛いよ...)

お姉ちゃんの体と心の感覚が伝わってくる

(だけど...これからは元気になれるよ?)

徐々に、だけど全身に痛みが走る

苦しい

お姉ちゃんは、こんな苦しいのを、ずっと我慢していたんだ

(この苦しみは...僕が持っていく...)

痛みが僕を支配していく

でも、平気

これで、お姉ちゃんが助かるんだ

それなら僕は。全然平気なんだ

(さぁ...これで...もう大丈夫...)

そして僕は、お姉ちゃんの体からゆっくりと離れた

これで、僕の役目はおしまいだ

(お姉ちゃん...じゃあね...)

最後にお姉ちゃんの頭を撫でる

すると、お姉ちゃんの顔から苦しさが無くなって、落ち着いた表情に変わった

荒かった息も、今は落ち着いている

(良かった...お姉ちゃんが助かって...)

(本当に、良かったよ...)

にこっ

僕は、とても自然に、微笑みを浮かべることが出来ていた

とても、心が満たされていた

これで、もう思い残すことは...ない

きっと、これでお姉ちゃんは、大丈夫だ

お父さんもお母さんも、笑ってくれるだろう

そう思ったとき

ふっと...僕は、その場所から消えていた







「ぅぅ...」

「...春美?」

「ぁ...」

「春美!春美?分かる?...お母さんよ?」

「おかあ...さん...」

「はるみ...よかった...」

お母さんが涙を流して笑っている

つい不思議に思ってしまう

そんなに、嬉しい事があったのだろうか

「わたし...」

「春美...もう大丈夫...治ったの......あなたの病気、治ったのよ!?」

「びょうき...なおった...」

言葉の意味が理解できない

上手く、頭が働いていなかった

「そう...そうなの...ぅぅぅ...」

「............」

お母さんが泣いている

それなのに、何も考える事が出来ない

どうして...わたしは...

「春美...どうかした?...まさか、まだどこか?」

そんな私に、お母さんがとても心配そうに私を見つめていた

「あっ!!」

そこで、ふっと気づく

「春美?」

「そう、ゆき...ゆきは!?」

私は唐突に思い出しお母さんに掴みかかってしまった

「ゆき......ゆきって...雪兎...の事を言っているの?」

「そうよ!...ねぇ!お母さん!ゆきは?ゆきはどうしたの?ねぇっ!!」

乱暴にお母さんの体を揺らすが、お母さんの顔は冴えない

「...あ、ごめん。お母さん」

私は落ち着きを取り戻し、お母さんから離れた

「春美...一体どうしたの?」

そう言って、お母さんの頭を優しく撫でてくれた

安心する

「お母さん...私ね...夢の中でゆきに会ったの...」

「...ぇ」

「ゆき...その夢で私の事を助けてくれたんだ...」

「...雪兎が」

「それより、私の病気...治ったっていうのは本当?」

「ええ...本当よ」

もし、そうならきっと

「あのね、お母さん...私の病気が治ったの...きっとゆきのおかげなんだよ」

「............」

何かを考え込むようなお母さん

それは、こんな話、そう簡単に信じてもらえないとは思う

「はは...やっぱりおかしい、かな?」

「......ううん...お母さんも...そう思う」

「え?」

「お母さんもね...雪兎に会ったような気がするの」

「...お母さん、も?」

「ええ...あの雪だるま...」

「雪だるま?」

「あの雪だるまを見て一瞬......どうしてだか...雪兎に見えたのよ...」

「............」

「雪兎は私達の事を...ずっと見守ってくれていたのかもね...」

「うん...私も、そう思うよ...」

私とお母さんは、一緒に窓の外に見える空を眺める

その空には、晴れているにも関わらず、真っ白い雪が降っていた

キラキラとキラキラと、無数の光が瞬いていた

そしてなぜか、その光る雪の中を、羽ばたいていく雪の姿が見えた気がした







ここは空の上

上には真っ青な空が広がっている

下には真っ白な雲が横たわっている

(ああ...)

目を瞑ったまま、強く降り注ぐ陽射しを感じる

まぶたの裏に、鮮やかな光が満ちていく

(はははっ...気持ちいいー...)

澄んでいて冷たい空の匂いを感じた

(僕は...どこに行くのかな...)

体全身に感じる風が、まるで僕をどこかに運んでいくような気がした

(天国...なのかな?それとも地獄?)

それは分からない

だけど、心の中に、ふんわりとした優しさが満ちていくのが分かる

(どこだっていいや)

僕は何も考えない

(だって...お姉ちゃん達が幸せなら、僕はそれで十分幸せなんだもん)

優しさが体の外に出てしまいそうなほど、今の僕は幸せだった

(さぁ...僕を好きなところへ連れて行っていいよ?)

僕は風達に言う

すると

ふぁさ...

ふぁさ...

両肩から白くて不思議なものが生えているのに気づいた

(あ...)

僕は今、自分の力で風を受けて飛んでいた

もう、流されるままじゃない

(そっか...自分で決めるんだね?)

僕は他の誰でもない、自分に訊いた

(それなら...)

ふぁさ...

(行こうっ!!誰かを幸せにするために!!)

ふぁさっっ!!

ぶぁさっっ!!!!

僕は純白の翼を思いっきり羽ばたかせた

無数の羽根達が空を舞う

それはまるで...

空を舞う真っ白い雪のようだった

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